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zoom RSS 孫崎享著 『不愉快な現実』をめぐって

<<   作成日時 : 2013/06/19 00:11   >>

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 孫崎享,2012,『不愉快な現実 -中国の大国化、米国の戦略転換』講談社現代新書。率直に言って、彼の主張は非常に慧眼であると思うし、私は本書での孫崎氏の主張の大半に同意する。
 本書もまた、先日紹介した浅羽祐樹氏の『したたかな韓国』と同様、不都合な事実に向き合おうとしない日本を憂慮し、「悪魔の代弁人」(という言葉は孫崎氏は使っていないが)をつとめて(つまり考え得る最悪のシナリオを提示して)、日本の外交政策に警鐘を鳴らすという形を取っている。

 本書を読んでなるほど、と思ったのは、日米安保条約上アメリカは尖閣諸島が日本の施政圏下にある限り、防衛義務が生ずるが、しかしアメリカ側の抜け道として、尖閣諸島が中国に武力で奪われれば、もはや施政圏下ではないという口実で、出動しない可能性が指摘されている点。
 なるほど、それで、尖閣諸島に万一の事態が起きれば、「最初に自衛隊が頑張らなければ」という議論が出るのかと個人的には納得した。ただ、先日も述べたようにそもそもアメリカは中国とことを構えるのは自国の国益に反すると認識しているのははっきりしているし1)、中国と戦闘状態になるのは極力回避したいはずだ。その中で、「最初に自衛隊が頑張れば...」という議論は、孫崎氏が想定した例に限らず、あらゆる屁理屈を動員してでも米側が尖閣出動をとりやめようとする可能性を考慮していない議論だとは指摘しておきたい。

 また他に面白かったのは、アメリカは4つの対日戦略の選択肢に、ポートフォリオ(孫崎氏自身はポートフォリオという用語は使っていない)を張っている、という議論。その4つの選択肢とは、1) 伝統的な日米関係を重視する 2) 米中2代大国が世界を調整する 3) オフショアー・バランシング、つまり米国は部分的に撤退するがその分同盟国(主として日本)に穴埋めさせ、共通の敵に当たらせる 4) 関係国で国際的枠組みを作っていく である2)。
 アメリカはこの4つの選択肢の中で、その時、その時に応じてどの選択肢に重点的に賭を張るかを変えているが、オバマ政権は2番目の選択肢へ重点を置きつつあるという。ただその時その時で重点を掛ける選択肢はあるが、アメリカは元々多元的な国であり、どれか一つに選択肢を収斂させることはないだろうという。ポートフォリオだと考えれば当然である。
 孫崎氏によれば、問題は、日本において第1の伝統的日米関係重視派の意見が日本で頻繁に紹介され(例えばアーミテージ、グリーン、ナイら)、他の考え方はあまり紹介されないということである。実際の政策は彼らの意見だけで決まる訳ではない。しかし、日本にとって聞きごごちのいい意見が偏って紹介されることで、「アメリカは日本を見捨てない、日米同盟強化の方向にしか動かない」という錯覚が日本で生まれているという。やはり、日本は都合のいい話しか聞こうとしないのだ。
 これにもなるほどと思わされた。また、日本の外交政策(たぶん外交だけではない)に、政策ポートフォリオ的発想がなく、一点張りの発想(これも真珠湾攻撃や、アベノミクスを推進する現政権と共通する)しかない危険性に対する警鐘を鳴らしている点でも、浅羽氏の議論と共通する。

 先日のオバマ・習会談の意味を解釈する上でも有効な視点を提示していると言えよう。

 また、中国を一枚岩と捉えるのではなく、その中で日本と協力していこうという勢力を助け、育てていくのが、日本の取るべき対中外交政策、という主張も、全く同感。そういう意味では、胡錦濤、李明博政権とも、対日協調を自分の政権浮揚策として掲げて出帆したのに、結局両国の対日関係を最悪にする形で終わらせたのは、(反日勢力もいる中で)親日勢力を(ある程度譲歩してでも)育てるという発想がなかった日本外交の失敗の結果だと私は思う。
 そもそも「中国は...」「中国人は...」などと、中国を十把一絡げ、一枚岩のように語る議論のすべては間違っている、と私は思う。これもポートフォリオ的発想の欠如と関連しているのではないか。

 ともあれ、尖閣諸島問題の引き金を引いた石原慎太郎氏は、尖閣を巡る国際関係情勢に関する見当外れな認識に基づいて引き金を引いてしまったことがますます明らかになっている3)。
 そして、尖閣諸島を実効支配していることの有利さが理解できなくなったマスメディアの劣化ぶりについても、孫崎氏の意見に全面的に賛成する。最近「国益」という言葉が安易に使われるようになったが、多くは「国益」が自己満足感情、自尊心と同一視されており、マスメディアの劣化もそれと関連しているように思う。だが本当に「自己満足感情や自尊心」が「国益」なのか疑問である。しかもこの「自尊心」は日本の「経済的利益」「外交的フリーハンドの確保」などと対立しており、結局日本の首を絞めることにしかならないのではないか、と私は憂慮する。

 私はこれらはいずれも小泉劇場政治の負の遺産だと思っているが、その点はまた稿を改めて論じたい。


1)拙稿「米議会調査局「安倍首相国益損なう」をどう解釈するか?」(http://yohnishi.at.webry.info/201305/article_3.html)で既に触れた。

2) もともとは元国家安全保障会議、日本・朝鮮担当部長マイケル・グリーンの『日本の未来について話そう』(小学館, 2011)にある記述だそうである。

3) これについては拙稿「「アメリカ、尖閣見捨てない」は本当か? 」(http://yohnishi.at.webry.info/201209/article_17.html)で論じた。当時、鳩山首相の外交見識が見当外れであるかのような報道が一部為されたように記憶しているが、すくなくとも尖閣を巡る客観的な情勢認識に関しては、今日、鳩山の正しさと石原の見当外れぶりがますますはっきりしているのではないだろうか?
 またこのような見当外れの認識に基づいて一連の騒動が引き金を引かれたということに空恐ろしい思いがする。

不都合に耳を傾ける韓国と耳をふさぐ日本 - 浅羽祐樹『したたかな韓国』をめぐって
http://yohnishi.at.webry.info/201306/article_4.html



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