Post Mortem - 『ジャッキー』のパブロ・ラライン監督日本未公開映画

Post Mortem - 『ジャッキー』のパブロ・ラライン監督日本未公開映画
 2010年に製作されたチリ映画。『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』のパブロ・ラライン監督による「チリ独裁三部作」の第2作。1作目は『トニー・マネロ』、第3作は『No』で両作とも国内では映画祭公開されたが(『No』はDVDリリースも)、本作のみ一切国内公開されていない。

あらすじ
 マリオ (Alfredo Castro) は首都サンチアゴに住む司法解剖の書記官。医師が遺体を司法解剖した記録を書き留めることを仕事としている公務員である。中年の彼は、真面目であるが、仕事のせいか陰鬱であり、私生活では一人でアパートに住んでいる。彼の住むアパートの向かいには、一方、ショーダンサーであるナンシー (Antonia Zegers)が住んでおり、マリオは彼女の姿をいつも気にかけていた。ナンシーは共産党員でアジェンデ政権を支持する父と弟と住んでおり、左派家族の一員であって、左派の知人もたびたび出入りしていたが、彼女自身はもちろん左派支持者ではあるものの、さほど政治に傾倒しているわけではなかった。
 だがナンシーは職場で若手ダンサーに比べ冷遇されるようになり、憂さ晴らしに酒場に出たところでマリオと個人的に話をするようになり、彼との個人的関係を徐々に深めていく。
 だが、1973年9月11日、CIAの支持を受けたピノチェット将軍がクーデターを企てたことですべてが変わる。ナンシーの父と弟は軍に逮捕される。ナンシーはかろうじて逃れるが姿を消し、マリオは必死になって彼女の姿を探す。
 一方マリオの職場はピノチェット指揮下の軍に掌握され、そして毎日のように多数の死体が運ばれてくるようになる。そんな中アジェンデ大統領の死体が運び込まれ、解剖医とマリオは、近接した位置から銃を撃ち込まれた死体に関する死体検案書を、「自殺」に書き換えるよう指示される...

 多くの市民は、社会主義のアジェンデ政権を支持していたはずなのに、いざピノチェットがクーデターを起こして事態を掌握すると、市民の多くはそれに抗議することもせず、事態を傍観、見て見ぬふりをし、さらには社会主義者が弾圧されてもそれから目を背けたり、クーデター軍への協力姿勢まで見せてしまった... そんな事態をマリオの姿を通して象徴的かつ批判的な観点から冷徹な視線で描いた作品。ちなみに題名の"Post Mortem"は「死の後」の意味であり、アジェンデの死因が死後改竄されたこと、あるいはチリの民主主義の「死後」市民たちはどうだったのか、というような意味が込められているものと思う。

 ちなみにイギリス盤DVDにつけられた解説によると、1990年のチリ民主化の後もチリの映画界はピノチェットのクーデターや独裁に触れるような映画を作ることなく目を背け続け、ようやく2004年になって新しい世代の監督、アンドレ・ウッズによる『Machuca』が初めてこのクーデターを扱った映画だったという。それに引き続くのがラライン監督の独裁三部作であった。

 監督が本作を製作するきっかけとなったのはアジェンデ財団による、アジェンデ大統領のオリジナルの死体検案書が出版されたことであったという。その検案書には3名の人物の署名があり、2名は高名な医師であるが、もう一名は無名の人物であった。その人物の名こそがMario Cornejoであった。監督が調べてみると検視の際の書記官の名であり、当人は既に死亡していたが、子供は存命で取材することができた。そこから本作のアイディアが生まれたという。もちろん、映画の書記官は実在した書記官の名を流用しているが、映画の中のマリオ(書記官)は実在の人物とは関係なくフィクションとみるべきであろう。
 ところで、本作品を筆者はイギリス盤DVDで見たが(Network Releasing, 2012.1.23)、解像度が低い。近景はまだしも遠景は全体にフォーカスがぼけているような印象を受ける。英語版Wikipedeaの本作に関する記述を見ると、本作は16mmフィルムに35mm用アナモルフィックレンズ (しかも旧ソ連の1970年代のロモ・レンズ)を使って撮られたという。そのため、35mmフィルムなら通常1:2.35になるはずが1:2.66と非常に細長い特殊な版型になったようだ。おそらくそのためかなりフィルムの粒状が荒くなったり、色のにじみが目立ち、その上DVDにオーサリングする際、その粒状を目立たなくするために何らかのフィルターをかけた結果、全体にフォーカスが甘くなっているように見えるようになったのではないかと推測される。ただ、このような撮り方をしたのは、70年代のピノチェット政権の暗鬱な時代を描くためだったようだ。そう考えれば、画質が悪いのも監督の意図の範囲内ということになる。事実、特典のメイキング映像は非常に鮮明であった。
 アメリカのKino LorberからBlu-rayも出されているが(2012.8.12)、Blu-ray評を見るとやはりフィルムの粒状が目立つというような評になっていた。それでも画質を気にするならBlu-rayを購入したほうが良いかもしれない。

原題: Post Mortem
2010年 チリ/メキシコ/ドイツ映画 98分
カラー 1:2.66
監督: Pablo Larraín
脚本: Pablo Larraín, Mateo Iribarren

"Post Motem" Kino Lorber刊行 Blu-ray評 - Blu-ray.com
https://www.blu-ray.com/movies/Post-Mortem-Blu-ray/45323/#Review

"Post Motem" Kino Lorber刊行 Blu-ray評 - SLANT
https://www.slantmagazine.com/dvd/post-mortem/


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