恋人たちの思いへの心理主義的接近 - 台湾映画『河豚』

画像 『乱青春』の李啓源監督によるラブ・ロマンス映画。『乱青春』もいささか実験的な心理主義的アプローチが目立ったが、本作も美しい映像を駆使した心理主義的、象徴的表現で、揺れる情感を描写する。

 夫と二人暮らしの小尊(潘之敏)は、台北の百貨店でエレベーターガールとして勤務している。毎日大勢の客を前にお辞儀を繰り返す日々。彼女は大切な夫のために毎日料理を作るが、時に、あまり関心を向けないことも。また小尊がベッドに入っても、夫はいつまでもパソコンに向かっていることもしばしば。何をしているの、と問う小尊に夫は「ネットオークション」。そんなある日、夫は海で河豚の一種、ハリセンボンを釣ってきて水槽に入れる。
 小尊は、夫が釣ってきたハリセンボンを一所懸命飼おうと、ある日、同僚からシフトを交代してと頼まれて急に空き時間ができた日、水族館に向かい、飼い方のレクチャーを受ける。帰宅してみると、夫は彼女の予期せぬ帰宅に驚き慌てふためいた。夫は別の女と情交していたのだった。

 夫がベッドに入ろうとするが小尊はパソコンに向かっている。何をしているの、と問いかける夫に彼女は「ネットオークション」。そして彼女はハリセンボンの買い手を見つける。
 
 小尊は落札者(呉慷仁)にハリセンボンを渡しに、MRTに乗って郊外へ行きさらにバスに乗り換えて高原へ。バス停で待っていた彼に、彼女は私が直接水槽に入れる、と主張し、彼の住まいに押し掛ける。水槽にハリセンボンを放すと、夫との生活にもはや自分の居場所を見いだせなくなった彼女はそのまま、男と心の赴くままにファックしてしまう。そして彼女はその男、少年野球のコーチの家に居つくことを決意する。画像
 男の家の2階をあがるとそこは寝室。そこに涼しげな女性ものの服がたくさん掛けてある。彼女が着てみるとぴったり。そこへ、お隣の女性(陸弈靜)が窓越しに声をかけてくる。彼女は盲目で、小尊の声を聴いて、小尊のことを「六花」と呼びかける。どうやら出奔したコーチの妻(姚安琪)の名前らしい。彼女が顔を出すと、彼女の顔を触って、「六花、痩せたわね」と言う。そして六花に習ったというタップダンスを踊って見せる。

 それから小尊が毎日食事を作って野球コーチの帰りを待つ日々が始まる。男は時に屋台でラーメンを食べて帰ってきて、彼女の食事をとらないことも。そして彼女が片づけた六花を服を、怒って再びハンガーに掛けてベッドの周りに並べることも。男はトラック運転手と出奔した六花の帰りをあくまでも待ちたかったのだ。だが、徐々に男は小尊の存在を受け入れ始める。そんなある日...

 『乱青春』はかなり時間軸の交錯が激しく、実験的な色彩が濃かった。本作では、時間軸の交錯は影を潜め、実験色は薄まっている。しかし、やはりストーリーやリアルな演出よりは、映像による象徴的な心理・心象描写の積み重ねで表現するという、心理主義的スタイルは一貫している。従って、リアリズムよりもシンボリズム志向の作品。リアルな人間・社会関係表現に基づく物語を期待すべきではない。
 ただ、前作はストーリー自体は比較的複雑なのにもかかわらず、時間軸の複雑な工作とナレーティヴ表現の不足から、頭をフル回転しなければストーリーが追えないところがあったが、本作ではストーリーがシンプルになり、それが表現方法とうまくマッチ、バランスが取れた印象。Mise-en-sceneの良さも前作を引き継いでいる。
 ストーリー/ドラマ優先の映画やTVドラマであると、幸せな恋人たちの描写は、おおむね退屈になりがちだが(不幸やトラブルほどドラマになる)、李啟源監督の採用した心理主義的な語り口であると、素直に恋人たちの幸せな気持ちが伝わってくる(もちろん多少の波風もあるのだが)点に気付かされたのは、拾いものであった。河瀬直美の『萌の朱雀』あたりを面白く感じられる方にはお薦め。

画像 さわやかで、愛らしく、見た後に幸せな気分になれる、一陣の高原の風のような作品。主演の潘之敏も、特別に美人というのではなく、普通に美しく、普通に女性らしく可愛いという点も良い。彼女は新人で国立清華大学(台湾)経済系卒業の才媛だそうだ。脚本にも参画している(監督との共同脚本)。呉慷仁は雰囲気がちょっと阿部寛に似ている。
 また、混浴の公衆温泉浴場が出てきて、こんなもの台湾にあるのか、と思いきや日本の植民地時代に建てられたもののようだ。撮影は主に北投温泉郊外の模様。

 なお音楽を日本人の半野喜弘が『乱青春』に引き続き担当している。これもなかなか良い。そして構図の美しい撮影は韓允中。

 なお、台湾盤DVDであるが、今回はさすがにしっかり16:9との表示でアナモルフィックになっている。画質も多少輪郭強調が見受けられるが、解像度自体は比較的高く、コントラストも高め。韓国の最近のDS Media盤と傾向が似ているように思う。

原題『河豚』英題『Blowfish』監督: 李啓源
2011年 台湾映画 カラー

DVD(台湾盤)情報
発行: 演義寓樂 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1北京語
本編: 87分 リージョン3 字幕: 中/英 片面二層 2011 年 11月発行 希望価格 NT$350

『ビューティフル・クレイジー(乱青春)』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201001/article_5.html

呉慷仁出演作『愛が訪れるとき』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201110/article_14.html

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