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zoom RSS 韓国映画『トガニ(坩堝)』 - 一種のホラー映画とも言える、障害児虐待問題を扱った傑作

<<   作成日時 : 2012/05/27 14:52   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 23 / トラックバック 0 / コメント 0

画像 2011年韓国映画界で大きな社会的反響を呼んだ作品。原作は2008-9年にかけてネット連載され、2009年に出版されたコン・ジヨンの同名の小説。監督&脚本は『マイ・ファーザー』のファン・ドンヒョク。

 手話を学んだことのある美術教師、カン・イノ(コン・ユ)は大学時代の指導教授の紹介で、霧で有名なムジン(漢字では「霧津」?)市1)にあるキリスト教系の慈愛(チャエ)聾学校の美術教師として、喘息もちの一人娘を母に預けて一人赴任することになる。その途中、彼は道に飛び出してきた小鹿を轢いてしまう。それとちょうど同じ時刻にその聾学校のある生徒が鉄道投身自殺してしまう。
 カン・イノは小鹿を轢いてしまってバンパーが大きくへこんでしまった車を、ムジン市内の自動車修理工場へ持ち込むが、その聾学校方面へ向かうバスがないと聞き、修理を後回しにして学校に向かおうとして、やはり修理工場にやってきた車に追突されてしまう。その車はムジン人権センターのバンで、運転していたのはいささかそそっかしい人権活動家のソ・ユジン(チョン・ユミ)であった。
 ユジンの車で慈愛聾学校に到着したイノを出迎えたのは双子の兄弟であるまったく同じ顔をした校長と事務長(チャン・グァン一人二役)であった。学校に到着するや否やイノは事務長から「金は?」と問われ、怪訝な顔をして教授の紹介で来たというイノに、事務長は、教授の紹介だろうがなんだろうが、今時専任の職を得ようとすれば金を持ってくるのは常識だろうと、現金で5000万ウォンを要求される。仕方なくソウルの母に電話して何とか5000万ウォンを工面してくれるよう電話するイノ。
 イノが実際に授業を始めて見ると、子供たちの雰囲気がおかしい。そのことを同僚に問うと、同僚はこともなげに、「身体的に障害を負えば心にも障害を負うのは当然だ」とこともなげに言い捨てる。怪訝に思いながらも、熱心に指導をするイノに子供たちは徐々になついていった。
 ある晩、イノが終業後女子トイレの前を通りかかると、トイレの中からおかしなうめき声が聞こえる。思わず何があったのか確かめようと女子トイレの中へ入ろうとしたイノに、通りかかった警備員(ホン・ソゴン)から、障害児たちは、やることがないと変な声を出して遊ぶものだから心配するなと声をかけられ、さらに先生が女子トイレに入れば逆にそちらのほうが問題視されるといわれて、確認を断念する。
 さらにイノが5000万ウォンを届けに校長室に立ち寄った直後、窓から足を出して座っている女の子をイノは見かける。危ない、とその女の子、ジン・ユリ(チョン・インソ)に駆け寄って窓から降ろすと、彼女はイノを寄宿舎の地下室に連れて行く。そこでは寄宿舎監であるユン・ジャエ(キム・ジュヒョン)が、生徒のキム・ヨンドゥ(キム・ヒョンス)の顔を洗濯機の中に突っ込んでいるさなかであった。驚いたイノがジャエをとがめると、「教育しているところです」と言い放つ。ともあれイノはヨンドゥをユジンの人権センターに連れて行く。だが、翌日イノは、校長に呼び出され、なぜ生徒を勝手に人権センターに連れて行ったのかと問い詰められる。

 一方、人権センターにかくまわれ、入院したヨンドゥは、ユジンら人権センターのスタッフに、聾学校においておぞましい事態が起こっていることを知らせる。人権センターの仲介で、子供たちはTVカメラの前で真実を告発することを決意。

 そんな折、イノの母(キム・ジヨン)が娘ソリ(キム・ジヨン)を連れて、ソウルから彼のアパートに訪ねてくる。妻の命日だったからだ。その場でぜんそくの発作を起こした娘を前に、母はイノを諭す。「余計なことをせずにソリのことだけを考えなさい」。


 イノは、母の説諭で、校長らの機嫌を取り直そうと、校長が好きだというランの鉢をもって校長室に立ち寄る。だがそこでは、同僚教師パク・ボヒョン(キム・ミンサン)が生徒チョン・ミンス(ペク・スンファン)に手ひどい体罰を加えているところであった。顔から血を流しながら逃げ出すミンスを、ボヒョンはゴルフクラブ片手に追いかける。思わずイノは校長の土産に持ってきたランの鉢植えでボヒョンの頭を殴りつける。ついにイノはこの学校は何かがおかしいと確信し、決意を固める...

 原作小説は、2000-2005年にかけて実際にあった光州の聾学校における校長、教師による生徒に対する強姦事件を取材して書かれた小説であり、ネット連載時からネティズンたちの間で大きな反響を呼んでおり、2009年に出版されるとさらに大きな社会的反響を呼び起こした。原作者のコン・ジヨンはたまたま新聞で目に付いた小さな記事、つまり、聾学校で生徒に対して強姦した校長らに執行猶予がついた軽い刑が宣告され、傍聴に来ていた聾学校の生徒たちにその事実が手話通訳された瞬間、悔しさに声に出来ない泣き叫び声で一杯になった、という記事を読み、それまで執筆準備していた小説を中断し、この事件を小説にしようと執筆に取り掛かったという。2)

 監督のファン・ドンヒョクは本小説を呼んで衝撃を受け、またまだモデルとなった実際の事件がまだ完全に解決していないということもあって、映画化する意義があると思ったという3)。もちろん実際の事件をコン・ジヨンが小説化したときにある程度フィクション化されているので、すでにその事件そのものをそのまま描いたものではないが、多面的な含意を持つこの小説を映画化する際に、監督は、次の2点をポイントと考えたという。
 第1は、こういうような事件があったということ。そこには関係者がどのような思いや痛みを感じたのかということを描くということも含んでいる。第2に、このような、持てる者はうまくやり過ごして得ができ、持たざる者はそのつけを回されるという社会システムをきっちり描くという点であるという。
 監督が映画化作業を開始した時点で、主人公カン・イノはコン・ユが演じることが決定していたそうだが、監督が小説を読んだときに感じた主人公イノは、心に傷を受けた多少世をすねたキャラクターであったのに対し、コン・ユは端正なイメージであり、そのあたりの調整に苦労をしたとともに、人権センター活動家ユジンに関しても、原作ではイノより年上で子供がいるという設定だったのを、監督がファンで起用したチョン・ユミに合せて、年下の活動的な女性に設定しなおすことで映画に躍動感を与えようとしたという。これ以外に、小説では内省的な心情描写で済まされている部分を映像で見せるために、何点か原作にない場面を追加しているという。
 また、法廷場面で、傍聴する聴覚障害児たちの役柄エキストラの一部にに、実際に事件が起こった聾学校に通っていた生徒たちが偶然にも起用されているという。

 本作を実際に見てると、ファーストシーンから、ちょうど『殺人の追憶』がそうであったように、傑作の予感が感じられる。Mise-en-sceneと音楽が卓越なのだ。霧のかかった道路を走るイノの車、そしてその車の小鹿との衝突が、ある障害児の貨物列車との衝突とオーバーラップしていく非常に印象的なシーン。
 そして、イノが到着した聾学校での、まったく同じ顔をした不気味な双子の校長と事務長... 単に社会告発映画にとどまらず、それがある種、人間ホラー映画になっているのだ。ホラー映画といえば、幽霊や怪物というのが相場であるが、私の考えでは、幽霊や怪物よりも恐ろしくありうる存在とは、まさに生きている人間であろう。
 ストーリー的に言えば、本作は決して凝った展開を示しているわけではない(法廷部分ではいささかミステリー、謎解き側面もあるが)。むしろストレートすぎるほど直球勝負である。しかし、それが映像だけできっちり見せるという卓越した演出・編集術、そしてあまりにも薄汚く陰惨な事件性などとあいまって、単なる告発映画にとどまらない極めて衝撃的な紛れもない映画作品となっている。
 韓国での大ヒットも当然うなずける作品である。
 ユジンの「世界を変えるために戦うのではなく、世界に私たちを変えさせないために戦う」という台詞が印象的。

 本作は2011年9月22日韓国封切り。韓国での観客動員数は、4,640,739人(Cine21データ、2011年10月30日現在)。日本国内では2012年8月4日より劇場一般公開が予定されている。

 監督のファン・ドンヒョクは1971年生まれ。ソウル大学新聞学科卒。さらに南カルフォルニア大学で映画を学ぶ。そこで実際に海外へ養子に出された子供たちに出会って、韓国の養子問題に関心を持つようになる。韓国の養子問題を扱った短編『ミラクル・マイル』でカンヌ国際映画祭に招待。それまで養子問題は、彼らに対する同情の視点から描かれることがほとんどであったが、それとは異なった視角からこの問題を描いたことが評価された。さらにそれを発展させ2007年『マイ・ファーザー』で長編デビュー。
 本作が長編第二作。

 なお、原作小説は5/31新潮社より邦訳刊行予定。

以下、Blu-ray収録の監督コメンタリー&インタビュー映像より、エピソードをランダムに取り上げる

1. 一旦編集が終わり、100人ほどの人を集めて反応を見るために試写会を行った。すると、途中で席を立った人が一人。それ以外の人は最後まで全く無言で見ていた。日本と異なり、韓国では隣の友人と突っ込みを入れながら映画を見ることが普通であり、誰も無言で映画を見るというのはかなり異例の反応。その模様を見た監督は、これは全くつまらなかったからだったのではないかと非常に気をもんだが、観客に反応を聞いてみるとあまりの衝撃に声が出なかったことが分かった。監督は毎日編集作業で映画の内容に慣れてしまって分からなかったのだが、そこで初めてこの作品が非常に大きな衝撃力を持っていることが分かったそうである。

2. イノが最初の授業で子供たちにリンゴの絵を描かせるのは、スティーブ・ジョブズへの監督のオマージュ

3. 映画公開後、映画評論家などから、『トガニ』に起用した悪役俳優は、わざわざ人相の悪い俳優を選んで起用したのではないか、と言われたが、監督としてはむしろ悪人面ではなく、普通の人に見える俳優を意図的に起用したつもりである。
 なお、イノ役のコン・ユ、ユジン役のチョン・ユミ、および弁護士役のチョン・グックァン以外は、なるべく先入見をもたれないために、映画やドラマに余り出演経験のない、演劇界で活躍している俳優を中心にキャスティングした。監督としては本作で最もうまくいったのはキャスティングだと自負しており、どの俳優の演技にも失望させられることがなかった。
 またミンスの祖母役には監督自身の実の祖母(94歳)を起用。

4. 映画の中で、事務長がイノに専任職が決まった賄賂として5000万ウォンを要求している。これは監督が脚本執筆段階で、500万ウォンでは額が小さすぎてインパクトに欠けるが5000万ウォンでは大きすぎるのではないかと悩み、周辺の知人などに相談したところ、地方では5000万ウォンあるいはそれ以上要求されることは十分あり得ると言われ5000万ウォンにすることに決定。

5. 映画ではイノは妻を亡くし、家族は母親と娘がいることになっているが、原作小説では妻がいることになっている。母親に設定を変えたのは、監督自身が未婚で妻との関係をどう描いたらよいか自信がなかったため。また母親が慶尚道なまりを使っているのは、監督自身の母親が慶尚道出身であることも影響している。
 この設定変更はメディアの記者からの反応、特に男性記者からの反応は良好で、監督自身も非常にうまくはまったと自負しているそうである。

6. 映画の中で時々挟まれるムジン市の夜景は、麗水市の夜景。これに関して麗水の住民から、実際の事件は内陸の光州市で起こったのに、なぜ麗水を使ったのかと抗議があったという。監督が麗水の夜景を使ったのは、小説のムジン市は海辺の都市との設定であるのと、麗水の夜景が美しかったという理由からで他意はない。

7. 法廷の場面は、当初法廷を実際に借用するとか、大学の講義室を使うかなどといろいろ検討したが、実際にはロケによる撮影は実現困難で、結局、映画『依頼人』で使った法廷セットを賃借し、そのセットから陪審席を外すなどリフォームして使用した。

8. ミンスの起こす最後の事件、およびそれに引き続く法廷前でのデモ抗議のエピソードは原作にないもの。公開後の観客からの反応は、この部分は蛇足ではという声もあったが、監督としてはどうしても付け加えたいシーンであり、放水を浴びるイノのシーンは監督の本作におけるベストシーンとして自負しているとのこと。なお、デモシーンは大田裁判所でロケ許可が下りて撮影できたという。

9. 法廷シーンの中間に挟まれるイノとユジン、子供たちが遊ぶシーンは仁川市永宗(ヨンジョン)島の仙女岩(ソンニョ・パウィ)海岸。

10. コン・ユが日本のメディアから取材を受ける際に、『トガニ』がやはり大きな話題になることも多いが、日本のメディア関係者からはこのような題材の映画が日本で480万もの観客を集めることはあり得ないとの反応が多いとのこと。

11. ミンス役にペク・スンファンを起用したのは、オーディションでの彼の暗い表情が印象的であったためで(彼が以前出演した『リターン』でもやはり暗い印象の役)、ハンサムであったためではない。だが撮影に入ると予想外にハンサムに写ってしまって困ってしまい、映画公開後の現在ではファンクラブまで結成されるほど。

12. ヨンドゥが法廷でチョ・ソンモの歌「いばら(カシナム)」が聞こえるかどうかテストされるシーンについて
 原作では単にチョ・ソンモの歌とあるだけだったが、監督は自分が好きな「いばら」を充てた。聴覚障碍者は、一般には全く音が聞こえない人々だと誤解されがちだが、実は聴覚障碍の程度は人によって様々であり、補聴器があれば聞こえる人、特定の周波数だけが聞こえない人など、必ずしも全く音が聞こえないとは限らない。ここではヨンドゥの場合通常人々が会話する周波数に比べチョ・ソンモの声は特に周波数が高いため、辛うじて聞き取り可能であったとの設定。
 なお、監督は撮影当時このエピソードは原作者のコン・ジヨンによってあくまで創作されたものと思っていた。しかし後にこれは、実際の事件の裁判で実在したエピソードだと知って驚いたという。

13. トイレに逃げ込んだヨンドゥを校長が追いかけて、トイレの上から覗き込むシーンについて
 このシーンは、実際の撮影時はユーモラスに笑いながら撮影したという。だが、編集し効果音もつけた結果、監督にとって全く意外にも観客から本作品中最も恐ろしいシーンだと指摘されることに。この場面は日本版予告編で垣間見られる。


1)架空の都市であろう。おそらく先日紹介した韓国映画『霧』およびその原作となった小説「霧津(ムジン)紀行」から名前を取ったものと思われる。

2)韓国盤Blu-rayディスク収録の付加映像インタビュー、オーディオコメンタリー、およびDaum映画の紹介記事(http://movie.daum.net/moviedetail/moviedetailStory.do?movieId=63083&t__nil_story=tabName)より。なお、
オーディオコメンタリーによれば、映画公開後さらに明るみに出た、実際の事件で起こった事実は、映画で描かれたものよりもさらにおぞましいものだったという。また映画は小説よりさらに大きな反響を呼び、映画公開後2ヶ月で、この事件を巡る様々な問題が解決に至ったという。
 13歳以下の性暴行事件に於いて、加害者と被害者が和解したとしても、その事実で加害者の量刑を減らさないように刑法が改正されたのも、この映画が与る部分が大きいようだ。

3)韓国盤Blu-rayディスク収録の付加映像インタビューより。以下の記述はこのインタビュー映像を参考にしている。

原題『도가니』英題『Silenced』監督:황동혁
2011年 韓国映画 カラー 125分

Blu-ray(韓国盤)情報
発行・販売: CJ E&M 画面: 1080p/16:9(1:2.35) 音声: DTS-HD5.1 韓国語 本編:125分 リージョンA
字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層 2012年 4月発行 希望価格W33000
※韓国盤DVD(2枚組)もあり(W27500/2012.3発行)

『トガニ - 幼き瞳の告発』国内公式サイト
http://dogani.jp/

『霧』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201202/article_9.html

『依頼人』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201204/article_12.html

付記(2012.11)
国内盤Blu-ray, DVD発売決定(2013.3)

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