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zoom RSS 韓国初(?)の政治陰謀ミステリー映画 『モービーディック』

<<   作成日時 : 2011/10/28 07:48   >>

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画像 久しぶりに歯ごたえのある作品を作ろうという意欲の感じられる韓国映画を見た気がする。『不当取引』と近いジャンルの映画であるが、個人的にはスケールの小さかった『不当取引』よりも本作を取りたい。

 本作品は政治陰謀ミステリーで、1990年10月、ノ・テウ政権時に実際に起こった、ユン・ソギャン二等兵良心宣言事件をモデルに製作された作品。韓国では「韓国初の政治陰謀ミステリー映画」と銘打たれているようだが、日本でいえば山本薩夫監督の『金環蝕』『不毛地帯』などに類される映画が作られようとされるようになったということだろう。
 ちなみにユン・ソギャン事件とは、当時保安司令部(略称:保安司[ポアンサ])に勤務していたユン・ソギャン二等兵が保安司の内偵対象民間人のリストが記載されたフロッピーディスクを持って軍を脱走し、このリストを公開した事件。保安司令部はノ・テウ前任のチョン・ドファン政権時にチョン・ドファンの政治工作の中心として暗躍、言論統廃合や大学における学生運動などの内偵、悪名高い三清(サムチョン)教育隊(政府に批判的な人物やホームレスなどを更生教育させると称して、無理やり捕まえて入隊させ苛酷な「教育」をさせた)などを主導してきた。1988年に国会にて保安司の横暴行為が明らかになり、ノ・テウ大統領はその是正を約束したが、本事件によりほとんど是正されていなかったことが明らかになり、この後、ノ・テウ政権への反対運動が活発になった。1)
 この事件で、当時保安司令部は、政府に非協力的と思われる数多くの民間人の様々な動向を探ってファイル化し、事件のでっち上げ等に利用していたことが明らかになった。内部告発をしたユン・ソギャン二等兵は教会の保護下にあったが、2年後に逮捕され、懲役2年を宣告された。しかしこの事件を契機に保安司令部の解体等、韓国政治の民主化への道が一歩進められることになった。
 ちなみに、映画内で題名にもなっている「モービーディック」という情報活動のための偽装バーが出てくるが、これは当時実際に、保安司令部が情報活動のため運用していた偽装カフェの名前でもある。
 映画では、実際の事件とは日時や背景を大幅に変え(ノ・テウ政権下からキム・ヨンサム政権時代に)、ミステリーの要素を加えて大幅にフィクション化されている。

 1994年11月20日ソウル近郊、パラム橋が何者かによって爆破された2)。この爆破は当局から北朝鮮工作員の仕業ではないかと発表されたが、何か通常の事件と違う。そんな中社会部新聞記者イ・バンウ(ファン・ジョンミン)の前に、長い間連絡がなかった徴兵中で軍にいるはずの故郷の後輩ユン・ヒョク(チン・グ)が現れた。どうやら勝手に軍を脱走してきたらしい。その彼が、パラム橋事件はでっち上げだと不可解な言葉を発する。それにカバンの中には訳の分からないフロッピーディスクと書類が。イ・バンウは最近他社からスカウトされてきた同僚記者ソン・ジギ(キム・サンホ)、それに工学部出身の女性同僚記者ソン・ヒョグァン(キム・ミニ)と共に特別取材チームを組み真実を明らかにしようと動き始める。
 だが、彼らのチームを尾行し、動きを監視する謎の一味がいた。しかもユン・ヒョク自体も、軍を脱走したなら、手配されるはずなのだが、軍脱走者の手配名簿には名前が出てこず、謎だ。そうこうするうちに、彼らがひそかにルームサロンを借りて作業を開始した部屋は誰かに襲われ、資料は奪われ、友人の会社にあずからせたユン・ヒョクにも、彼を付け回す男たちが。しかし幸い奪われた資料はヒョグァンがすべて複写を取っていて問題はなく、ソン・ジギも徐々に重要な手がかりをつかみ始めていた。ジギはこの陰謀の裏に大きな背後があることを感じ、それを「政府の上の政府」だと言っていた。
 だがジギは「交通事故」で突然亡くなる。残されたのは小児癌の娘と妻だった。バンウは、真実を明らかにすることをジギの墓の前で誓う...

 当初は単純な北の工作員によるものと思われた事件が、徐々に調べていくうちに単純でないことが分かっていくという盛り上げ、そして当初は気まずいものであったイ・バンウとソン・ジギの関係が、徐々に交点を見つけていく筋立て、そして、社内だけで極秘にしてたはずの、ルームサロンにおける秘密拠点の場所が、正体不明の男たちに襲われ、自分たちの情報が社内から漏れてしまっているのではないかという疑惑... このあたりのストーリーの盛り上げ、そして泣きの入れ方などのシナリオ&演出はかなり練られており、相当楽しめる。
 しかし韓国の「事実を元に...」映画によくあるパターンである過剰脚色はこの映画でも逃れず、ラスト近くのKAL機撃墜事件を彷彿とさせるようなエピソードはちょっとやり過ぎだし、その流れの結果として、事実をきちんと報道して勝負するジャーナリズムの姿勢の放棄を認めてしまいかねないような描き方については、韓国内のネット批評の中でも批判的に書いている人がいる。
 やはりそもそも保安司の問題だったものを、時代を移動させてそうではなくしたあたりから、事実の重みを尊重していないと言うべきなのかもしれない。
 日本であれば、先に例を出した山本薩夫作品であれば、組織名や個人名は全く仮名ではあるものの、画面を見れば、だいたいあれは具体的にどの政治家をモデルにしたのかが分かったし、そのリアリティで見せる部分もあるあるのだが、韓国の場合は何を政治的に遠慮するのか、それとも事実の持つ力をあまり信じていないのか... その一方で『第5共和国』のようなドラマも作られてしまうので、フィクションとリアリティの境界の差が今ひとつよく分からない。

 とはいえ政治的リアリティを云々せず、単なるフィクションとして見た場合、相当楽しめる作品に仕上がっていることは間違いないだろう。ファン・ジョンミン、キム・サンホらベテランの演技も楽しい。

 なお、オーディオコメンタリーを聞いていて面白かったのはイ・バンウのような30代後半から40代前半のベテラン平記者というものは相当例外的な存在なのだと話していたこと。韓国であればアラフォーなら管理職になっていて現場の第一線に出ないのが普通であり、それでも第一線に出るような記者は韓国語で言う「トッコタイ(特攻隊)」つまり変わり者で一匹狼的なかなり例外的な存在らしい。
 おそらく日本であれば40代前半なら脂ののりきった第一線のベテラン記者であり、結構そういった記者が現場を支えているのではないかと思うが、韓国のメディアの現場は相当違うらしい。

 本作品の韓国封切りは2011年6月9日。全国観客動員数は431,978人(KOBIS調べ 2011.10.1現在)。国内未公開。

 監督のパク・インジェは1973年生まれ。2003年短編映画『ここが果てだ』を発表。そして本作で長編デビュー。

 なお、韓国盤DVDの画質に関しては何とか韓国盤DVDの往年の画質を回復する水準に戻ってきたかなという感じ。ただ若干輪郭線でのゴーストがやはり確認される。40インチ代以下の画面で見る分には全く申し分ないだろう。

1)韓国版Wikipedia記事「保安司民間人査察事件」(韓国語)参照。
http://ko.wikipedia.org/wiki/%EB%B3%B4%EC%95%88%EC%82%AC_%EB%AF%BC%EA%B0%84%EC%9D%B8_%EC%82%AC%EC%B0%B0_%EC%82%AC%EA%B1%B4

2)ちなみに、パラム橋爆発事件は完全にフィクション。但し、同年10月に起きた聖水(ソンス)大橋崩落事故を彷彿させようという意図は明らか。


原題『모비딕』英題『Mobydick』監督:박인제
2011年 韓国映画 カラー 112分(韓国劇場版)

DVD(韓国盤)情報
発行・販売:KD Media 画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby5.1 韓国語 本編:112分
リージョン3 字幕: 韓/英(On/Off可) 片面二層(2枚組) 2011年 9月発行 希望価格W23500

『裏切りの陰謀』の邦題で国内盤DVD発売(2012.9)


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