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zoom RSS カンヌ映画祭脚本賞、イ・チャンドン監督最新作『詩』

<<   作成日時 : 2010/11/22 07:02   >>

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画像 『グリーンフィッシュ』『ペパーミント・キャンディ』『オアシス』『密陽(シークレット・サンシャイン)』と撮ってきた、元文化観光部長官であるイ・チャンドン監督の第5作。カンヌ映画祭に出品され脚本賞を受賞している。

 漢江沿いの京畿道のある地方の街。そこにミジャ(ユン・ジョンヒ)は孫のジョンウク(イ・デビッド)と小さなアパートに暮らしている。ミジャの娘であるジョンウクの母は離婚し母親の下に息子を預けて釜山で働いており、度々電話で連絡してくる。ミジャは、母親の不十分な送金を補うため、町のスーパーのオーナーであり、脳卒中の後遺症を患うカン老人(キム・ヒラ)の介護を担当する家政婦をしている。孫は、最近友達に会うと夜中でも出かけたり、あるいは家に友達を呼んでは自室に鍵を掛けて閉じこもったりして、以前とは様子が違ってきておりミジャは心配している。
 そんなある日、町内である事件が発生する。ジョンウクが通う高校の上級生の女の子、アグネスことヒジンが川に身を投げて自殺したのだ。だがミジャが孫にその事件を尋ねても、同じ学年でも知らない子がいるのにと、そっけない。
 ある日、ミジャは腕に痛みを感じて病院に行くと、医師は腕の痛みはたいしたことがないが、最近激しくなってきたという健忘症の方が問題だからソウルの病院に検査に行くようにと言い、紹介状を書く。そしてソウルの病院で検査を受けるとアルツハイマーの初期であるから、至急治療を受けるように言われるが、ミジャは娘には、何でもないと隠し通そうとする。
 そんな不安を抱えてのミジャの生活の唯一の心の支えは、詩を書こうとすることだった。幼い頃学校の先生に詩を書いて褒められたことを思い出し、詩を書こうとするのだがうまくいかない。そんな中、町内の文化センターで詩を書くための文化講座が開かれることを知り、締め切りが過ぎているのを何とか頼み込んで潜り込んだり、町内のカフェで開かれている、自作の詩を披露する集いを見つけて出かけては、周りの人々に詩を書くこつを尋ねたりするのだが、なかなか自分の詩を書くことが出来ない。

 そんな中、ジョンウクがよくつるんでいるキボムの父親(アン・ネサン)からちょっと話があると言われ、でかけると、ジョンウクがつるんでいる悪友たちの父親たちが皆集まっている。実は、先日の女子高校生の投身自殺は、ジョンウクらのグループの男子生徒が彼女を強姦したため、それを苦にした彼女が自殺したのだという。そしてこの事件はまだ校長、教頭など一部しか知らないので、何とか地元新聞にかぎつけられる前に、自殺したアグネスの母親(パク・ミョンシン)と和解をするよう何とかしなければならないという。
 ミジャは自殺したアグネスの追悼ミサにも出てみるが、いたたまれなくて途中で出てきてしまう。そして、家に帰ったミジャは、ミサから持ち帰ったアグネスの写真を食卓の上に置いてそれとなくジョンウクの反応を探るが、全く悪びれる様子がない。
 そのうち、なかなかアグネスの母親となかなか接触できないので、ミジャに和解説得役の白羽の矢が立つが、ミジャは母親に対してその件を切り出すことが出来ずそのまま帰って来てしまう。やがてキボムの父親の奔走で、ようやく母親に3000万ウォンの和解金を支払うことで何とか和解のこぎ着ける。しかし加害者家族1軒あたり500万ウォンという和解金も、ぎりぎりの生活のミジャにとっては、到底工面することの出来ない金であった。
 そんなある日、いつも家政婦に行くカン老人のところへいくと、カン老人の様子がちょっとおかしい...

 加害者の家族というテーマは既に日本映画の中では何度も取り上げられているテーマであるが、韓国映画ではおそらくかなり異例のテーマであろう。それと、主人公であるミジャがアルツハイマーを患っていることが明らかになるにも関わらず、家族の誰も彼女の面倒を見ることが出来ない、また彼女自身も他の家族に面倒を掛けようにもかけられないという状況が、若干天然系であるミジャであっても、自分の人生を極力周囲に迷惑を極力掛けることなくどう締めくくっていくのか、ということを否応なく彼女に考えさせる(その彼女の立場は、例えばやはり映画の中に出てくるカン老人とその家族のあり方とは全く対照的である。彼の家族の方が韓国の伝統的な家族の姿に近い)。それが、彼女の詩を書いてみたいという欲求、そして、自分の犯した罪に関して反省しているのか反省しているのか分らない孫を、どうしていくのか、このまま何も考えず分別の付かないまま放置していて良いのかという課題などと交錯して、彼女は彼女なりにある方向に向かって歩みを進めていく。
 そういった彼女の人生における美意識が、川の流れの美しさ、あるいはこの土地の自然の美しさとオーバーラップして描かれてくるのだが、おそらく彼女のような美意識は韓国社会の中では、少数派あるいは例外的な存在であり、屹立して一人我が道を切り拓いていく、そんな姿が提示される。
 だがミジャ的美意識は、韓国の中では例外的であっても、むしろ日本人の中ではより普遍的であるように思われる。そういった意味ではミジャの美意識は日本に通じる部分があるし、共感も大いに出来るのだが、しかし、逆にこのような美意識を美しく描くだけで良いのか、という気もしないでもない。

 なお、演技者の演技(演出)の自然さは特筆もの。

 なお、主演のユン・ジョンヒは往年の名女優で、本作品が久々の復帰作。現在は海外で暮らしているようで、付加映像では、主人公のミジャはユン・ジョンヒをイメージして当て書きしたとのこと。そもそもミジャはユン・ジョンヒの本名であり、海外生活の長い韓国人のちょっと浮世離れした姿が、若干天然系のミジャという主人公の性格に合うと言うことでキャスティングしたようだ。また、カン老人役をやったキム・ヒラも往年の名優で、役柄同様本人自身脳卒中の発作に倒れ復帰した経歴を持つ。現在も役程ではないにしろまだ後遺症が残っているようだ。

 本作品は2010年の東京フィルメックス、クロージング上映が予定されているほか、シグロ、キノアイジャパンの配給で国内一般公開が予定されている。韓国での公開は2010年5月、観客動員数はKOFICによれば全国22万人程度。

 ところで韓国盤DVDの画質だが、これも『ハハハ』同様 United Entertainment Koreaの発行・販売となっており、画質は芳しくない。まずテレシネ自体の解像度自体が、標準的な韓国盤よりワンランク落ちる。さらに、川面に被さる木の葉などが特に目立つのだが(部分的には目立たないところもあるが)、全般にざらつくようなテクスチュアが目立つ。ただ、幸い『ハハハ』とは異なり片面2層収録なので、圧縮ノイズは『ハハハ』よりは目立たない。『ハハハ』が韓国の標準的なDVDより3ランクダウンなら、こちらは2ランクダウンといったところ。
 またDVDパッケージの構成は2枚組なのだが、このパッケージ構成自体疑問が多い。一応メインと付録の2枚組になっているのだが、なぜか両方とも本編が丸々収録されている。1枚目はDolby5.1+2の音声トラック、2枚目にはDolby2の本編音声+監督俳優コメンタリーの音声トラックという構成。そして両方とも付加映像が収録されていて、一部は両者共通である。予告編は1枚目に収録されていて、メニューから90秒編、30秒編の両方が選べるようになっているのだが、メニューから選択しても実際再生される予告編は逆(つまり90秒編を選択すると30秒編が再生される)という杜撰マスタリング。
 どうせやるなら、1枚目に本編とコメンタリーを含めた音声3トラックを入れ、2枚目に付加映像をまとめて収録しろよと言いたくなるが、全く何を考えているんだか。せっかくの名作が台無しである。どうせDVDなんか売れないよと手抜き製作が横行しているのだとすれば悲しい話だ。それともDVDはダメだと思わせてあとでさらにBlu-rayを売りつけようという魂胆か?将来国内盤DVDが販売される際、この素材がそのまま国内盤に流用されるとしたら悲しい話だ。あるいは将来出るであろうフランス盤あたりに画質は期待するか...(尚フランス盤は2011年1月Diaphanaより刊行予定) なお唯一の救いはリージョンは実質ALLということだけ。

原題『시』英題『Poetry』監督:이창동
2010年 韓国=フランス映画

DVD(韓国盤)情報
発行・販売:United Entertainment Korea 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1/2 韓国語 本編:134分
リージョン3(実際はALL) 字幕: 韓/英 (On/Off可) 片面二層(2枚組) 2010年 10月発行 希望価格W27500

追記
本作は『ポエトリー アグネスの詩』という邦題で国内公開(2012.2.11〜)。
公式サイト
http://poetry-shi.jp/


東京フィルメックス『詩』
http://filmex.net/2010/ss08.html

ところでUEKは何考えてんだ、と思う人はやはり韓国にもいるようで例えば...
http://m.boxweb.net/c/dvdprime/list.php?major=ME&minor=E1&master_id=20&bbsfword_id=&master_sel=&fword_sel=&SortMethod=&SearchCondition=&SearchConditionTxt=&bbslist_id=1806548&page=2

またこれは『詩』DVDの話ではないけれど...
http://m.boxweb.net/c/dvdprime/list.php?major=ME&minor=E1&master_id=157&bbsfword_id=&master_sel=&fword_sel=&SortMethod=&SearchCondition=&SearchConditionTxt=&bbslist_id=1821230&page=1

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
東京フィルメックスのチケット入手済みです。
劇中の詩が故ノムヒョン大統領のことを想って書かれているとか、ユ文化体育長官のシナリオについての暴言等もあって、とても観たかった作品です。
ユン・ジョンヒさんの演技があまりに下手との評もありますが、字幕なしでは全部は理解できない悲しい身ですし、まず観てみないとと思っています。
それにしてもUEKひどい会社ですね。
ishii
2010/11/22 11:11
 いつもお読みいただきありがとうございます。
 確かに既存の(体制寄りの)韓国社会への批判は明らかにあって、多くは韓国社会のフルメンバーである加害者の家族が、立場の弱い被害者の遺族へ安い示談金で済ますことで、自分たちの子供の罪を闇から闇へと葬ろうとするのに対し、ミジャは結果として反旗を翻すことになる... そういった意味では韓国版『清作の妻』的な位置づけは明らかにあります(『清作の妻』ほどの激しさはありませんが)。また、そこから韓国の政治状況に対する比喩や批判を読み取ることは可能だと思います。
 それを可能にしたのが、ユン・ジョンヒ演ずるミジャの韓国社会から浮世離れした感覚、そして韓国の親族やコミュニティのネットワーク・しがらみから浮いているという彼女の社会的立場であることは間違いありません(丁度『清作の妻』において田村廣が優等生過ぎるが故に浮世離れしており、そして若尾文子が元妾である故に地域ネットワークから切り離されていたように)。
 ただ、そういうミジャの存在や美意識が、無縁社会を生きる日本の高齢者の存在や美意識とオーバーラップして感じられて、ちょっと複雑な気持ちになったというのが正直なところです。
 ユン・ジョンヒの演技に関しては、むしろ意図的な演出(もしくは起用)なのではと私は思います。小津映画における笠智衆的存在とでも言いましょうか...
yohnishi
2010/11/22 18:03

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