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zoom RSS 日本企業没落と零戦の零落の共通点 - NHK BSプレミアム「零戦〜搭乗員たちが見つめた太平洋戦争」

<<   作成日時 : 2013/08/05 19:11   >>

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 8/3の晩、たまたまBSプレミアムの「零戦〜搭乗員たちが見つめた太平洋戦争 前編」を見る機会があった(因みに自宅ではBS受信設備がないので見られない)。これをみてつくづく思わされたのが、零戦の零落過程が、日本企業の没落過程と二重写しだな、ということ。

 零戦の設計思想は、搭乗員の技量の高さを前提とした上で、防御性能、頑丈さを犠牲にしてでも、徹底的に軽量化を図り、戦闘能力、速度、操作性を徹底的に追求したという点。搭乗員の技量が高く、機体の操作性・戦闘力が高くて、攻撃能力が高く維持できれば、攻撃は最大の防御なりを地でいける、という発想だった。
 一方、零戦のライバルであったF4Fは、頑丈で、搭乗員の安全性・防御性能を重視したが故、鈍重で却って零戦の餌食になっていた。

 しかし、北千島戦線で米軍が一機の零戦を鹵獲(ろかく)してからは事態が一変する。米軍は零戦の特性を徹底的に研究し尽くし、空中戦を極力回避すると共に、零戦の弱点、すなわちきゃしゃで急降下ができないという弱点や防御力の弱さを徹底的に回避する戦法に出た。
 この結果零戦搭乗員の戦死は激増した。さらに米軍は物量作戦で大量の航空機を生産。一方日本軍は搭乗員不足のため、搭乗員が疲労の回復もままならぬままこき使われるなか、次々と戦死し、それがさらなる搭乗員の疲弊を生む悪循環。そんな中、促成された本土から到着した技量の未熟な搭乗員が戦場に送り込まれ、前線到着後まもなくばたばたと撃ち落とされる。
 零戦の強さは、元々は搭乗員の高い技量に依存しており、その技量を最大限発揮させるというのが、本領。その前提が崩れた零戦は七面鳥撃ちの七面鳥のような存在に成り下がった。

 ここで私が言いたいことは、零戦の強さは人間(搭乗員の技量)に掛かっていたにもかかわらず、そもそも日本軍に人間(搭乗員)を大切にする、温存するという発想が欠けていたということである。軍当局は、優秀なパイロットは、何か自然に生えてきていくらでも調達できるという、 山から山菜でも採ってくるような感覚(=錯覚)でいたのである。だが実際はそうではなかった。優秀なパイロットの養成には実際には実は相当なコスト(ここで言うコストとは単なる金銭的なコストだけを指しているのではない)がかかっていたので、一旦失われればその回復は容易ではなかったのである。
 つまり軍組織は自分たちの強みの源泉について、きちんと理解していなかった。このことが日本軍がその強みを温存することができず、後半戦のぼろ負けにつながっていく。

 これは、おそらく旧日本軍の強みは「現場知」に支えられていたのだが、しかしそのことが「組織知」になっていなかった、ということなのだろう。「現場知」という言葉で私が言いたいのは、現場の人たちの知恵(智慧)や工夫、技術ということ1)。それに対して「組織知」とは組織全体として自覚的に打ち出される方針や戦略、あるいはそれらを支えるものの考え方や哲学だとここで定義しておく。旧日本軍は「現場知」が「組織知」とつながりを持たなかったので、「組織知」が「現場知」を温存する方策を一切打ち出さず(精神論をぶっていればよい、程度のお粗末な「組織知」しかなかった)、それが旧日本軍の弱体化を招いたと言える。つまり、「組織知」のお粗末さが「現場知」を破壊した結果、日本軍は強みを失ったのだ。
 一方米軍では、「現場知」は日本軍より弱かった。だから「組織知」を高めなければ、そしてそれをトップダウンで組織的に指示を末端まで徹底しなければ、零戦に対抗できなかったのだ。

 トヨタ自動車に代表される戦後日本企業の「カイゼン」運動などは、いわばこのような問題点の反省の上に立つ経営術だと言える。つまり「現場知」を「組織知」に高める運動だったのである。そしてこのような経営術は、戦前のような体制に対する反省、つまり「戦後民主主義体制」を背景に生まれたのではないだろうか。もっと砕けて言えば、「カイゼン」、QCサークル運動などは、現場をろくに知らない司令官の無謀な命令に前線で右往左往させられ死に直面させられた元兵士達のルサンチマンに支えられていたのではないかと想像したくなるのだ。
 そして、人間の命を軽んじ「兵隊なんて一銭五厘でいくらでも集められる」という旧日本軍的発想に対する反省のシンボリックな最大の頂点が、ダッカ日航機ハイジャック事件(1977)における当時の福田赳夫首相の「人命は地球より重い」という発言だったと言える。

 だが今や日本企業はその強みを自ら捨てつつあるように思う。そのプロセスが零戦の零落のプロセスと重なって見える。その原因の一つは戦後の智慧を闇雲に捨てようとする「戦後の総精算」の動きだろう。これらの動きは、安倍首相のイデオロギーや自民党の憲法改定案に象徴される。もう一つは、アメリカ流の「グローバル経営」の流れである。とりあえず短期的に収益を出し、いかに株主に還元するか、ということを追求するのが企業の至上命題となる。その結果、手っ取り早く人件費を削ってとりあえず利益を確保する、というのが標準的な企業の経営手法になってしまった。
 それを可能にしたシンボリックな転換点が、国鉄の民営化であろう。特にJR当局の国労組合員に対する差別は、何度も不当労働行為と認定されながらも、彼らの政治力、および圧倒的な労使のパワー差で居直った。コンプライアンス遵守の筈の国があそこまでえげつないことをやった、ということが、民間企業にさらにえげつない労働者の切り捨てを許す契機となった。
 また「グローバル経営」の常識とされる「企業ガバナンス強化」の動きも「現場知」軽視の動きにつながっているだろう。
 それに、オリンパスに見られるように、こつこつとまじめに本業に取り組むより財テクで一攫千金した方が儲かる、というバブル時代的発想も「現場知」軽視につながったのではないか。
 日本企業には技術はあるはずなのだが、それを活かした経営ができない、という話も、経営者が保身に走っているということもあるかもしれない。しかし、そもそも「現場知」を「組織知」に吸い上げる経路が動脈硬化を起こしているからこそ、技術を戦略的に活かすことができないのではないだろうか。

 「グローバル経営」としてアメリカ型のトップダウン経営、中央によるガバナンスの強化が正しい方策だと、日本でも叫ばれるが、これらは基本的にアメリカにおける「現場知」の弱さ、非熟練パイロットの大量存在を前提とした戦略である。「ガバナンスの強化」は、「組織知」の水準が高ければうまくいくかも知れないが、「組織知」の水準が不十分だと、むしろ失墜するときはあっという間というリスクがある。また、「現場知」を闇雲に否定する「ガバナンスの強化」は現場の志気を低下させ、元々高かった日本の「現場知」を殺してしまい、日本企業の強みであった「カイゼン」運動などの前提条件を破壊する。つまり「一流の日本を捨て二流のアメリカになる」戦略である。もちろん「二流の日本より二流のアメリカ」の方がまし、という考え方の余地は否定しないが。

 いずれにせよ、「労働者なんて使い捨てでいい」という労働者軽視の発想が、再び戦前のような「組織知」による「現場知」軽視の状況を生み、それが零戦の零落と同様な今日の日本企業の没落を生んでいるのではないか。労働者の使い捨てが横行すれば、太平洋戦争に於いて零戦の強みを活かせる技量ある職人技パイロットが失われ日本の優位が失われていったように、やがて、労働現場からこつこつ働けば報われるというモラルが失われ、そもそも「現場知」を生み出せる労働者がいなくなり、日本の強みは完全に失われるだろう。

 特攻隊が、最早「現場知」の期待できない非熟練パイロットを使い捨てる戦法だとすれば、何のスキルアップの機会も与えられないままブラック企業に使い捨てられる、現代の若い労働者達は、現代版特攻隊員と言える。

 安倍首相の「ニッポンを取り戻せ」が、人命および現場を軽視していた旧日本軍時代のニッポンを取り戻せ、であるなら、安部路線に未来があるとはとうてい思えない。ハシズムの誤りもそこにあると言えよう。

1)ここでの「知」とは、頭脳的なものに限らず、身体的な技術や経験も含む広い意味で考えている。

零戦〜搭乗員たちが見つめた太平洋戦争〜前編 (NHKオンライン番組表)
http://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=608&date=2013-08-03&ch=10&eid=1425&f=2735

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