yohnishi's blog (韓国語 映画他)

アクセスカウンタ

zoom RSS 韓国映画『チャッコ』 - 日本語字幕付きでこの幻の名作を見られる幸福

<<   作成日時 : 2013/01/25 12:39   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 2 / コメント 0

画像 日本国内未公開のイム・グォンテク監督、1980年の名作『チャッコ』。Seoul Selectionから出版されているKorean Film Directorシリーズのイム・グォンテクの巻を読んで、是非本作を見てみたいと切望していたが、ついに日本語字幕付きDVDで対面することができた。

 以下、あらすじをDVD付属パンフレットより翻訳して紹介する。結末まで書かれているので注意。
 ある浮浪老人が、警察によって更正院(浮浪者収容所)に送られた。彼はまさにパルチザン部隊を討伐する戦闘警察官(日本で言う機動隊員)であったソン・ギヨル(チェ・ユンソク)だ。彼は更正院の合宿所で生涯を賭けて追跡してきた、ペク・コンサン、別名チャッコ(キム・ヒラ)を発見する。連続ドラマを見ていたソン・ギヨルは戦闘警察官に出世し、円満な家庭を作り、村の人たちから歓待を受けていた時代を回想する。ソン・ギヨルが寝ているチャッコに近づいた時、銃声が聞かれないようにしてなんとか悪名高いパルチザン部隊の隊長チャッコの身柄を確保した時が思い起こされた。彼はチャッコを護送していた中、逃してしまったのだ。
 チャッコは浴室の鏡を割り水銀の粉をかき集める。(パルチザン時代)山でチョムスン(パン・ヒ)が水銀の粉を飲み自殺しようとしていたのを防いだチャッコは、砲撃が始まるとチョムスンだけ隠匿し、別れたのだ。チャッコは目の寄贈のための検査で外出する。ソン・ギヨルは塀を乗り越え捕まる。ソン・ギヨルは一人隠れ、5年ぶりにらい病患者の村から出て老母を訪ねて来たチャッコを自分が逃した時を思い出す。その後、彼は不法兵器携帯で警察支署に捕まり、支署長になった後輩ポク・マニを殴って3年間下獄し、再び故郷へ戻ったが、息子マンソクさえ死んだあとだった。
 ソン・ギヨルはチャッコにともに逃げ、自分を罷免した上司と自殺した妻に、自分の無実を説いてくれと言う。同室仲間内で特技を披露する(장기자랑[長技자랑])中、チャッコは束草でファスク(キム・ジョンナン)と同棲していたエピソードを話し、ソン・ギヨルはチャッコを故郷で捕まえようとして自動車事故で脚を折った話をした。旅人宿に入ったソン・ギヨルは隣室の客人の自殺を止めようとして、それがチャッコであることを見つけたが再び見失った。チャッコは私娼街で再びあったチョムスンと旅館に来て自殺を決意していたのだった。ソン・ギヨルはチャッコと更正院を脱出したが、チャッコはこれ以上歩けないと言い張り、争いになる。通りがかった警官に潜伏中の共産ゲリラ(망실공비[亡失共匪])だと言うが分かってくれない。汽車に乗ったチャッコは息を引き取り、ソン・ギヨルはかすかに笑う。

 1980年に公開された本作は、映画会社が輸入映画割当枠目当てに作った、優秀国産映画枠の一作として作られた。当時は主にハリウッド映画が非常に人気がある一方、韓国国産映画の人気が落ちていた時代であり、当時の韓国政府は国産産業振興のため、一定の優秀国産映画(文芸・芸術映画、反共映画)の制作を、輸入映画枠割り当ての条件として、映画会社に義務づけていた。
 イム・グォンテク監督にとって、60年代〜70年代初めの量産プログラムピクチャー作家から、芸術映画監督へ転身するに当たって、あまり興業結果を重視せずとも映画製作機会を得られたこの優秀国産映画枠は、絶好の踏み台ではあったが、その一方で映画会社にとっては輸入枠獲得の「口実」として作られたので、これらの作品はろくな宣伝もされずひっそり公開されあっさりお蔵入りされる運命でもあった。イム・グォンテクの本作にかける意気込みに反して、公開当時の本作もそのような運命をたどった一作であったが、80年代後半のビデオブームによって不足するソフトを補う一作として発掘され、それが韓国映画界で名作として再評価されるきっかけとなった。おそらく、韓国の大半のシネフィルにとっても、韓国映像資料院の本作のデジタル上映原本製作が、本作を本来の画面比で見る最初の機会になったはずである。また、管見では、日本国内ではこれまで未公開である。
 なお、DVD収録の映像コメンタリーによれば、原作小説(原作者キム・ジュンヒ)はわずか2ページの短編小説であり、多くは脚本家のソン・ギルハンおよびイム・グォンテク監督自身の体験や周囲で起こったエピソードを盛り込んで再構成した作品だという。

 本作はやはり噂に違わない名作。一方は、パルチザンの頭目をしていた過去を隠すため、生涯命を賭けて社会の底辺で潜伏し、一方は、賄賂を受け取ってパルチザンの頭目を逃したという汚名を濯ぐため、息子さえも顧みずに、自分の生涯を賭けて一人の男を追い続ける。だが約30年たって、もちろん当時はまだ「共匪を見たら通報しよう」という看板が韓国のあちこちに見られた時代であったろうが、実際には人々にとって、朝鮮戦争やパルチザンの時代は遠い過去のものとなり、ソン・ギヨルがi今さら「亡失共匪を捕まえた」と叫んでも、周囲の人々は誰も顧みない、ヘタをすればそう叫んだ者が精神異常者扱いされる時代に変わっていた。そもそももはや「亡失共匪」という単語さえ理解されない。自分たちが全生活を犠牲にし、生涯を賭けてきたものが全く無価値になっている、その喪失感がひしひしと伝わってくる。そしてチャッコとソン・ギヨルは、敵対しながらも、ともに同じ時代の、あるいは中ソとアメリカという大国間の代理戦争として戦わされた、同じ犠牲者としての連帯感さえ感じられるラストが良い。画像
 イム・グォンテク監督の映像コメンタリーによると、当初の脚本では、二人は大国間の代理戦争の犠牲者であった、ということをはっきりうたう部分があり、脚本検閲では通過したものの、完成映像検閲でその部分に削除命令が出され、自分としては決して反共映画として作ったつもりのないこの映画のメッセージ性が損なわれてしまった点が惜しく思っている、と語っていたが、コメンタリー相手役のホ・ムニョンが言うように、私も、結果的には監督のメッセージはきちんと観客に伝わっていると思うし、むしろ説明的な画面が省かれたことで、より効果的になったのではなかったかと思われる。
 また、バックミュージックに伝統音楽を採用したという点も特筆に値する。本作には『西便制』『太白山脈』など、後のイム・グォンテク作品に通ずるすべての要素がそろっている様に思われる。
 ただ、若干の欠点を指摘すると、やはりソン・ギヨルがチャッコを逃す場面がいささか間抜けすぎる。ソン・ギヨルが、金の指輪があると言ったチャッコの靴を脱がさせ、さらに排泄を許したのは、やはり半分は心が動いたのだろうなとも思わせるし、そのあたりの心理描写が今ひとつ。また、これは文化の違いと言うべきだろうが、ソン・ギヨルが後輩の警察支署長を殴ってしまうのも、いかにも韓国人らしい行動だが、日本人だと「ああ韓国人が馬鹿やって」と思ってしまうかもしれない。日本人感覚的にはソン・ギヨルのキャラクターに対しては可哀想さ半分、自業自得半分と感じるのが多数派ではないだろうか。

 これ以外に、映像コメンタリー(これには日本語訳がない)からいくつか本作にまつわるエピソードを紹介すると...
 本作品は韓国映画界でフラッシュバックの使い方の教科書と賞賛されている。これ以前に、イム・グォンテク監督はほとんどフラッシュバックを使っていなかったが、ほとんど接点のなかった二人の人生を1時間半〜2時間に納めるためには、いろいろ検討した結果どうしてもフラッシュバックを採用するしかなかった。また監督としてはこのような意欲的な精巧なシナリオを作ったことで映画界で評判になるのではという思惑もあったが、残念ながら公開時ほとんど宣伝もなく話題にもならずにがっかりした。
 フラッシュバックが必ずしも時間順ではなくむしろ感情の流れや視点別で配列された点も高評価。

 監督としてはパルチザンを人間的に描くことで、もはや和解の時が来た、ということを言いたかった。なお、コメンタリーでホ・ムニョンが本作がパルチザンを人間的に描いた最初の韓国映画と言っているが、これは誤り。既に50年代に製作された『ピアゴル』でかなり人間的なパルチザン像が描かれている。むしろ朴正煕の維新革命以降、パルチザンの描き方が制限されてしまったのである。

 ソン・ギヨル役として起用したチェ・ユンソクは、単純に監督が戦闘警察官役として顔つきがふさわしそうだという理由で選んだ俳優で、彼の演技力にかんして情報はなかった。初対面の時もあまり人なつこくなかったが、実際に演技をさせてみると予想外に良かった。残念ながら長く演技活動ができず、現在どう過ごしているか気になる俳優1)。
 またキム・ヒラは名優キム・スンホの息子で、自分の作品でデビューし、当時長くコンビを組んでいた俳優。彼の演技力は父親から受け継いだものがあると監督は思っている。

 韓国封切り1983年10月23日。ソウル観客動員数3177人(KMDBデータ)。1980年第19回大鐘賞、優秀反共映画賞、脚色賞、反共映画部門特別賞受賞。

 なお、本作品DVDの画質は、マスターフィルムの埃、傷が取り切れておらず、ロールの末端部分での埃、傷が多少目立つ。但しおおむねロールの中間部分では比較的綺麗。これは多くの韓国映像資料院DVDの傾向と同様。マスタリング自体は優秀で、30年前の映画とは思えない、コントラストの高い色彩も鮮明な画像。解像度も、NTSCの限界は感じさせるが往年の韓国映画の優秀さを引き継ぐ。
画像 たぶん、最近の韓国盤DVDの解像度の低下は、一旦オンライン配布用の素材を作って、それを再エンコーディングしてDVDマスターを作っているからではないかと推測する。たぶん、オリジナルHDマスター素材から直接DVD用Mpeg2素材をエンコーディングしているならば問題がないように思うのだが...
 そして日本語字幕は『族譜』と同じ、ヤン・インシル、クム・ソニのコンビ。日本国内のプロの字幕制作者とは違い、必ずしも1秒4文字以内の原則は守っておらず、あと自分だったらこの訳語は使わないだろう、と感じる部分も若干散見するが、誤訳という点ではおそらく問題ないと思う。ともあれ、国内未公開の名作を日本語字幕付きDVDで見られる幸福を堪能していただきたい。

1)KMDBのデータを見ると、チェ・ユンソクはキム・ギヨン監督の『異魚島』(1977)で俳優デビュー。1992年まで活躍していたようだ。

原題『짝코』英題『Jagko / Mismatched Nose』監督:임권택
1980年 韓国映画 カラー 110分(KMDBデータ)

DVD(韓国盤「イム・グォンテク・コレクション」)情報
発行・発売 Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:2.35)[本作] 音声: Dolby1 韓国語
本編:110(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面二層(4枚組) 2012年 12月発行 
希望価格W49800

韓国映像資料院イム・グォンテク コレクション『族譜』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201301/article_8.html

イム・グォンテク監督『常緑樹』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201206/article_18.html

同『月の光をすくい上げる』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201108/article_4.html

『西便制』韓国盤DVDについて
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_9.html

ワンズショップ「イム・グォンテクコレクション」販売サイト
http://www.onesshop.com/goods/goods_view.asp?item_name=&idx=12658&g_cate1=B19&g_value=3

Korean Film Director: Im kwon-taek (Seoul Selection)販売サイト
http://www.seoulselection.com/bookstore/default/product_view.php?part_idx=265&goods_data=aWR4PTEyODImc3RhcnRQYWdlPTYwJmxpc3RObz0xMyZ0YWJsZT1jc19nb29kcyZwYXJ0X2lkeD0yNjUmc2VhcmNoX2l0ZW09Mw==

2012.12韓国盤DVD化 韓国映画評
https://bblog.sso.biglobe.ne.jp/ap/tool/newscaredisplay.do



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『往十里(ワンシンニ)』 - 日本語字幕DVDで見られるイム・グォンテク監督転機の一作
 1976年に封切られたイム・グォンテク監督が手がけたメロドラマで彼の60番目の作品。興行的には当時失敗に終わったが、イム・グォンテク監督にとっては後述するように、新しい出発を決意する契機となる作品だったようだ。 ...続きを見る
yohnishi's blog (韓国語...
2013/02/11 01:24
『曼陀羅』 - 初めてイム・グォンテクの名を国際的に知らしめた映画
 1981年、イム・グォンテク監督による仏教映画。本作品は、ベルリン国際映画祭に最初に出品された韓国映画として知られ、彼の名をはじめて欧米映画界に知らしめた作品。原作は、キム・ソンドン(金聖東)の同名小説。戒律を守って修行のために諸国を行脚する若い僧と、戒律を破って修行の行脚を続ける破戒僧との一種の仏教ロードムービー。また、アジア映画社の配給で日本国内一般劇場配給されたことがある。 ...続きを見る
yohnishi's blog (韓国語...
2013/02/23 00:10

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
韓国映画『チャッコ』 - 日本語字幕付きでこの幻の名作を見られる幸福 yohnishi's blog (韓国語 映画他)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる