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zoom RSS 『往十里(ワンシンニ)』 - 日本語字幕DVDで見られるイム・グォンテク監督転機の一作

<<   作成日時 : 2013/02/11 01:24   >>

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画像 1976年に封切られたイム・グォンテク監督が手がけたメロドラマで彼の60番目の作品。興行的には当時失敗に終わったが、イム・グォンテク監督にとっては後述するように、新しい出発を決意する契機となる作品だったようだ。

以下、DVD同封パンフレットにあるあらすじを引用・翻訳して紹介する。

 ジュンテ(シン・ソンイル)が14年ぶりに帰国し往十里に帰ってくる。ホテルに旅装を解いたジュンテは往十里を歩きながら愛していたチョンヒ(キム・ヨンエ)との昔の追憶にふける。かつて通い詰めたビリヤードを見つけたジュンテは相変わらずビリヤードで仕事をしているおじさん(チェ・ブルアム)に会い、友人たちの消息を聞き、彼はチュングンの消息を尋ねる。ジュンテは友人たちに会い杯を傾け、居酒屋にいたチュングン(ペク・イルソプ)は、ジュンテが酒代を支払うために小切手を取り出した姿を盗み見る。おじさんは友人たちにホステスを呼んでやれと話し、ジュンテはホテルにやってきたユネ(ジョン・ヨンソン)に初めて会う。
 実はジュンテは父の遺産相続問題で継母と裁判でぶつかり、韓国に戻らないと旅立ったのだ。往十里はずいぶん変わってしまったが、ジョンヒを思うジュンテの心は変わらなかった。彼はジョンヒの消息を尋ねるが、おじさんと友人は忘れるのがよいと言う。ジュンテがジョンヒを探していると新聞広告を出すと、チュングンが訪ねて来て、ジョンヒの家で仕事をしていると言い、彼女と会えるようにする。チュングンとジョンヒは同棲している事実を隠し、ジュンテに接近したのだ。
 ジュンテはジョンヒの暮らしぶりが悪いと聞き、家を買ってやり、おじさんと友人たちはジョンヒとチュングンの仲を知らせてやったにもかかわらず、二人を結婚させる。大晦日、ジョンヒがホテルに訪ねて来て昔話をし、ジュンテが寝ていと思って財布を盗んで帰る。ジョンヒは今後一人で暮らすと、チュングンと争ったあげく、財布を奪われないまま立ち去る。一方ジュンテはユネを日本に連れて行こうとするが、彼女は故郷へ発つ。ジュンテは日本から来た同僚暴力団員との格闘の末、追い返し、故郷である往十里に根を下ろすとおじさんに話す。

 DVDコメンタリーによると、本作はイム・グォンテク監督にとって特別な作品。それまでは彼はずっと韓国を嫌っていたし、機会があれば外国で暮らしたいと思っていた。しかしこの以前に彼は国策映画『証言』を撮っており、国が本作を台湾で開かれた国際映画祭に出品することになった時、、そのご褒美として監督を台湾に連れて行ってくれることになった。それは彼にとって初めての外国旅行だった。画像
 当初、台湾なら日本語も通じるだろうから、機会があればそのまま逃げだし、そのまま台湾に住み続けようとさえ思ってもいた監督。しかし飛行機に乗るとすぐに、韓国語は一言も聞かれず、いざ台湾に行ってみると言葉が通じない不便に直面。さらに当時世界の最貧国の一つであった韓国に誰も関心を持つ者もいない。そんな事態に、嫌でも何でも韓国こそが自分が住み続けるべき国だと思い直して帰国した。
 そんな思いをぶつけて初めて撮った作品がこの『往十里』だったという1)。

 まさにそのような監督の心情をそのまま反映したのが本作だ。韓国を捨て日本で暴力団員として、そこそこ人から頼られる地位にまで上り詰めたジュンテが、故郷懐かしさに14年ぶりに日本から戻る。だが自分が捨てた、純真だったジョンヒは、今や完全にすれっからし。そして純真な気持ちで彼を慕って来るユネに、改めて向かい合おうとした瞬間、時既に遅く、彼女は別の道を歩もうとしており、彼の手をするりと抜けてしまう。
 もともと、故郷に戻って定住するつもりもなく、いざ故郷に戻っても失望させられるばかりだが、それでもここ往十里、韓国こそが彼が今後根を下ろすべき土地だと宣言する主人公の姿は、当時のイム・グォンテク監督の姿そのままである。
 そして、ジュンテに、俺も広い世界が見たい、外国に連れてってくれと懇願するおじさんの姿は、それ以前の監督の姿の象徴であろう。
 この作品に出てくる登場人物の多くは愚かだったり、醜悪だったりする。だがそんな愚かでしたたかな人間たち、人間くさい姿を全面肯定していくところに、本作品のユニークさ、一つ突き抜けた部分がある。
 またメロドラマにもかかわらず、べたべたと表現されることなく、突き放した表現も、今となってみると現代的。もっとも当時はそれは全く不評のようであったが。

 また、後に『族譜』で全面展開していくフラッシュバックの効果的な使い方の萌芽(イム・グォンテク監督本人は技術的に稚拙だと謙遜するが)も本作品で確認することができる。

 また往年の名優、シン・ソンイルの姿はもちろん、最近の韓国ドラマや映画で主にお母さん役で大活躍のキム・ヨンエ、そしてお父さん役で活躍のペク・イルソプ(かなりのムキムキマン)の若かりし姿が興味深い。そして『帰らざる海兵』等、60年代韓国映画で名子役として大活躍したジョン・ヨンソン(1950年生)の数少ない成人後の活躍が見られる作品でもある。
 なお、ロケは往十里周辺で行われているので、当時のソウル・往十里そのままの姿が見られる。映画の中で、14年前はセリ畑が広がっていたのに... という台詞があるが、当時既に畑は姿を消し住宅街や貯炭場が広がっていた。そして今日さらに35年が経ち都心部へと大幅に姿を変えてしまっている。

 本作品は1976年1月31日封切り。韓国観客動員数31,694人。1976年百想(ペクサン)芸術大賞・作品賞、監督賞受賞(KMDBデータ)。国内未公開。

 以下、DVDのオーディオコメンタリーからいくつかエピソードを紹介する。

画像 『往十里』の製作社は、当時新興の会社。会社としては60年代アクション(「立ち回り」)映画でならしたイム・グォンテク監督なので、アクションシーンを期待したが、自分としては60年代に散々粗製濫造したアクション映画に飽き飽きしたので、もういやだと一切アクションシーンを入れなかった。それに怒った製作会社が執拗にアクションシーンを入れろと要求したため、仕方なく最後の場面でアクションシーンを入れた。
 当時のアクション(「立ち回り」)ものには今のようなアクション(武術)監督もおらず、皆自己流、カンでやっていた。シン・ソンイルも何本も「立ち回り」映画に出ていたはずだが、その割にはあまり上手くない。
 後年テフン映画の執拗な勧誘に根負けして、いやいや『将軍の息子』でアクション映画を久々に手がけたときに、意外におもしろくて血が騒ぎ、自分はやはりアクション映画を撮るのが好きだったのだと再認識させられた。

 メロドラマとはいえ、自分はべたべたした感情表現は苦手。朝鮮戦争、そしてその後のすさんだ社会を生きてきたせいか、きめの細かい感情描写は不得意だし好きではない。そのため感情表現が粗くなってしまい、それが本作の興業失敗につながったと思う。その点製作社に済まないという気持ちを持っている。

 女性主人公の表面・裏面を容赦なく徹底的に描き込んだのも、やはり朝鮮戦争や戦後社会で実際にそのような両面性を持った人間を何人も見てきたため。

 シネスコサイズはデビュー作より扱ってきたが、自分として初めてフルに生かした表現ができたと感じたのは『族譜』。それまではどこかもてあましてその画面サイズを生かし切れなかった。本作では室外場面についてはある程度できているが、室内場面ではそのサイズをもてあましており、残念に思っている。

 本作には原作(著者:チョ・ヘイル)があるが、脚本家(イ・ヒウ)がかなり原作の設定を変えている。当時は脚本家のギャラが非常に低く、その代わり、原作を好きにいじるのが脚本家の特権と考えられていたようなところがあり、一般にこのような傾向があった。

 なお、韓国盤DVDは他のイム・グォンテク・コレクションと同様の傾向。但しオリジナルフィルムの状態は、ところどころ、埃、傷、変色は散見するものの、『チャッコ』より良く、『族譜』と同等かややベターといったところ。日本語字幕はやはりクム・ソニ、ヤン・インシル。但しもっとも最後の数台詞についてマスタリングミスのため字幕が欠けているのに注意。とはいえ日本未公開作の古典作品が日本語字幕で見られるありがたみはこのシリーズの特徴。
 今回の映像資料院のイム・グォンテクコレクションは、監督の転換点となるメルクマール的代表4作を日本語字幕で見せてくれている。日本の映画研究者や韓流映画ではない韓国映画愛好家にとって必携のセット。

1)なお、ソウルセレクションから出版されているKoran Film Directorシリーズのイム・グォンテクの巻では、最初に彼がこのような気持ちで撮影した映画は『雑草』(1973年)だとされている。この作品は、彼のフィルモグラフィー中唯一彼が製作をも担当した作品だが、残念ながらフィルムは失われてしまっている。この話は、現存する映画の中では、という限定での話かもしれない。

原題『왕십리』英題『Wangsimni』監督:임권택
1976年 韓国映画 カラー 112分(DVDパンフレットデータ)

DVD(韓国盤「イム・グォンテク・コレクション」)情報画像
発行・発売 Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:2.35)[本作] 音声: Dolby1 韓国語
本編:112(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面二層(4枚組) 2012年 12月発行 
希望価格W49800

韓国映像資料院イム・グォンテク コレクション『チャッコ』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201301/article_10.html

韓国映像資料院イム・グォンテク コレクション『族譜』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201301/article_8.html

イム・グォンテク監督『常緑樹』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201206/article_18.html

同『月の光をすくい上げる』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201108/article_4.html

『西便制』韓国盤DVDについて
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_9.html

ワンズショップ「イム・グォンテクコレクション」販売サイト
http://www.onesshop.com/goods/goods_view.asp?item_name=&idx=12658&g_cate1=B19&g_value=3

Korean Film Director: Im kwon-taek (Seoul Selection)販売サイト
http://www.seoulselection.com/bookstore/default/product_view.php?part_idx=265&goods_data=aWR4PTEyODImc3RhcnRQYWdlPTYwJmxpc3RObz0xMyZ0YWJsZT1jc19nb29kcyZwYXJ0X2lkeD0yNjUmc2VhcmNoX2l0ZW09Mw==

2012.12韓国盤DVD化 韓国映画評
https://bblog.sso.biglobe.ne.jp/ap/tool/newscaredisplay.do

※なお最後の字幕のない箇所は下記の台詞と聞き取れる。
(この部分韓国語、英語字幕とも無いので不正確かも知れない)

失った14年を取り戻しましょう
一挙に消えてしまった...

翼を作りましょう
翼をつけて虚空に飛び立ちましょう、おじさん






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『曼陀羅』 - 初めてイム・グォンテクの名を国際的に知らしめた映画
 1981年、イム・グォンテク監督による仏教映画。本作品は、ベルリン国際映画祭に最初に出品された韓国映画として知られ、彼の名をはじめて欧米映画界に知らしめた作品。原作は、キム・ソンドン(金聖東)の同名小説。戒律を守って修行のために諸国を行脚する若い僧と、戒律を破って修行の行脚を続ける破戒僧との一種の仏教ロードムービー。また、アジア映画社の配給で日本国内一般劇場配給されたことがある。 ...続きを見る
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2013/02/23 00:10

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