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zoom RSS 読み損なわれる『硫黄島からの手紙』イーストウッド硫黄島戦争映画2部作

<<   作成日時 : 2011/08/11 07:16   >>

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 2006年にクリント・イーストウッドが撮影した硫黄島の戦いを描いた『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の2部作。すでにその内容はご周知のことであろう。

あらすじはこちら
『父親たちの星条旗』goo映画
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD9375/
『硫黄島からの手紙』goo映画
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD9694/

 たぶん、イーストウッドの2部作のうち『硫黄島からの手紙』だけを見て、アメリカ人が良くぞ日本人の戦いを「正しく」描いてくれた、アメリカ人もようやく日本人の戦い(気持ち)を認めてくれるようになった、というような感想を持った人が多いのではないか。そして日本人がこういった映画を撮れなかったことが残念だ、などという感想も飛び出そうだ。
 もちろん映画をどう見ようと個人の自由だし、本作にそのような感想が出てくるであろう要素があることは間違いない。しかしあまりにもアメリカ社会における本作のコンテキストや、イーストウッドが狙ったであろうメッセージに気付いている人が少なすぎるというのも、あまりにも情けない日本の現実だ。そこで終戦の日が近づいた今、拙文を書かせていただく。
 この2部作のうち両方とも見た人はどれぐらいあるだろうか。実は『硫黄島からの手紙』しか見ていないというケースが結構多いのではないだろうか。まず本作のアメリカにおけるコンテクストに気付くためには、この2作は絶対両方見なければいけない。

 だいたいイーストウッドは一体なぜ硫黄島の戦いを映画化したのだろうか? しかもこの時期(2006年)に? 日本人が好きだから褒めてあげたくて? 日本人を励ましてあげたくて? アメリカ人も自分たちの第2次世界大戦の行いを反省するようになったから? イーストウッドが日本ファンかどうかは知らないが、アメリカ人が第2次世界大戦の行いを反省するということは、一部の少数派(いわば「自虐史観」分子)をのぞいては、ない。圧倒的多数のアメリカ人は原爆投下も東京大空襲の正しさも微塵も疑っていない。だとしたら、なぜ?

 まず『父親たちの星条旗』を見てみよう。この作品は、たまたま硫黄島の摺鉢山で星条旗を掲げたというだけで、しかも新聞に掲載されたのは、揚げ直した2回目の写真だったというのに、それだけで英雄扱いされてしまう(というよりは国債の宣伝マンにされたのだが)ことに戸惑う兵士たちを描いている。実際には彼らが最も勇敢に戦ったとは限らないにも拘らず...
 そこで批判されているのは複雑な戦場・戦争の現実を単純な正義vs. 悪、英雄と敵というような分かりやすいメッセージに単純化するワンフレーズ・ポリティクスだ。そしてさらにそのようなワンフレーズ・ポリティクスこそ、戦争を政治の道具に利用してしまうという現実。複雑な戦争とそれを単純化するワンフレーズ・ポリティクスの狭間で、精神を切り裂かれる「英雄」たち。その矛盾の頂点にいる最大の犠牲者がマイノリティであるネイティブ・アメリカンのアイラだ。

 同じ硫黄島の戦いを日本側の視点から描いたのが『硫黄島からの手紙』だが、そもそもなぜ『父親たちの星条旗』の裏番組(アメリカから見れば)として日本側の視点が必要だったのだろうか?
 それを解くには、まず第2次世界大戦当時の日本や日本人はアメリカにとってどういう存在であったかを理解しなければならない。実は、現代の日本人の多くは、第2次大戦当時アメリカ人から日本人がどう見られていたかについて、ほとんど自覚がないし理解もしてない。だから『硫黄島からの手紙』にこめられたメッセージを読み損なうのである。
 簡単に言えば、当時は日本とは何を考えているか分からない不気味な国家であり、日本人は洗脳されてクレイジーとなった理性を失った人間たち(へたをすれば人間の範囲を超えているかもしれない)だとアメリカ人に思われていたのである。例えるなら、今我々が北朝鮮や自爆テロを繰り返すアルカイダ、ヒズボラなどのアラブゲリラに対してもつ不気味なイメージとほぼ同じと思ってよい。
 北朝鮮やアルカイダと一緒にされるなんて納得いかない? 不当な偏見? その通り偏見には間違いない。だがそもそも今日の我々が持つ北朝鮮やアラブ人に対するイメージだって偏見ではないのか? 彼らは偏見を持たれる理由があるが、当時の日本人はそんな偏見を持たれるいわれはない? そうだろうか?

 では考えてみよう。北朝鮮の無気味なイメージを増幅している原因の一つは、工作に失敗して露見した工作員たちがほぼ自殺して証拠を相手側に渡さないようにしている点であろう。絶対者に忠誠を誓い、洗脳され主体性を失ってロボットの様に動く不気味な工作員たち... その唯一に近い例外が、あの大韓航空爆破犯の金賢姫であった(実際には、日本によく知られないだけで、他に生きて韓国側に捕まった工作員やスパイたちはもっとたくさんいる)。ところでこの北朝鮮の工作員の行動、何かに似ていないだろうか。その通り。かつての旧日本軍が兵隊たちに戦陣訓を通して「生きて虜囚の辱めを受けるべからず」と、捕虜になりそうなら自殺をしろと強要したのと全く同じである。日本兵が次々と自決する姿を見たアメリカ兵はどう思っただろうか?
 さらに、9.11アルカイダの攻撃をアメリカのメディアは何と報道したか。「カミカゼ・アタック」である。もはや「カミカゼ・アタック」は英語における普通名詞になっている。いや英語だけではない。イスラエル=ヘブライ語においてもヒズボラの自爆攻撃は「カミカゼ」なのだ。もはや「カミカゼ」は「狂気」の自爆攻撃を指す言葉として国際的な普通名詞になっている。つまりそれこそが、戦時中の日本の神風特攻隊は、今日の日本人が9.11やヒズボラの自爆攻撃の報道に接した時以上の、不気味な衝撃を持ってアメリカ人たちに受け止められていた、という紛れもない証拠なのである。
 
 だからこそ、洗脳されてクレイジーになった日本人に、理性あるまともな人間性を取り戻させるためには、原爆投下も東京大空襲も仕方なかった、むしろ日本人にとっても良いことをしたかもしれない、とアメリカ人の大多数は全面肯定しているのである。1) 2)

 ここまで分かると、栗林中将を主人公に据えた『硫黄島からの手紙』をイーストウッドが撮らなければならなかった理由が見えてくる。栗林中将はアメリカ留学経験者であり、米軍内にも知己が多い。即ち栗林中将とは近代的で合理的な思考のできる欧米人に匹敵するグローバルな理性の人であり、決して狂気の人でも神懸かりでもない人物として描かれる。もちろん日本の参謀本部にはクレイジーなやつも神懸かりもいたかもしれない(映画に批判的に描かれる旧守派。しかもそういう奴であるほど、事態が「ヤバ」くなると自己保身に走る)が、栗林中将はそうではなかったのだと。
 従って一般的なアメリカ人から見ると日本人の狂気の発現に見えた硫黄島の戦いも、合理的な発想を持った同じ人間同士の戦いであって、日本人の必死の反撃も、戦い相手のファイティングスピリッツをGood Jobと褒め称えられることはあっても、悪魔や狂気に例えるべきではない、というのがイーストウッドが発したかった『硫黄島からの手紙』にこめられたメッセージである。3)

 そして『父親たちの星条旗』に見られる、戦争のワンフレーズポリティクス化への批判、および『硫黄島からの手紙』に見る、日本人はクレイジーだからやっつけてよいという視点を戒める批判、この両作品を通じて伝えようとしているメッセージとは、9.11以降テロとの戦いを宣言しイラク戦争を進めたブッシュ政権に対する批判に他ならない。
 つまりこの2作品を通して描かれる硫黄島の戦いは、ブッシュ政権の進めていたイラク戦争や「テロとの戦い」のメタファーなのだ。即ちブッシュ政権の「イスラム教徒はクレイジーだから危ないし、やっつけてよい」「イスラム・テロリスト&イラクは悪魔であって、彼らに対する戦いは、聖戦であって正義の戦いだ」という単純化されたワンフレーズポリティクスに対する徹底的な批判に他ならないのである。

 なお、8月15日(2011年)7時30から、NHKで、本作品で栗林中将役を演じた渡辺謙が進行役を務める「渡辺謙アメリカを行く "9.11テロ"に立ち向かった日系人」というドキュメンタリー番組が放映されるようだ。4) もしこれが渡辺謙が自発的に手を挙げて実現した企画であるとすれば、さすが渡辺謙、私が述べたような本作品(及び自分が引き受けた栗林中将という配役)のアメリカにおける位置づけをよく理解している、ということになるだろう。

1) 平均的なアメリカ人の原爆投下に対する反応や当時の日本人に対するイメージにについては、例えばNHK取材班, 1996, 「アメリカの中の原爆論争―戦後50年スミソニアン展示の波紋 NHKスペシャル」, ダイヤモンド社 TBSテレビ「ヒロシマ」製作スタッフ, 2006,「ヒロシマ あの時、原爆投下は止められた」毎日新聞社 などを参照。

2) いや、それどころか原爆を落として「やった」ということに対して、日本人から感謝されるべきだと考える米国人がいてもおかしくない。それは日本人の一部が持つ、旧植民地の台湾や韓国・朝鮮に対する、「日本の植民地支配は彼らから感謝されるべきだ」という発想と同じである。
 そして、事実、原爆が日本人をして「最早神懸かりの時代ではない。これからは科学技術立国を目指すのだ」、と深く決意させたことを否定することは誰も出来ないだろう。

3) Web上の感想などを見ると、栗林中将が理性的な合理主義者として描かれたのが気に入らなかった、もっと武士道精神や日本人精神を持った人物として描かれるべきだった、などという感想を記している者がいる。もちろん映画に対してどのような感想を持つのは自由なのだが、しかし、そのような発想は、アメリカ人に日本人を「神懸かった、クレイジー」な存在として見て欲しいと言っているのに等しく、彼らから「やはりクレイジー・ジャップの頭に原爆を落として正解」という反応しか引き出さないということだけは自覚すべきであろう。もちろん欧米人の反応を気にして「自虐的」になるぐらいなら鬼畜米英に「クレイジー・ジャップ」と甘んじて見られた方がましという発想を否定する気はさらさらないが。

4) もちろん「"9.11テロ"に立ち向かった」と言っても、ブッシュと一緒になってアラブ人に石を投げた、という話ではない。その逆である。

原題『Flags of Our Fathers』監督:Clint Eastwood
2006年 アメリカ映画 カラー
原題『Letters from Iwo Jima』監督:Clint Eastwood
2006年 アメリカ映画 カラー

「渡辺謙アメリカを行く "9.11テロ"に立ち向かった日系人」(NHKサイト)
http://www.nhk.or.jp/kenwatanabe/

海外版DVDでしか見られない日本映画(2) 『軍旗はためく下に』
http://yohnishi.at.webry.info/201108/article_7.html

『チェンジリング』に見るクリント・イーストウッドの反権力性
http://yohnishi.at.webry.info/201004/article_11.html

アメリカ映画『Wings of Defeat (邦題: 特攻 -TOKKO-)』
http://yohnishi.at.webry.info/200805/article_1.html

パレスチナ映画『パラダイス・ナウ』が提起するもの
http://yohnishi.at.webry.info/200804/article_6.html


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
イーストウッドの既成概念や善悪二元論への懐疑は、何も硫黄島から始まったものではなくダーティーハリー以前の西部劇から存在してたと思う。それは自身の監督作品のパーフェクトワールドや許されざる者に顕著に表れていた気がします。
昏井シリウス
2011/08/12 23:18
母から祖父は海軍兵で捕虜になったいた黒人米兵は船内で機械油を舐めていた…衝撃的な話を聞いていましたが、祖父はとんでもない事に自宅に数人連れて帰りご飯を食べさせた…当時そんな事が出来たのか?見つかれば祖父は?…何日か何年後かわからないが、多分戦後にその米兵がチーズやチョコ等日本人が口に出来ないであろうお土産をたくさん家に持ってきたという話を聞かされ、母はすっかりチーズが大嫌いになったと。亡き祖父から話を聞きたかったと後悔しています。毎年終戦記念日が近づくと祖父戦争体験は?と思いながら過ごしています。ハルノート・マッカーサー・硫黄島・東京や各地大空襲・沖縄戦・回転・大和・武蔵・特攻隊・桜花・ひめゆり部隊・原爆・ポツダム宣言・等まだ学ぶ戦争があります。歴史だけ辿るのは勉強すればいいけど、歴史から何を思うか?何が事実だったのか?そして正しい事はまだ答えもわからない。私は戦争を知らない経験していない世代だからこそ考える事をしたいと思いました。父親たちの星条旗はこれからです。
昭和47年生
2011/08/13 11:05

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