極道の道に入っていく少年たちを描いた台湾映画『マンカ (Monga)』

画像 艋舺(マンカ)とは台湾、台北市万華区の一帯のこと。有名な龍山寺や、「台北の池袋」若者の集う西門などを擁する地域。マンカとは、元々は先住民の平埔族の言葉で小舟の意味。それに日本の植民地時代に日本式の漢字読みで「万華」の字が当てられたが、元々はミンナン語読みで本来の「マンカ」という地名を表すために「艋舺」の字が当てられていたようだ。現在の台北市の地図を見ると、ここを通る国鉄線を地下化して、その上に新たに建設された大通りに「艋舺大道」の名がつけられているのが分る。
 台湾映画『艋舺』は、1980年代後半を背景にこの地域の極道に入っていく少年たちの帰趨を描いた作品。『一頁台湾』と並んで2010年台湾のヒット作となっている。

 蚊子こと周以文(趙又廷)は、父親がおらず美容師の母親、小玲(林秀玲)の手一つで育てられてきたが、今までの人生、周囲からいじめられてばかり。高校も2年間で三回も転校する有様で、今度は万華の三流職業高校に転入することになった。しかも生徒たちは皆勉強する気がなく、蚊子は転校そうそうクラスの番長、狗仔孩(陳漢典)から3000元上納しろと脅迫を受ける。
 翌日金を持ってこなかった蚊子は狗仔孩に弁当の鶏のモモ肉を奪われそうになるが、取り返し、そのまま彼らの一味に追いかけられることになる。だが彼の逃げっぷり、こぶしのかわしっぷりを見ていた、学校の番長志龍(鳳小岳)に見込まれ、彼の愚連隊仲間に加わることになる。過去の学校生活で虐められっぱなしだった蚊子はそこで初めて男の友情を味わい、彼らの仲間と義兄弟の誓いを交わすのだった。志龍は、マンカを割拠する30とも70とも言われるヤクザグループのトップに立つ親分、ゲタ(馬如龍、役名の語源は日本語の下駄)のひとり息子。その威光で学校を支配し、マンカでも一目を置かれるいわば極道(黒道)界のプリンス。しかし、実質的にはこのグループを仕切るのは和尚こと何天佑(阮經天)。彼は幼少時代から切れ者だったが、占い師にこの子は大きくなると極道になると予言されていた。そのため仏具屋を営む父親が旧知のゲタに彼の後見を頼んだことで志龍と切っても切れない関係が生まれたのだ。それに白猴(蔡昌憲)、阿伯(黃鐙輝)の5人が仲間。
 そんな中、志龍の彼女が狗仔孩に強姦される。彼らは報復のため狗仔孩を捕まえるが、単に痛めつけるはずが誤って窒息死させてしまう。志龍の父であるゲタが後始末をしてくれるが、彼らの精神をたたき直す必要があると感じたゲタは彼らに山の中での極道修行合宿に行くことを命じる。結局、学校もろくに行かず街でうろつき回っていた蚊子は、蚊子の母親の願いもむなしく結局学校を退学処分に。こうして彼らは正式にゲタの子分になるのだ。
 一方、蚊子は、赤線で幼なじみの小凝(柯佳嬿)が売春婦に身を落としているのを知る。彼女を思って通い詰める蚊子と小凝の間には心休まる関係が作られるようになる。
 だがマンカを取り巻く状況は風雲急を告げていた。それまで本省人ヤクザに守られていたマンカに外省人ヤクザの手が伸びようとしていたのだ。その外省人ヤクザ、灰狼(鈕承澤)は、ゲタ、マサ(邢峰)、瘋狗(王識賢)の三人を呼び集め、提携しないかと持ちかける。実は瘋狗はマサの代わりに懲役に行って、灰狼と知り合ったのだ。だが拒絶するゲタとマサ。ここに本省人対外省人ヤクザの戦争の火種が蒔かれる... そしてしかも灰狼は蚊子の母親の昔の恋人。今も彼女の美容院の後ろ盾になっている人物なのだ... 果たしてマンカの行方はどうなるのか...?

 『風櫃の少年』で主人公を演じていた鈕承澤監督の長編第2作。言わば台湾版『ガキ帝国』か『青い春』かという位置づけの映画であるが、林書宇監督『九月に降る風』と共通すると感じられる部分も多い。『九月に降る風』が90年代台湾の言わば「チーマー」的存在の少年たちの友情を描いたとするならば、本作は80年代台湾の「愚連隊」的存在の少年たちの友情を描いたと言えるだろう。鳳小岳が両作品でグループのプリンス的存在を演じている点でも共通点が強く感じられる。そして友情と裏切りが描かれる点も。ただこちらの作品の方がストーリーが長大で(140分)、ヤクザや刃傷沙汰も絡んでシリアスになってくるし、社会的閉塞感もより強いように感じられる。
 面白いのは、本省人ヤクザの雰囲気があの『悲情城市』に描かれたヤクザの一家にとても似ていることだ。とてもアットホームな雰囲気で(映画でもゲタの一家とと共に食事をする蚊子が、ヤクザの会食がこんな雰囲気だなんて意外だった、などという台詞を吐く)、仰々しさがないのは日本の極道とは対極的。だが一旦戦争になってしまえば、どの世界のヤクザも一緒であり、その落差が意外。
 また主演俳優は皆イケメン揃いである。それに『海角7号』で活躍した馬如龍がゲタを演じており良い味を出しているのも見逃せない。

 因みにアクション監督は韓国から招き、俳優はスタントなし、ワイヤーアクションなしの、リアルアクションという点もウリの一つのようである。

 台湾の社会事情、特に黒道事情を含めて興味深く見た作品。

 なお、筆者は香港盤DVDで見たが、香港盤DVDの収録フォーマットはきちんとアナモルフィックになっている。しかし解像度がちょっと落ちる。これは推測だが、16:9アナモルフィックとレターボックスの違いが混同されがちな台湾で、素材がレターボックスで作成され、それが香港側に提供された時に、それを応急的にアナモルフィックにブロウアップして収録されたのではないだろうか?画質にこだわるなら台湾、香港から出ているBlu-rayディスクの方が良いかもしれない。
 なお香港盤は1枚だが、台湾盤は2枚組のようだ。さらに限定版としてスチールケース入りもあるようだ。

原題『艋舺』英題『Monga』監督:鈕承澤
2010年 台湾映画

DVD(香港盤)情報
発行: Mega StarVideo Distribution 発売: KAM & RONSON Enterprise 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 
音声: Dolby5.1/DTS ミンナン・北京語 本編: 140分 リージョン3 字幕: 英/中(On/Off可) 片面二層
2010年 7月発行 希望価格HK$

追記
本作品は、本年第23回東京国際映画祭特集上映『台湾電影ルネッサンス2010~美麗新世代』にて『モンガに散る』という邦題で上映が決まったようだ。
http://www.tiff-jp.net/ja/news/100916_TaiwaneseCinemaRenaissance_monga.html
但し「艋舺」の読みを「モンガ」にしていていいのだろうか(下の「万華」Wikipedia記述を参照)?たしかに、英題、アルファベット表記ではMongaになってはいるが... なんだかモモンガか、と突っ込みを入れたくなってしまう。マンカ、もしくはバンカという表記にすべきではないだろうか?地名の読み方に限らず、この邦題は勘弁して欲しい。もうちょっと考えてくれよ...
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E8%8F%AF%E5%8C%BA

追記
本作は、2010.12.18より国内一般劇場公開される。公式サイトは以下。
http://www.monga-chiru.com/
配給はブロードメディア・スタジオ

『九降風 (九月に降る風)』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200901/article_14.html

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この記事へのコメント

夏期休暇
2010年12月20日 01:12
「モンガに散る」、観てきました。リアルな乱闘シーンも多いのですが、秀逸な青春映画だと強く感じました。日曜日の最終回で見たせいか、公開2日目にして席はほとんど埋まっていませんでした。台湾映画=興行的に難しいという評価がこれ以上定着してしまうとますます日本で台湾映画を見る機会が少なくなるのではと気になりました。つい先日台湾に旅行した際、知り合った、気のいいあんちゃん風の台湾の青年がこの映画を、俺らの映画だという感じで熱烈に押していたのですが、個人的には映画の中で描かれた友情は、回想という形でのフィルターがかかっているせいか、熱いというよりデリケートでリリカルなもののように感じました。
yohnishi
2010年12月20日 07:26
当サイトをごらん頂きありがとうございます。台湾映画が興行的に苦戦している点は、私も残念に思っています。TV局が仕掛けた国内映画ばかり当たるという状況が改善して、もっと様々な映画に関心が広がってくれるといいのですが、なんか日本国内の内向きの雰囲気と連動しているようで...

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