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zoom RSS 『甦える大地』 - 映画としての歯切れの悪さに歴史的価値

<<   作成日時 : 2013/04/25 17:34   >>

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画像 石原プロモーションが製作した(配給: 松竹)高度経済成長時代の日本の歩みを記録した劇映画シリーズの一作。この作品は鹿島臨海工業地帯開発を扱っている。原作は「黒部の太陽」(やはり石原プロで映画化)を書いたノンフィクション作家(元毎日新聞記者)、木本正次の「砂の架十字」。

 本作のあらすじはこちら。(Movie Walker)
  http://movie.walkerplus.com/mv19284/

 石原プロ制作の映画はずっとビデオソフト化されず、今回石原プロ創立50周年ということではじめてビデオソフト化されたようだ。主演は石原裕次郎であるのは当然として、監督も俳優も豪華なスタッフ、キャストが投入されている。
 本作の場合、監督には松竹の文芸大作で定評のある中村登が起用され(但し彼の作風にこの題材が合うかはちょっと疑問)、映画音楽には中村登が「ジャン=ルイ・バローが下痢をしたような」と評していたという1)、武満徹が起用されているという豪華さ。おそらく、武満の起用は、石原プロの意向というよりは、武満と長いつきあいだった中村登の意向によるものであろう。画像
 石原裕次郎は、主役であるこの計画を推進した茨城県の担当者植松を演じ、先日惜しくも亡くなった名優、というよりは個人的には、丹波哲郎と並んで日本を代表する怪優と言いたい三国連太郎が、膠着状態だった鹿島開発推進のため茨城県に出向してくる凄腕中央官僚、野田を演じている。そして茨城県知事に岡田英次、鹿島開発に批判的だった鹿島町長、権藤に志村喬、当初は鹿島開発反対運動を繰り広げていたが、のちに植松が推進する農業団地構想に積極的に乗って農民に転身する元漁師に、若き寺尾聰、いち早く石原を信頼し農地の売却・移転を決める老婆に北林弥栄、当初鹿島開発に反対するが、やがて地域の貧しさに気づいて開発協力へと転じる地元中学教師、添島に司葉子と、蒼々たるキャスト。

 ところで、実は本作は映画としては今ひとつ歯切れが悪く、奥歯に物が挟まったような後味が残る。知事にとっては、土地がやせ荒廃した「極貧」の寒村をどう豊かに「してやる」か、との問題意識から出発した鹿島開発であったが、漁民たちはその知事の心を知ってか知らずか、闇雲に開発に反対する。石原演じる植松が貧しい寒村を救うため、土壌豊かな農業団地を用意しても、その意図を頑なに理解しようとせず開発は進展しない。
 そんな膠着状態の中、結局三国演じるやり手建設省官僚、野田が出向してきて、無闇に土地投機を煽るような真似をしないと正論に固執していた知事の意向を尻目に、札びらで漁民たちの頬をはたいて、見事に漁民たちの気持ちを開発賛成へとひっくり返してゆく。画像
 その結果一挙に鹿島開発は進んでいくが、札びらで頬をたたかれた元漁民たちの民心は荒廃、刹那的で享楽的な生活に淫していき、せっかく苦労して準備した、豊かな土壌の農業団地を顧みるものはわずかしかおらず、石原演じる担当者は、自分たちの苦労は何だったのかと苦い思いをかみしめる...
 ストーリーは決して、貧しい漁村を救うためにこんなすごい巨大開発をやり遂げて万々歳、で終わらず、かといって、大規模開発批判の姿勢に貫かれている訳でもなく、かなり屈折している。エリートの善意から出発したはずの巨大開発が、いつの間にか彼らの思惑を外れ、手に負えないものになってしまう。それは映画の冒頭に紹介される、江戸時代の、渡哲也演じる郷士、中館が主導した北浦−鹿島灘水路掘削が意図しない結果を生み出したことと同じように... これは1970年代以降の工業開発・巨大開発に対する批判的反省が論じられるようになった時代背景を色濃く反映しているのであろう。ずっと後年に作られたNHKのTV番組、プロジェクトXシリーズの方がよほど屈託がない。

 だが、この映画としての歯切れの悪さこそが、時代を証言する資料としての本作の価値を揺るぎないものにしている、とも言えるだろう。映画の冒頭に登場人物の性格設定は創作です、とのクレジットが入るが、逆に言えば、登場人物の性格設定以外は事実に基づいているとの自負の裏返しであるかのようだ(しかも運輸省、茨城県の協賛、協力を得ている)。おそらくこの映画の制作陣は、公的な立場に準ずる姿勢から映画を製作したものと思われるが、彼らのような準公的な姿勢を自認する立場であってさえも物事を単純に見ないという態度こそが、日本の高度経済成長を支えた智慧であり、戦前のワンフレーズポリティクスに対する反省であったようにも思われる。
 そういった意味では、再びワンフレーズポリティクスが横行するようになった今日、日本が閉塞状況に陥るのも当然のことだろう。画像

 因みに筆者はレンタル版DVDで鑑賞したが、画質は、ローパスフィルターが盛大に掛かっているためなのか、かなりはっきりした輪郭線ゴーストが出て、解像度が落ちておりあまり感心できない。この点Blu-rayだと解消されているのかどうか... かつての長岡鉄男のLP評ではないが、国内盤はフィルター掛かりまくりで音質が悪く、外盤の音は鮮度が高い、という指摘はDVDの画質でも言えるようだ。


1)NHK他国際共同製作『光と音の詩 武満 徹の映画音楽 (Music for the Movies: Toru Takemitsu)』(1994)における大島渚の証言による。

原題『甦える大地』 英題『The Earth is Born Again』 監督:中村登
1971年 日本映画 カラー







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