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zoom RSS 不都合に耳を傾ける韓国と耳をふさぐ日本 - 浅羽祐樹『したたかな韓国』をめぐって

<<   作成日時 : 2013/06/06 06:24   >>

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 NHK出版新書から出された、浅羽祐樹著『したたかな韓国 -朴槿恵時代の戦略を探る』(2013)がなかなか面白かった。

 まず、李明博政権時代からの朴槿恵の戦略が上手くまとまっている。朴槿恵が、与党内野党という位置づけ、戦略をとった理由を、彼女の次期大統領選政権獲得計画からきちんと説き起こして説明するとともに、ハンナラ党をなぜセヌリ党に(しかも党のシンボルカラーを青から赤へ)変更したのか、(つまり事実上朴槿恵新党の旗揚げだった)ということが、簡明に説明されている1)。

 また、今回の韓国大統領選挙で与党が勝った原因として見落とされがちな、韓国のデモグラフィック(人口統計学的)要因についても指摘(韓国では基本的に右派、中道、左派がほぼ三等分し、韓国では中道を取り込まなければ政権奪取は困難だったのに、左派が左傾化を進めたため、中道の受け皿が朴槿恵しかなかった点、韓国では世野双方批判派が最多数である点、高齢化の進展で野党支持の多い若年層比率の低下等)。朴槿恵の特性(女性大統領候補、朴正煕の娘)に頼らない説明を試みている点で斬新。
 ただ、彼の与野党得票シュミレーションに関しては、計算データが詳しく出ていないのではっきりは分からないのだが、コーホート的視点が欠けているような気がする。単純に中高年有権者が増えたというだけでなく、ひょっとすると、やはり2002年当時の40代の保守化があるのでは、という気がするのだが...
 ただ、自分の大統領選予測見込み違いに関して正直なのは良い。なお、韓国の世代ごとの政治的対立については、既にあちこちで指摘されている内容を改めて確認したということだろう。また、地域対立の現状についても言及が欲しかった。

 また、竹島/独島問題については、韓国政府がその公式的主張とは別に、自分にとって不都合な主張についても、内々十分に検討しているという指摘も面白い。
 そして、従軍慰安婦問題に関しても、なぜ李明博大統領が突然急に熱心になったのか、その背景に関しても説明すると共に(2011年、憲法裁判所において李大統領が慰安婦問題について取り組まないことへの不作為が違憲判断を下された)、その戦略についても解説している。特に韓国では軍事独裁政権の後遺症で法治主義に対する信頼が低く、時に国民情緒「法」が憲法より「上位」に来かねない社会的背景を指摘すると共に、近年の政権が「法治主義」を重視し、慎重に事を進めていること、また憲法裁判所の、政策に対する違憲判断に積極的な姿勢が、なぜ韓国政界で受け入れられてきているのかの解説に関してもなかなか良かった。

 本書を読んで日本を振り返ってみると、韓国に対して日本が劣っているのはやはり自分に不都合な主張(本書で言う「悪魔の代弁人」)に耳を傾けようとしない点であろう。これは日本の敗戦の原因を研究した戸部、野中他『失敗の本質』(中公文庫)や、あるいは半藤一利氏らの著書でも、無責任体制、目的不明な非合理性と並んで繰り返し指摘されている点である。
 そんなことを言うと、韓国人だって自分の主張ばかりで人の話に耳を傾けないではないかという反論が来そうだ。しかし、自分の主張ばかりしていたとしても、それは直ちに不都合な情報を知ろうとしないかどうかとは直結しない。また、韓国のネットで憂さ晴らしをしている層が仮にそうだとしても、本書を見る限り、少なくとも韓国のエリートはそうではない2)。
 日本の場合、原発安全神話を信じ込ませるため何の安全対策も考えさせなかったことや、映画『靖国』や『ザ・コーブ』に対する上映妨害運動に見るように、そもそも自分に不都合な情報を直視して反論するのではなく、不都合な情報に耳と目をふさいでないことにしたい、という傾向が強いように思う。それでも第2次世界大戦の敗北で否応なしに不都合な事実に直面させられ、その反省からそれなりに不都合な事実と向き合おう姿勢も出てきていた。それが戦後の経済成長を支えたのだと思う。だが近年再び、不都合な事実に目を背け、なかったことにしようという傾向が激しくなっている3)。
 たとえ『ザ・コーブ』の日本での上映を中止させても、グリーンピースほど極端ではないにせよ、欧米人(アイスランド、ノルウェーを除く)が一般に捕鯨を「野蛮」だとみなしている事態は変わるわけではないのに。それが決して日本のエリート層においても例外でないことは『失敗の本質』が示したとおりである。ポツダム宣言に対して「黙殺」と言っておけば、拒否と取られないだろう、という手前勝手な思い込みはその最たるものである。

 安倍政権の政治姿勢がアメリカ側からリスク要因と見なされるようになったり、橋下徹「日本維新の会」共同代表の顰蹙発言などはその結果ではないのか?彼らはSNSを「駆使」しているそうであるが、SNSが自分から不都合な情報を追いやって自己陶酔する道具になり、却って「井の中の蛙」状態になっている(しかも自分の「常識」が「井の中の蛙」であることすら気づいていなかった)結果であるように思われる。もちろん無条件に「大海」が良いわけではない。しかし少なくとも橋下氏のように「井の中」を「大海」と錯覚してはいけないという話だ。橋下氏のお得意な「本音」は所詮、せいぜい「井の中」でしか通じないのである。
 そして韓国の日本との違いは、(その表面的発言はともかく)自らが「井の中」であることを自覚しつつどう「井の中」のロジックを「大海」に向けて説得的に発信するかを考えている点である、というのが本書の後半の要点である。

1) このあたり、かつて派閥の活力を活かしていた自民党を髣髴させる。その一方で派閥抗争のため事実上党解体に至ってしまった日本の民主党もあるわけだが...。ただ、朴槿恵が与党内野党として反対に回ったケースとして本書に紹介されているのは、李明博の誇大妄想気味な大運河計画と、前盧武鉉政権が約束した世宗市首都機能移転の、闇雲な撤回に関してであり、これらに関しては決して反対のための反対ではないように思われる。
 これに対して民主党解体の原因となった菅直人内閣の行動は、小泉劇場の二番煎じを演じようとして、小沢グループをスケープゴートにすること自体が目的であったように思われる点が異なる。

2) ほかにも、韓国人にとって耳の痛い話を直言した、トーメン韓国会長百瀬格氏の著書「韓国が死んでも日本に追いつけない18の理由」(邦訳:文藝春秋, 1998 原著「한국이 죽어도 일본을 못 따라잡는 18가지 이유」 1997.8 出版社: 社会評論(韓国) ISBN-13 9788986167306)が韓国でベストセラーになった。また韓国KBSが豊臣秀吉の朝鮮侵攻を扱った番組において、朝鮮では、朝鮮王朝の政治があまりにも酷かったので、当初秀吉の侵攻を朝鮮半島内で歓迎する動きもあった(のちに秀吉軍は朝鮮人の鼻を切りまくって、結局その期待を裏切ることになるのだが)事実がきちんと紹介されていて、非常に驚いたことがある。

 また、これは韓国ではなく北朝鮮の話であるが、北朝鮮ではアメリカを敵視しつつも、学校で英語が教えられている(拙稿 http://yohnishi.at.webry.info/201204/article_14.html を参照)。これは日本がかつてアメリカを敵視したときに敵性言語として英語の教育を取りやめたり、英語の使用を禁じたことと比較すると大きな違いである。北朝鮮もなお、日本に比べて、それを肯定するかどうかは別にして、不都合な情報に対面する覚悟がはるかにできている、ということであろう。だからこそ、これまで日本で言う「瀬戸際」外交で成果を収めることが出来ていたのだ。

3) 戦前の日本の誤りを直視しようとすると「自虐史観」などという批判が出てくるようになったのはその最たるものであろう。まさに戦前の「非国民」の復活である。






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