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zoom RSS 海外版DVDでしか見られない日本映画(4) 『黒い河』 - 小林正樹監督1956年作

<<   作成日時 : 2013/09/08 21:30   >>

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画像 戦後の様相濃い、米軍厚木基地前である大和市にあるバラック長屋を舞台に繰り広げられる、焼け跡庶民達の食っていくための「闘い」を活写した小林正樹監督作品。原作は富島健夫、脚本は『あなた買います』と同じ松山善三。本作の封切りは『あなた買います』の後の1957年。

本作品のあらすじはこちら (Movie Walker Plus)
http://movie.walkerplus.com/mv25272/

 本作の幕開けを飾る、木下忠司のジャズ調の音楽は、アプレゲールの雰囲気を印象づける。本作はアプレゲールの人間模様を描く群像劇で、そのプロットは一筋縄ではいかない。

 本作プロットの一つの線は、掃溜めの鶴的存在である静子(有馬稲子)を巡る、学生西田(渡邊文夫)と愚連隊、人斬りジョー(仲代達矢)の確執。もう一つは住民を追い出して、連れ込み旅館を建てるためにバラック長屋を売り払うことを画策する大家(山田五十鈴)と長屋の住人達のやりとり。画像

 ここに描かれるアプレゲールの日本人達の大半は誰もがひどく虚無的。掃溜めの鶴的存在である静子さえ、所詮食堂のウェイトレスであり、将来を見通せない。彼女も一旦ジョーに手籠めにされてしまえば、彼のところに嫁ごうとする存在。そしてインテリで数少ない「まともな」キャラクターである西田でさえ、学問に打ち込んではいるものの、周囲との関わりを拒絶しようとする虚無的存在。西田以外に唯一家賃を滞納しないとされる岡田(永井智雄)は、女房の稼ぎで食っている存在だし、それ以外の日本人はどれも自堕落な生活を送っている。
 ただ唯一この中で建設的に暮らそうと皆に呼びかけ、独立国日本人としての気概を持つべきだと説く存在である金賢順(宮口精二)は、朝鮮人で共産党員という皮肉。

 日本を支えていた規範・モラルが崩壊したアノミー的状況が、理念型のように描かれる。そのアプレゲール状況の中で唯一モラリスティックな存在が共産主義者の在日朝鮮人であるのだ。

 本作の前半はやや人物像が類型的(例えば手籠めにされた静子が、最早傷物になったと人斬りジョーのところに「責任を取って」と言いに行くというようなプロット)。演劇だと考えれば容認しうるのかも知れない。ただ後半、西田が静子の告白を受け、静子という存在に対して複雑な思いを抱くあたりから、だんだん物語に引き込ませる力を持つ。

 米軍基地前で連れ込み宿を建てるということは、ある意味米軍に巻かれて生きること。そして奸計にはまったとはいえ、静子がジョーの下に走ったのも、長いものに巻かれて生きる、という選択(そもそもジョーと静子の関係にも、占領軍アメリカと日本の関係が象徴化されているのかも知れない)。本作品はモラルを失い、自堕落に「長いものに巻かれて生きる」選択をした戦後アプレゲール日本人に対する痛烈な批判であろう。
 その中で、一旦はジョーに身を任せる選択をしたものの、最後に自分の存在を掛けて、何とか逃れようともがく静子の姿に次の時代へのメッセージが込められているのだと思われる。
画像
 以前紹介したシン・サンオク監督の『地獄花』と合せて見て、日韓アプレゲールの比較をして見るのも興味深いだろう。

 静子を演じる有馬稲子は宝塚出身で、当時、本映画を製作した「にんじんくらぶ」の設立者。後も映画、TVドラマと秘録活躍。そしてジョーを演じた仲代達矢は無名塾を主催し、現在も現役として小林政弘監督の『日本の悲劇』などにも出演している。インテリで虚無的な西田を演じた渡辺文夫はのち創造者の設立に参加し、大島渚映画を支える四人組の一人として活躍、『くいしん坊!万才』『遠くへ行きたい』などのTV番組のリポーターでも知られた。2004年に肝臓がんのため死去。
 なお、助演で印象的なのは、ジョーの手下で姑息なチンピラ坂崎を演じる佐野浅夫の憎々しい演技、それに女の稼ぎにすがって生きているなよなよとした岡田を永井智雄を演じているのは、後に重厚な官僚や経済人を演じていたイメージから考えると、かなり意外で拾いもの。

 因みに本作に出てくる金の「賢順」という名前は、実は女性的な名前で、さすがにそこまで朝鮮人理解が行かなかったか。

キャスト

西田: 渡辺文夫
人斬りジョー: 仲代達矢
静子: 有馬稲子
金賢順: 宮口精二
大家、幹子: 山田五十鈴
ポン引きの栗原: 東野英治郎
岡田: 永井智雄
ニセ学生坂崎:佐野浅夫
山口: 富田仲次郎
栗原妻: 高橋とよ
安井: 永田靖(?)
安井妻: 賀原夏子
医師:清水将夫(?)
お父ちゃん:小笠原章二郎
ヤスコ(岡田の妻): 淡路惠子
ジョーの愛人サチコ: 桂木洋子
パンパン宿の女将: 三好栄子
黒木(バラックの買い主): 中村是好(?)画像

 本作は国内盤DVDのリリースはなく、クライテリオン盤DVD-Box 「小林正樹: 体制に抗って」でのみ見ることができる。なお、本作は小林監督没後10周年でCS/BSで放映されたことがあるようだ。

原題『黒い河』英題『Black River』監督: 小林正樹
1956年日本映画(松竹) モノクロ 1:1.33 114分

DVD(米国盤「Eclipse Series 38: Masaki Kobayashi Against the System」DVD Box)情報
発行・発売 Criterion 画面: NTSC/4:3(1:1.33)[本作] 音声: Dolby1 日本語
本編:110分(本作) リージョン1 字幕: 英(On/Off可) 片面二層(4枚組) 2013年 4月発行 
希望価格 $59.95
※再生にはリージョン1再生可能なDVDプレイヤー等が必要


『あなた買います』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201309/article_3.html

シン・サンオク『地獄花』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201109/article_19.html

2016.11.2 国内盤発売(松竹)





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海外版DVDでしか見られない日本映画(5) - 安部公房が脚本『壁あつき部屋』
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