歴史感覚に困惑... スタンリー・クヮンの『長恨歌』

画像 独特の美意識を持ったスタンリー・クヮン(關錦鵬)の作品。1940年代から80年代にかけてのある一人の女性の男性遍歴を描く。原作は中国の人気作家、王安憶の同名の小説(1996)。

 1940年代後半。すでに日本軍は撤退し、国民党と共産党の戦いが続く中国、上海。金持ちの家に生まれた二人の少女、王琦瑤(鄭秀文)と蒋麗莉(蘇岩)は幼馴染。そんな麗莉は写真家、程仕路(梁家輝)に夢中になるが、仕路はむしろ琦瑤に惹かれる。彼が撮った写真で上海の美人コンテストに応募した琦瑤は見事女王に輝く。琦瑤と仕路はお互いに愛し合うが、彼女が上海の美人女王になったため、国民党の大物、李忠徳(胡軍)にみそめられ、彼の妻になってしまう。
 しかたなく仕路は麗莉と一緒になるが心は琦瑤に奪われていたままだった。だが、共産党軍が近づきつつあり、金持ちたちが上海脱出を考えるようになったある日、仕路は麗莉は琦瑤と忠徳の屋敷に行く。そこで、完全に琦瑤にとって自分が必要とされていないと悟った仕路は麗莉と上海脱出を決意する(が、なぜか脱出しない)。やがて、李忠徳は追われる身となり、仕路は彼を一旦、かくまい海外脱出の手助けをする。そのとき忠徳は仕路に琦瑤に自分は死んだと伝言してくれと頼む。

 やがて共産党による解放後の1956年。相変わらず上海にいる琦瑤は自分の資産を国に奉納するとともに看護婦として働いていた。そんな時に彼女が出合ったのが、香港の実業家、康明遜(吳彥祖)。やがて二人はすぐ恋仲になり、彼女は妊娠してしまう。しかし香港の人間と結婚することはできない。仕方なく、親戚の手配で、名目上夫になってくれる人を捜し、偽装結婚し、娘を生む。明遜はたびたび上海に立ち寄ると約束した。だが、やがて突然病を得て、ほとんど訪問できなくなる。お金もたびたび送ると約束したが、2回送ってきただけだった。

 そして文化大革命。その中で、仕路は麗莉は田舎に下放されることになるが...

 ううーん、この作品には困惑させられた。いったいこの時代はいつ、と何度も叫びたい思いに駆られた。おそらく最初の場面は1947, 8年だろうが、日本軍が去って、共産党軍が近づきつつある、というのに美人コンテストをやっていたり、悠長な社交パーティをやっていたとはとても思えない。最初は1930年代かと思ったが、そうすると後が合わなくなってくる。
 それにいくら上海が好きだとはいえ、資産家たちは共産党が来たらみな国外に出ただろうに、なぜとどまったのかも理解不能。仕路と麗莉も一度は国外に出ると決めたのになぜ残ったのか、これも理解不能。しかも麗莉の親は香港に出たことになっている(私は、最初はある場面は香港での場面かと思ったが、どうやら上海の設定だったようだ)。またおそらく、李忠徳を追ったのは共産党関係者だと思われるが、まったくそうは見えない。最初はやくざか軍閥同士の争いかと思ったのだが... そういう事情説明もほとんどなく、いきなり状況だけが先行する。
 さらに、新生中国で1956年まで資産家が資産接収を逃れられたとはとても信じがたい。さらに1950年代に香港のビジネスマンがたびたび上海を訪れられたのか... とか考え出すとどうにも止まらなくなってくる。同様の困惑は、その後のエピソードでも感じる。
 さらに、鄭秀文[サミー・チェン]が上海美人コンテストで優勝という設定もどうなのか。確かに彼女は役によってはとても魅力的だが、いわゆるコンテストに優勝するような美人というタイプとは思われない。もちろん彼女の演技力に対する賞賛は惜しむつもりはないのだが...

 スタンリー・クヮン独特の幻想の中国現代史だと割り切れば一人の女性の遍歴として面白く見られるのかもしれないが、どうにも私には気になって気になって... さらに、琦瑤の生き方に対する、斜に構えたような視線は、スタンリー・クヮンがゲイであるためか(そういえば橋口監督の『ハッシュ』でも女性に対する斜に構えたような視線を感じた)。

 しかし、こんな映画見せてて、中国の若い世代の歴史感覚は大丈夫なのか?画像の美的センスは認めるのだが... なお、笑ってしまったのは、琦瑤が康明遜と出会う場面で小津映画の映画挿入曲が使われていること。どこかで聞いた曲だと思ったら...

 なお、香港盤DVDの画質は、部分的に粒状感あるテクスチュアが目立つ部分はあるが、解像度自体はかなり高い。韓国盤の『シュリ』に近い画質。最近の香港盤のクオリティの高さを示す好例であろう。なお、本作品には香港盤Blu-rayも出ているが(2009年11月発行)、希望価格ベースで、HK$290.00と約3.5倍の価格。

原題『長恨歌』英題『Everlasting Regret』監督: 關錦鵬
2005年 中国=香港映画 カラー

DVD(香港盤)情報
発行・販売:Panorama 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1/DTS 北京/広東語 本編:107分
リージョン3 字幕: 中/英(On/Off可) 片面二層 2005年 12月発行 希望価格 HK$80.00

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