陸川監督 『南京! 南京!』が示唆するもの

画像 すでに日本国内でも報道されているように南京大虐殺を扱った中国映画の1本。監督は日本での上映を望んでおり、日本での配給も決定したそうだが、無事公開されるだろうか?

なお、本作品については人民日報日本語版に詳細な紹介が出ている。
http://j.people.com.cn/94478/96695/6642806.html

 映画は3人の視点から描かれる、一人は抗日ゲリラ、陸剣熊、もう一人はジョン・ラーベの秘書である中国人、唐先生、そして日本兵で見習士官の角川である。話は、日本軍が南京を包囲してから、占領し、そしてジョン・ラーベらが南京を離れるまでの時間を、この三人の視点から描写する。
 まず本作品の特徴としてあげられるのは、カメラの視点が中国人からの視点、日本兵からの視点と双方からの視点が時間的に同比率に近い割合で分配されている点。多くの戦争映画が、どちらか一方からの視点で描かれ、敵側はあくまでもカメラの対象に過ぎないのに対し、本作はこの点が大きく異なる。また国民党軍の対日抗戦の模様がきちんと描かれているのも、中国映画として特筆すべき特徴だ。

 その一方で日本兵の中で感情移入可能な対象は角川一人に限られる。中国で過去の多くの対日戦争を描いた作品において、人間らしい日本人が描かれてこなかったことよりは、大きく前進しているとは言え、既に姜文の『鬼が来た』で、日本人を理解可能性のある存在として描いた試みの水準に及んでいるとは言い難い。

 陸川の日本軍の戦争犯罪は戦争犯罪として、それは必ずしも日本人自体を憎むということにつなげないという意図が(その意図自体は悪くはないと思うが)妙に浮き上がってしまっている。同時になぜ日本兵が戦闘が終了した後も民間人を執拗に虐殺し続けたのかその理由が説明されることもない。ただただ殺人マシーンとして殺していく、理解不能な存在として描かれる。辛うじて角川一人が自分が見習士官である立場上殺戮に関わらざるを得なかったという理由付けが与えられ、彼のみが人間的な苦悩になやまされる存在として描かれる。それが他の日本兵の非人道ぶりから一人浮き上がってしまい不自然な感じを与える。もちろん、多くの中国人にとって日本人の行動は理解の範囲外であったのだろうが、それでもやはり『鬼が来た』の水準は超えて欲しいところである。

 陸川の『南京! 南京!』に対する製作姿勢は、中国側から見れば、日本人を憎もうとしたり、反日を煽り立てようとするものではない。むしろ罪を憎んで人を憎まず、個々の日本人まで憎むべきではない、というメッセージを持っているとみるべきだろう。とはいえ、30万人が南京で虐殺されたという中国側の見解を否定するものでは当然なく(というより『ココシリ』もそうだが、中国政府の理想主義的な側面の見解を代弁する立場で作っているようだ)、その見解自体を中国側の反日プロパガンダと見る人々にとっては、いずれにせよ反日映画としか見ないだろう。しかし例え虐殺された人々が、30万人ではなく、10万人あるいは数万人であったとしても、それが虐殺であった事実は変わらないし、南京大虐殺がなかったことにはならない。この陸川の『南京! 南京!』における視線は、中国政府の南京事件を見る視線と一致することは、人民日報Web日本語版で大きく取り上げられることでも明らかだろう。

 しかし最大の問題は、この中国側の視線は、実は日本をただ非難することが目的ではなく、日本側との和解を探るロジックとして提示してきているにも拘わらず、日本側の数少なくない人々が中国側の日本との和解を探る動きだと理解しない・できない点であろう。
 ここには、中国側が靖国神社に対するA級戦犯合祀取り下げ要求が、実は日本側と妥協を模索する動きであるのに対し(つまり、A級戦犯合祀さえ取り下げれば、靖国神社問題に対してこれ以上どうこう言わない)、それを日本側のある人々がそう受取らないことと全く同じ構図がある。

 ただ、例え南京大虐殺を否定したとしても、旧日本軍が碌な補給も与えずに中国大陸に進軍し、現地調達で、現地の人々の食糧を奪い、強姦し、更にはスパイ容疑で多くの無辜の非戦闘員を虐殺し、それが家族の代を重ねて伝えられ根強い一般中国民衆の日本人への不信感につながっていることは否定できない。それは単に中国が自分の政権の不都合をそらすために「反日宣伝」をしているというレベルの問題ではない。ちょうど、それは我々において、日本人捕虜に対してシベリア抑留を実行したり、満州侵攻の際に婦女暴行を繰り返した、旧ソ連=ロシアに対する、根強い不信感が払拭できないのと同じである。
 そして実は南京大虐殺を認めるか認めないかよりも、そのように歴史的に形成された草の根対日不信感の払拭の困難さこそが、大きな問題なのではないか。


原題『南京! 南京!』英題『City of Life And Death』監督: 陸川
2009年 中国映画

DVD(香港盤)情報
発行・発売: MEGA Star Video 画面: NTSC/16:9(1:178) 音声: Dolby5.1 北京語
本編: 135分 リージョン3 字幕: 中/英 片面二層 2009 年 10月発行 希望価格

他に香港Blu-ray盤、US Blu-ray盤、中国盤あり

シネマトゥデイ「南京大虐殺を描く映画がついに日本で配給決定!」2009.9.22
http://www.cinematoday.jp/page/N0019790

シネマトゥデイ「南京虐殺事件を描いた中国映画『南京!南京!』が映画祭で最高賞を受賞!」2009.9.27
http://www.cinematoday.jp/page/N0019866

シネマトゥデイ「中国では不評!南京虐殺描く『南京!南京!』の陸監督受賞コメント」
http://www.cinematoday.jp/page/N0019867

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    Excerpt:  2009年ドイツ、フランス、中国の合作によってつくられた作品。「南京のシントラー」と呼ばれるジョン・ラーベの活動を描いている。香川照之、杉本哲太、ARATAら日本人俳優が出演にも拘らず、日本の配給会.. Weblog: yohnishi's blog (韓国語 映画他) racked: 2011-08-19 08:31