チャン・ツォーチ監督『愛が訪れる時』

画像 『チュンと家族』『最愛の夏』『きらめきの季節/美麗時光』等で知られる張作驥(チャン・ツォーチ)監督の第6作。独特の詩情を持つ作風で知られる。張作驥は国内劇場公開作は2作しかないが、映画祭ベースではかなりの作品が国内公開されている。

 呂来春(李亦捷)は16歳の少女。彼女が生まれ育った家は中華料理店を経営している。父の黒面(林郁順)は地域の顔役。店は彼の妻である雪鳯(呂雪鳳)が切り盛りしている。彼女も家業を手伝っているが、あまり真面目に仕事もせず男の子と遊びまわっている。彼女が惚れ込む男の子はいつもプレイボーイタイプで、ちょっと付き合っては捨てられることを繰り返しているため、周囲から蓮っ葉な女だと思われている。だが、身近にいて彼女を本当に心配してくれる男の子には関心が持てない。さらに5日前、自閉症で知恵遅れの叔父[父の弟]、阿傑(高盟傑)も家に引き取られてきた。
 そんな中、妊娠していた子華(何子華)が店の中で突然産気づき、男の子を生む。黒面にとっては待望の男の子誕生だった。そして来春にとっては16歳下の弟の誕生だった。男の子の誕生を巡る一家の様子を見ているうちに、やがてこの家の複雑な家族事情が見えてくる。雪鳯は黒面の正式夫人で一家の家計を切り盛りしている。実は、彼女の兄弟には男の子がおらず、家を継ぐものがいなかったため、やむを得ず日本で言うところの「婿養子」的な立場を受け入れてくれた黒面と結婚して家業を継いでいるのだ。だが彼女には子供が出来なかった。そして妾である子華をやむを得ず家に迎え入れ、来日(李品儀)、来春、そして新たに生まれた男の子と子供たちを産ませたのである。そんな複雑な一家が一つ屋根の下に暮らしていている。そんな家庭にあって、家の大黒柱のようにどしんと落ち着いて精神的支柱となって束ねているのが祖父の阿公(魏仁清)。
 そんな中、来春の妊娠が発覚する。だが彼女が付き合っていた牟宗福(呉慷仁)はまじめに取り合おうとしない。それどころか、別の女性と旅行に出た揚句、連絡を絶って逃げてしまった。雪鳯が何とか妊娠中絶させようと駆けずり回るが、もはや妊娠4か月で中絶は困難だと医師から告げられる。もはや来春には妊娠した子供を産むしか選択肢は残されていなかった。それまで、四六時中金切声をあげ、母親たちの心配にも耳を貸さず遊びまわっていた来春は、性格が変わったようにおとなしくなる。
 そんな中、雪鳯は黒面、子華、そして子供たちに、しばらく気分転換を兼ねて父の故郷である金門島にしばらく滞在してはどうかと提案する。黒面たちは、雪鳳の提案に甘えて、何十年ぶりに金門島に出かける。そこで水入らずの時間を子供たちと過ごす黒面。だが、来春と共に盃を交わしていた黒面は突然血を吐いて倒れる。そのことが一家の命運を大きく変えていくことになる...

 最初の数シーン分の映像と効果音楽を見聞きしただけで、既に傑作の予感がする(音楽:呉睿然、撮影:張展)。来春は、正妻と自分の母がともに一つ屋根に暮らすという複雑な家庭事情のせいか、落ち着かない。それは周囲の人々もお互いにどこか居心地の悪さを感じているような雰囲気を反映したものかもしれない。例えば雪鳳の子華や彼女の子どもたちへの態度。そして黒面の、子供が生まれたときへの雪鳳への気遣い。単純に血がつながっていて「ベタ」な家族だったら気遣わなくて済むような気遣いをお互いにしながら暮らしている。勿論その原因を作ったのは黒面の責任とも取れるが。
 だが、家族崩壊の危機を経て、そんな「仮面」家族とも見えた家族が、実は「正常」な家族も及ばないような、相互への深い理解と心情を以ってつながっていたことが(そしてそれはその成員たちも必ずしも自覚されていなかった)明らかになることで深い感動を呼ぶ。その展開をシンボライズするのが、来春の「変な」叔父、阿傑への視線や姿勢の変化。この展開・構成が見事。単純に「正常」な伝統家族礼賛でない点も良い。
 そして独特の映像に切り取られた台湾の空気感や音楽のセンスも印象深い。

 本作品は2010年東京フィルメックスにて国内上映されているが、今のところ国内での配給は行われていない。台湾では2010年10月26日封切り。台湾第47回金馬獎にて4部門で受賞。また第13回台北映画祭にても6部門受賞。

 台湾盤Blu-rayに関して言及すると、残念ながらBlu-rayの解像度を生かし切っているとは言い難い。率直に言って、同じ台湾であれば天馬行空あたりの良質のDVDをアップスケールしたものと解像度面ではほとんど変わらない。DVDの方は見ていないが、もしDVDのMpeg2エンコーディングのクオリティが高ければわざわざ高めのBlu-rayを買うほどのことはないだろう。特に台湾盤DVDはNT$299(特価設定)、Blu-rayはNT$580と価格差があるが、おそらく現地価格差ほどの画質差はないのではないかと推測される。以前紹介した『お父ちゃんの初七日』がBlu-rayらしいいかにも高精細という画像であって、DVDとかなり落差があったのに比べるとかなり違う。ただ、色彩、コントラストに関しては良好。英語字幕監修はアジア映画研究家として著名なトニー・レインズ。
 台湾盤以外のビデオディスクはまだないようである。

原題『當愛來的時候』英題『When Love Comes』監督:張作驥
2010年 台湾映画 カラー 108分(東京フィルメックス上映時間)

Blu-ray(台湾盤)情報
発行:飛行国際視聴 販売:台聖多媒体 画面: HD1080/1:1.78 音声: DTS2 台湾・北京語
本編:105分 リージョンALL 字幕:中/英(On/Off可) BD一層 2011年 1月発行 希望価格NT$580

張作驥監督第4作『胡蝶』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200812/article_7.html

公式サイト(台湾)
http://whenlovecomes.pixnet.net/

東京フィルメックス『愛が訪れる時』舞台挨拶
http://filmex.net/dailynews2010/2010/11/qa-11.html




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