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zoom RSS フェイク・ドキュを志向? - キム・スヨン監督『ある女優の告白』韓国映画

<<   作成日時 : 2012/01/29 00:00   >>

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画像 イム・グォンテク監督を抜き、今まで韓国映画界最多の109本の映画作品を撮って来た、韓国映画史を代表する監督の一人であるキム・スヨン監督の、1967年のメロドラマ作品。

 往年の名俳優だったキム・ジンギュ(キム・ジンギュ)は、道端の撮影現場で自身が出演した映画を回想していた。その現場で出会った昔の同僚ファン女史(ファン・ジョンスン)は死んだチョン・ミヨン(ナム・ジョンイム)の話を切り出す。やはり映画俳優だった彼女はジンギュと結婚を誓う仲であり、彼の娘を妊娠していたが、病に倒れる。だが、ジンギュとミヨンが共演する映画を企画していた映画会社は、ミヨンが倒れたという知らせを聞き、無情にも彼女が予定されたキャスティングを別の新人俳優に交代させようとする。しかしキム・ジンギュはミヨンを守るため相手役の交代を断固拒否する。
 ミヨンは何とか娘は産むものの、薬石効なく、娘の存在を知らせるなとファン女史に頼んだ後、世を去る。
 しかし、キム・ジンギュのミヨンを守ろうとした行為は映画会社側からは単なるわがままだと見なされ、徐々に映画会社側から干されていき、老境に至った今日往年の大スターも今では誰からも省みられなくなってしまったのだ。
 ファン女史は、娘が働いているある居酒屋へ彼を連れて行き娘の存在を明かしたが、彼は到底父親だと明らかにできず帰った。しかしキム・ジンギュは昔の同僚ジョン監督(ジョン・チャングン)に頼み、娘を映画女優としてデビューさせる。ナム・ジョンイムという芸名をもらった彼女は人気スターになる。キム・ジンギュは娘に手紙を送って演技指導をし、貯金した金でマンションも買ってやる。ジョンイムは、罪悪感から彼女と会おうとしないジンギュの家に行き、母親の写真を見た彼女はジョン監督に頼み彼との共演を頼む。二人は映画のなかで父娘として共演する。劇中父親が死ぬ場面を撮影する中、キム・ジンギュは現場で実際に息を引き取る。ようやく彼が実の父親だと知ったナム・ジョンイムは亡くなった父にすがって嗚咽する。

 日韓合作映画『愛の黙示録』でも日本に知られるキム・スヨン監督の作品。ジャンル的には典型的なお涙頂戴のメロドラマではあるが(韓国で言うところの「新派」映画<これは日本の「新派」演劇が語源)、実は単なるメロドラマに終わらないのがすごいところ。
 ともかく登場人物の大半が実名(と言うか俳優の芸名それ自体)で出ている。さらに、当時の韓国映画界の製作事情の舞台裏を描いているということもあり、これは、アッバス・キアロスタミの『クローズ・アップ』のような、今で言うところのフェイク・ドキュメンタリーを狙っていたことは間違いない。それにしても、当時韓国映画界で全盛期を迎えていた筈のキム・ジンギュが、よくぞ実名(実の芸名)で、往年の名俳優だったが今は落ちぶれている... などという役の出演を快諾したものだと感心する(全盛期だからこそ快諾したのかもしれないが)。
 さらに、劇中劇といった構成など、映画のフォーマット自体をペンディングにするようなとにかく実験的、意欲的な構成。だが、それは単なる大衆を置き去りにした前衛的な実験映画にとどまることはなく、いかにも大衆好みのメロドラマの形式をまとっている。画像
 おそらく、フェイク・ドキュメンタリーというコンセプトもなかった当時(但し、日本語版Wikipedia「モキュメンタリー」の項目によると映画では1950年代ごろから散見されていたようだ1))、よくぞこのような形式の映画を思いついたものだと(あるいは相当世界の映画事情を研究していたのか?)と感心するほかない。あるいは観客にひょっとすると実話では... と思わせてより興行効果を高めようということなのかもしれないが、いずれにせよ脱帽ものである。
 DVDの解説パンフには、本作はキム・スヨン監督のフィルモグラフィの中では「比較的感傷主義の色が濃い作品に見える」とあるが(筆者はミョンチ大学映画ミュージカル学部教授、キム・ヨンジン)、それは本作を読みそこなった評価でしょうと突っ込みを入れたくなる。アヴァンギャルドを、いかにもアヴァンギャルドに見せずに提示した意欲作と評価すべきだというのが筆者の意見。
 この映画に出てくる映画製作の現場の雰囲気も、解説パンフによれば当時の映画界の雰囲気をかなりリアルに再現したものらしく、そうだとすると、やはりキム・スヨン監督には映画界の不条理を告発したい(それも映画会社の資金、つまり告発する相手のふんどしを使って...)という意図があったものと考えられる。

 単なるメロドラマと断じてしまえばそれまでであるが、やはりキム・スヨン、只者ではないと思うのは筆者だけであろうか?

 本作は、おそらく日本未公開。それがDVDでしかも日本語字幕付で見られるとは... これは日本人の韓国映画マニアなら必買アイテムだろう。ぜひ本作DVDを購入して韓国映像資料院をサポートしていただきたい。

 キム・スヨン(金洙容)監督は、1929年京畿道安城生まれ。1950年ソウル師範学校文科卒業。1951年陸軍中尉(英語通訳専門将校)。1954年国防部(国防省)情弘(広報)局配属。1955年、軍の広報映画12編を演出。1957年、ヤン・ジュナム監督の助監督に就く。1958年、大尉で軍を退役し予備役編入。『恐妻家』で長編劇映画監督デビュー。以後、1960年代から70年代にかけて、平均年間6-7編の劇映画を多作。
 DVD付属パンフレットによればキム・スヨン監督本人の意識では芸術追求型の監督を志向せず、あくまで職人型の監督としてどんな注文にも応じて映画を作るタイプの監督だったが、この多作期こそ高い水準を示した類まれなる監督であるという。本人の回顧録によれば、これは信頼できる監督を支える安定した映画スタッフのチームに恵まれたことが大きいという。また韓国の監督の中ではいち早く日本ロケを実施するなど知日派としての側面もある。
 1981年には、失われてしまった伝説の名画『晩秋』を撮る。この作品は日本で斉藤耕一監督によって萩原健一、岸恵子主演の『約束』としてリメークされた。
 1981年清州大学客員教授として講義を受け持つ。1986年、公演倫理委員会の審議結果に抗議して監督引退宣言。1989年韓国芸術院会員。1992年、東京国際映画祭審議委員。1995年、日韓合作で石田えり主演の『愛の黙示録』を製作、その作品で1997-8年日本映画批評家賞、カトリック映画賞受賞。1999年、最後の作品『沈香』を製作。1999-2005年映像物等級審議委員会委員長。2007-9年、韓国芸術院長。

1)Wikipedia 「モキュメンタリー」参照 http://ja.wikipedia.org/wiki/モキュメンタリー


原題『어느 여배우의 고백』英題『Confession of an Actress』監督:김수용
1967年 韓国映画 カラー

DVD(韓国盤「キム・スヨン コレクション」)情報
発行: 韓国映像資料院・Blue Kino 販売: Blue Kino 画面: NTSC/16:9(1:2.56) 音声: Dolby1 韓国語
本編:87(本作)分 リージョンALL 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面一/二層(4枚組) 2011年 12月発行 
希望価格W49500

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