『医学士ムンナ兄貴』 - インド版『頭師父一体』

画像 先日、『3バカに乾杯!』を評したが、この映画を演出したラジクマール・ヒラニ監督に関するWikipedia英語版の記述によれば、ヒラニ監督はボリウッド映画の革新者として高い評価を得ていると書かれているので、他のヒラニ作品をあさってみようと入手したのがこれ。
 韓国映画で『頭師父一体(邦題:マイ・ボス マイ・ヒーロー)』という、やくざが学校に入り直して騒動を起こすというコメディ映画があったが、本作はまさにこのインド版とも言うべき内容でヒラニ監督の長編デビュー作品。
 脚本はヒラニ監督およびプロデューサーでもあるヴィドゥ・ヴィノド・ チョープラ(Vidhu Vinod Chopra)、ラジャン・ジョセフ・オーメン(Lajan Joseph Oommen)の共同。

 ムンナ(Sanjay Dutt)はムンバイ(ボンベイ)の片隅で主に金融・債権トラブルを腕力で解決することを生業としているやくざ。誘拐、銃による脅迫はお手の物。怖いものなしの彼にも唯一の弱点があった。それは父親(Sunil Dutt)だ。彼の父は田舎の村の村長で、医師がなかなか来てくれないことを心配していた。だから息子のムンナには医師になってほしいと強く願っていたのだった。
 だがムンナは田舎の学校でいたずらが過ぎて退学させられ、ムンバイの学校に行くと言って田舎を出てきたのだった。そして数年前に父から連絡を受けたとき父を失望させたくなくて、やくざになっているとは正直に言えず、医師になって病院を開いていると嘘を言ってしまったのだ。
 以来、年一回の父と母(Rohini Hattangadi) の訪問時には、自分の事務所をにわか仕立ての病院に仕立て上げ、子分たちに患者の役をやらせて、自分が医師であるかのように演技してしのいてきた。今日もまた、両親がムンバイにやってくる日なのだ。
 両親はムンナがなかなか結婚しないことを心配していた。ところがムンナの家を訪問する直前に、父は家の近所の市場で偶然旧知のアスタナ医師(Boman Irani)に出会う。
 アスタナ医師は十数年前、まだ新米だった頃、村の診療所に2年間赴任し父と面識があった。そしてアスタナ医師の娘チンキと幼いムンナは遊び友達で、幼心に将来を誓い合っていた。今、アスタナ医師はムンバイで勤務しており、娘チンキも医師になっているという。
 父は、ちょうど良いと喜んで、息子も医師になるからチンキと結婚させたいと申し込む。アスタナ医師はこの近くに病院はないはず... と不審に思うが、どうやらムンバイで悪名高いムンナが彼の息子であり、そして息子が父に自分がやくざになっていることを知らせていないのだと気づき、ムンナに一泡吹かせてやろうと計って婚約を一旦お見合いを承諾する。
 困ったのはムンナ。慌てて、幼い頃分かれて以来顔も見ていないチンキに電話して、お見合いを断るよう懇願するが功を奏さず、ついにお見合いに。その結果ムンナのすべてが父にばれてしまう。肩を落として故郷に帰る両親...

 そんな中、ムンナは医大に入学し直して両親に対して面目を立てようと決意。とはいえ今の学力ではとうてい医大入学はおぼつかない。そこで勉強のできる部下に替え玉受験させるなど八方手を尽くして医大に潜り込む。
 他の医学生同様、ムンナは寮に入ることになるのだが、年を食ってやくざまでやったムンナが大人しくしている訳はない。早速ばかばかしい寮の入寮儀式をひっくり返すなどやりたい放題。秩序破壊者としての面目躍如。さらに大学の付属病院で、緊急患者に診療をするのに、診療前に長々とした書類を書かせているのを見て、ムンナの怒りが爆発してしまう。そんなムンナの姿を影でじっと見ている一人の女性医師がいた。それがチンキの「親友」だというスーマン医師(Gracy Singh)である。

 初講義の日、年を食ったムンナは他の学生から教師と間違えられたりもするが、何とか講義室の後ろの方に陣取る。その講義室に入ってきた学部長の姿を見ると、なんとそれはあのアスタナ医師。しかも患者を人間としてみるな、単なる症例として見ろ、と講義しているのを見て、ムンナの生来の反抗精神が抑えられなくなってくる...

 こうやって見てみると、本作と『3バカに乾杯!』の基本コンセプトはかなり共通していることがわかる。つまり、アカデミズムにおける世間の常識とかけ離れた点や権威主義を、痛快に撃破していくというコンセプトである。それが、やくざがアカデミックな社会に入っていくという一種の異文化摩擦的コミックが加わり、先も述べたようにインド版『頭師父一体(邦題:マイ・ボス マイ・ヒーロー)』とも言うべき作品になっている。

 Wikipedia英語版に掲載されたヒラニ監督の経歴をみると、元々大学の医学部に進みたかったのに、点数が足りなくて心ならずも商学部に進学せざるを得なかったとあるので、医学部を舞台にした本作やその後の作品のコンセプトはまさにヒラニ監督のアカデミック・コンプレックスから生まれた作品であることがわかる。

 そのような本作がインドで大ヒットし受け入れられたのも、前作の評で私が述べたように、インド社会の大きな変容、つまりインドの経済成長や大学の大衆化の始まりといったバックグラウンドの反映であるように思われる。このあたりがヒラニ監督がボリウッド映画の革新者として評価されている理由なのではないだろうか。

 もちろん、インド映画なので突然の歌と踊りは出てくる。しかしこの映画の持つコンセプトの普遍性から、従来のインド映画が苦手だという人でも十分に楽しめる痛快な作品に仕上がっていると言えるだろう。

 ちなみにWikipedia英語版の記述によると、本作は2003年12月19日封切り。インドでは2004年、ボックスオフィス第5位の売り上げを記録したということだ。またインド国内の各種の賞を受賞している。なお、原題にあるMunna Bhaiは、ムンナ兄貴(親分)の意味であるが、もちろん、都市の名ムンバイへの駄洒落。M.B.B.S.とは南アジア、オセアニアで使われる、医学士号の略称。

原題『Munna Bhai M.B.B.S.』監督:Rajkumar Hirani
2003年 インド映画 カラー 155分(劇場公開版)

DVD(UK盤) 
発行・発売:Eros Multimedia (Europe) 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 ヒンズー語 本編: 146分
リージョンALL 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2004年2月 Amazon.UK価格£14.99


『3バカに乾杯!』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201201/article_7.html

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