ベトナムボートピープルを描いた映画 『Journey from the Fall』 (2006)

Journey from the Fall画像 おそらく多くの人は「ボートピープル」という言葉は聞いたことがあるだろう。しかし彼らの実態をどれ程知っていただろうか?生活に困窮して国を脱出したらしい、程度の認識しかなかったのではないだろうか。この映画は彼らが直面した苦難に真っ正面に焦点を当てた映画である。

 ロンの一家は南ベトナム政府側の比較的裕福な家族であった。しかし1975年、南ベトナムが敗れサイゴンが陥落すると、ベトナムにとどまる決意をした彼らは社会主義政権から睨まれる立場に陥る。一家の主であるロンは再教育キャンプへ収容されいつ出られるとも分からない状態に。家族の他の者はキャンプに収容こそされなかったが、財産は没収され生活は苦しく将来の見通しがつかない状態に陥る。
 ロンは家族をベトナムから出す決意をし、妻のマイ、息子のライ、母のバ・ノイを金を払って国を脱出する漁船に乗せる。しかし小さな漁船は洋上でエンジンが故障し漂流する。実はインドシナ海域は海賊の横行する地域で、彼らの船もまた海賊に襲われてしまう...
 一方父親ロンの収容されている再教育キャンプでは脱走を試みる者が続出するが、その度に彼らの多くは監視兵の射撃に遭い命を落とす。それでも脱走の機会を伺い、ある日友人と共に脱走に成功する。しかし、ようやくキャンプから離れ川縁で一息ついたところを追跡してきた狙撃兵に狙われ...

 この映画で明らかになるのはベトナムの社会主義政府の旧南政府への対応である。社会主義政府であるから彼らの資産が接収されてしまうのはある意味で仕方のないことである。またアメリカ政府が旧南政府の人間を見捨てたというメッセージも感じ取られるが、アメリカはこの戦争の敗者であり、そのことを非難できるかというのも微妙な所であろう。 ただ旧南政府の関係者が、社会主義政府による支配の後再教育キャンプに送られ、きちんとした裁判を受ける権利も保障されないまま事実上の無期刑服役に近い状態に置かれたという人権侵害の事実が明らかにされたということは大きな意味がある。
 映画にもまた付加映像のインタビューにも出てくるが、多くの旧南政府の関係者は当初1週間から10日程度収容されると説明を受け再教育キャンプに送られた後、いつ釈放されるとも知れず何年も事実上服役させられるという状態に置かれた。付加映像のインタビューでは短い人で7年、長いと15年間も収容されていたという。また脱走を試みた人は容赦なく銃撃を加えられ殺されたようだ。 直接再教育キャンプに収容されなかった残された家族も、反革命分子と言うことで全く将来のない状況に陥っていた様だ。

 率直な話、ベトナムからのボートピープルは、贅沢な生活が忘れられず社会主義体制になじめない人たちが逃げ出した程度の認識しかなかったが、必ずしもそうではなく、命がけで逃げ出してきた背景にはやはり人権侵害状況があったという事実が改めて浮き彫りにされている。さらに新天地であるアメリカに到着しても、適応に苦労した彼らの苦境を余す所なく描いた、涙なしで見ることの難しい映画である。

原題『Vuot Song』英題『Journey from the Fall』監督:Ham Tran
2006年 アメリカ映画

DVD(US版)情報
販売: Imagin Asian Home Entertainment 画面: NTSC/16:9 音声: Dolby5.1/2 ベトナム語・英語 本編: 135分リージョン1 字幕: ベトナム/英(On/Off可) 片面二層 2枚組(本編+付加映像) 2007年10月発行 希望価格 $24.95



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この記事へのコメント

りょう
2011年02月10日 13:29
素敵なレビューですね~
この映画見て泣きました。
映画というよりも歴史そのものです。

英題『Journey from the Fall』
原題『Vuot Song(波からの脱出)』
監督:Ham Tran
yohnishi
2011年02月10日 22:03
ご指摘の通り、原題、英題、監督名がずれていました。訂正させていただきました。ありがとうございました。
りょう
2011年02月10日 23:28
こちらのレビューをwikipediaで使用してもよろしいでしょうか?英語やベトナム語には既に載ってますが日本語で多くの方に読んで欲しいです。
yohnishi
2011年02月11日 10:19
出典さえ明記していただければ、引用していただくのは差し支えありません。よろしくお願いします。
りょう
2011年02月13日 00:24
ありがとうございます。
少し時間かかりそうですがまた連絡させていただきます。

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