『またまた・ムンナ兄貴』 - インドにガンジー主義旋風を起こしたコメディ映画

画像 先日紹介した『医学士ムンナ兄貴』の続編、といっても、出てくるメインキャラクターが同じというだけで、お話的には前回の続きではない。本作品は単に大ヒットしたコメディ映画というだけにとどまらず、インド社会にガンジー流非暴力抵抗運動の再旋風を巻き起こしたという意味で特筆すべき映画。

 ムンナ兄貴[ムンナ・バイ: ムンバイにかけた駄洒落](Sanjay Dutt)は、ムンバイの裏社会で羽振りをきかしているやくざ。怖い物なしの彼も一つだけ悩みがあった。それは未だに嫁がいないことだ。実は彼にはあこがれの女性がいた。毎朝ラジオから流れる「グッド・モーニング・ムンバイ...」という美しい声の女性DJジャナヴィ(Vidya Balan)がその主だ。
 彼は切に彼女に会うことを願っていた。その番組でマハトマ・ガンジーに関するクイズを出すという。そしてそのクイズへの全問正解者をスタジオに紹介するのだという。彼は早速子分たちに、ガンジーについて知っていそうな学校の先生やら大学教授らを誘拐させ、子分たちに携帯電話を持たせて、ラジオ番組が始まる時間に待機。そしてクイズが始まると子分を総動員して電話をかけさせ、何とか番組に接続。そして質問が始まると、誘拐してきた者の中から、正解を知っている者に正解を訊いて、まんまと全問正解にたどり着いた。

 ともあれ、無事スタジオ招待者に選ばれ天にも昇る心地でスタジオを訪れたムンナ。予想通り美しいジャナヴィに、ご職業はと尋ねられた彼は、思わず歴史学の大学教授と嘘を言ってしまう。すると、身寄りのない、あるいは子供たちから相手にされなくなったお年寄りたちに自分の屋敷を憩いの場として提供しているというジャナヴィは、家に来て皆にガンジーに関する講義をしてほしいと要請される。思わずハイと答えたものの、彼はろくに学問を知らない。ガンジーのこともお札に印刷されているおっさん程度の認識しかなかった。
 慌てて、最近訪れる者がほとんどいなくなったムンバイにあるガンジー記念館の図書室にこもり、大慌てでガンジーの偉業に関するにわか勉強を始める。昼夜違わず何日もガンジーの勉強をしていた彼は、ある日ふと気づくと、なんとマハトマ・ガンジー[愛称バプ=国父]その人(Dilip Prabhavalkar)が横に立っているではないか。そしてガンジーは、ただ一つの条件をのんでくればムンナが望むときはいつでも来て横で彼を助けてくれるという。
 だが周囲の人にはガンジー[バプ]の姿は誰にも見えない。ただ彼の最も近い子分"回路"(Arshad Warsi)だけは、彼を気遣って見えるふりをしてくれるのだが。
 ともあれ勇気百倍となった彼は、バプの助けを借りてジャナヴィの家で無事ガンジー主義["Gandhigiri"]に関する講義を済ませる。さらにジャナヴィの出演する「グッド・モーニング・ムンバイ」に出演し、バプの助けで、ガンジー主義の立場から、悩み相談で電話をかけてくる一般リスナーに当意即妙な回答を与えて人気を博す。さらに、実業家として成功した息子からほとんど相手にされなくなり寂しくジャナヴィの家に通ってくるお年寄りに対して、ムンナはお得意の「腕っ節[Dadagiri: ここではガンジー主義という意味の単語"Gandhigiri"との対比で使われる]」を駆使して、息子に誕生日のパーティーをプレゼントさせるなど大活躍。まんまとジャナヴィの歓心を買うことに成功する。
 だが、講義が成功裏に終わった後、バプの交換条件は厳しかった。それは「ジャナヴィに真実を告げよ」というものだった。真実を告げられなければお前たちは不幸になる、とも...

 だが、自分が大学教授だと嘘をついていたと真実を述べたらジャナヴィは離れて行ってしまうだろう。どうすべきか悩んでいるムンナに、彼のワル仲間のラッキー・シン(Boman Irani)が彼が金を出すのでジャナヴィとお年寄りたちをゴアに観光旅行につれていって歓心を買い、その機会にプロポーズをしてはどうか、と提案してくる。さすが持つべき者は友達とばかりムンナはその提案に乗る。だが、それはラッキー・シンの罠だったのだ。
 実はラッキー・シンは自分の娘の結婚の贈り物(ダウリ)としてジャナヴィの屋敷に目をつけており、悪徳弁護士を雇ってその屋敷を法的に乗っ取る手はずを整えていた。ゴア旅行に彼らを招待している間に、強制的に屋敷を占拠しようと計画していたのである...

 果たしてムンナたちがゴアからムンバイに帰ると、ジャナヴィの屋敷はシンの一味に乗っ取られていた。ジャナヴィが弁護士に相談に行くと、ムンナが心配したとおり、解決には何年かかるか分からない様子。怒ったムンナが得意の「腕っ節[Dadagiri]」で事態を解決しようとすると、バプが現れてムンナに忠告する。"Gandhigiri"を実践せよと...

 Wikipedia英語版の記述によると1)、本作は2006年のインドのボックスオフィス第3位の大ヒットを記録しただけでなく、インド全体にガンジー流非暴力主義を再認識させる、非常に大きな社会的インパクトを持ったという。それまでは、ガンジー主義はインドではSatyagraha(サンスクリット語源:非暴力と真実)や単に英語でGandhism(ガンジー主義)と呼ばれていたが、本作で「腕っ節[Dadagiri]」に対比する形で新しく造語した新俗語"Gandhigiri"("ガンジーする"とでも言うべきか)が広く定着することになった。
 また、2007年にはアメリカ移民局が、合法的に滞在している在米インド人に対するグリーンカードの発給を滞らせている問題に対して、在米インド人から本作を地で行くような非暴力抵抗示威が行われたという。
 また本作の社会的影響力の大きさは国連でも反響を呼び、本作は国連で上映された初のボリウッド映画になったという。

 前作『医学士ムンナ兄貴』もなかなか面白かったが、その続編はどう持ってくるのかなというのが興味津々な点でもあった。物語的には基本的な主人公(ムンナと"回路")は全く同じながらも、前作と全くつながりはない。父親も今作では幼少時に死んだことになっている。
 大学教授を詐称する、というあたりで前作のプロットを踏襲するのかな、と思いきや、その後の展開は大きく変えてきており、前作の亜流にとどまっていないところもなかなか。そしてコメディ映画を通じて、押しつけがましくなく、しかしストレートに社会を啓蒙していこうという姿勢も、最近の日本映画ではなかなか見られないところだ(まじめに最近の日本映画をチェックしているわけではないが、比較的最近では『パッチギ』あたりか)。
 もちろんムンナ・バイが見たものは本物のガンジーの幽霊だった、などという陳腐な設定ではない。所詮幻覚であることが結末近くで明らかになる。だが"所詮"幻覚だからこそ意味を持つ結末など、脚本が非常によく練られている。そして50近くのオッサンである、ムンナを演じるサンジャイ・ダットが、50近くのオッサンとは思えないほど非常に良いし、子分である"回路"との名コンビぶりもなかなか。

 その一方で今のインド社会が抱える問題が垣間見える。子だくさんで知られたインド社会においても、孤老が問題になりつつあるようであるし、おそらく急速な社会変化に伴う価値観の急変で、子供世代と親との断絶が問題になっているようでもある。
 そしてなんと言っても、ガンジーの非暴力主義が、学校で知識としては教えられるものの実質的に誰からも省みられなくなっており、インド社会が暴力にあふれる社会になってしまった - その象徴がほとんど訪れるものがなくなったと描かれるガンジー記念館であったり、ジャナヴィに真実を告白する前のムンナの姿(しゃべるときはGandhigiri、実行するときはDadagiri)である - 本作の裏を返せばそんな現実が垣間見られる。インド社会に関心のある方には必見の映画と言えよう。

 本作のインド封切りは2006年9月1日。ボックスオフィスは11億8570万ルピー(約2609万ドル)。日本未公開。なお脚本は監督とプロデューサーであるAbhijat Joshi。プロットは監督とプロデューサーであるVidhu Vinod Chopraの共同。ちなみに、ムンナ・バイシリーズは今年第3作が製作中。

 なお、UK盤DVDはなぜかNTSC(Region:ALL)。映像に関しては、コントラストがしっかりしており、カラーも美しいので、印象は悪くないものの、やはりマスターのオリジナルデータ量が多いせいか、仔細に見ると画像圧縮に伴う荒れが気になる。せめてPALであったならばと思うところであるが。Blu-rayが2009年10月に出ているので(DVDの方はUKでは絶版の模様)、価格差が気にならなければそちらの方が望ましいかもしれない。

1)http://en.wikipedia.org/wiki/Lage_Raho_Munna_Bhai

原題『लगे रहो मुन्नाभाई(Lage Raho Munna Bhai)』英題『Lage Raho Munna Bhai(Carry on Munna Brother)』監督:Rajkumar Hirani
2006年 インド映画 カラー 144分(インド上映版)

DVD(UK盤) 
発行・発売:Eros Multimedia (Europe) 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 ヒンズー語 本編: 145分
リージョンALL 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2007年7月

『医学士ムンナ兄貴』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201203/article_3.html

『3バカに乾杯!』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201201/article_7.html


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