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zoom RSS デジタル修復された李晩煕監督フィルム・ノワール作品 『黒髪』

<<   作成日時 : 2010/09/26 07:58   >>

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画像 前のブログ記事でも触れたが、韓国の毀損映画の代名詞となるほどフィルムの保存状態が悪いことで知られた作品。2009年釜山国際映画祭実行委員会の支援によりデジタル修復され、今回のDVD-BOXに収録された。内容は、ロマンス的な要素を含んだアクション・ノワール。イ・マニ(李晩煕)が撮ったプログラム・ピクチャーの中の代表作に数えられようか。

 密輸業者をゆすって金を強奪するなど、怖いもの知らずでやりたい放題のギャング団。そのギャング団は「黒髪」と呼ばれるボス(チャン・ドンヒ)に統率されている。実は彼は名家の生まれだったが悪の道に染まってしまったのだ。ところが部下の中の麻薬中毒者(チェ・ラン)が、麻薬代ほしさからボスの女房であるヨンシル(ムン・ジョンスク)から金をゆすろうと強姦してしまう。しかし、その現場を別の部下が写真に撮ってボスに通報してしまう。もちろん麻薬中毒者は団から追放。それのみならず、組織の戒律から、姦通したとされるヨンシルも顔を傷つけられ、追放されてしまう。仕方なく麻薬中毒者と共に生活するようになったヨンシルは、体を売って生活するようになる。しかし、自ら設けた戒律からとはいえ、女房を失った「黒髪」は落ち込み弱気になり、ギャング団の活動も停滞する。それを見た部下たちはボスに反旗を翻そうとするが、ボスは自分の掌にナイフを突き刺して見せつけることで彼らを制圧する。
 街頭で客を捜していたヨンシルは、タクシー運転手(イ・テヨプ)に会い一晩過ごした。彼女の顔の傷を知った彼は、車を買い取ったら整形手術させると言う。運転手は妹(カン・ムン)が住むアパートに客を送っていったが、その客に料金をちょろまかされてしまう。ところが彼は実は妹の恋人である大学生(キム・ウナ)だったのだ。一方、ヨンシルを忘れられないボスは、自分の山荘に行き乳母(チョン・エラン)に山荘の名義をヨンシルに変えるよう話す。
 麻薬中毒者に金をせびられ続けているヨンシルは、その地獄から何とか抜け出そうと、ボスに会うためにギャング団運営するバーを訪ねたが、部下たちはボスに隠れて彼女を殺そうと線路沿いに連れて行く。後をつけた運転手が彼女を救い、自分の家に連れていく。
 麻薬中毒者はヨンシルを捜すために運転手の妹と親しい連中を呼び各整形外科を見張るように頼む。そのさなか顔を直したヨンシルは運転手の家へ戻る。彼女が運転手の家で夕食を準備している間、後をつけてきた麻薬中毒者が入ってきて運転手の金を奪うと共に、彼女をボスの下に連れて行く。ボスはヨンシルに再び会い山荘へ行く途中、麻薬中毒者の焼殺を図る。二人は山荘で一晩過ごす。会長は戒律を破ったから自分を処刑しろとギャング団員たちに話し、自ら工事現場に部下たちと赴く。彼は、ボスは自らの手で全ての過ちを精算すべく、部下たちを殺した上で自裁する覚悟でその場に赴いたのだった...

 アクション・ノワールではあるが、アクションを見せてすっきりさせる作品というよりも、むしろ人間の矛盾した心理的葛藤の表現が際立って印象的な作品。やはり叙情派イ・マニの面目躍如たるアクション・ノワールと言えよう。
 ボスは名門の家柄に生まれながらもギャング団を率いたり、自ら設定した戒律に従って、結局最愛の女房を失ってしまうという、際だって自己撞着的存在。結局その自己撞着に決着をつけるため自裁の道をひた走っていく。一方、ヨンシルは陥れられたとはいえ、最愛だった夫と引き裂かれることとなり(しかし夫との関係は必ずしもうまくいっていなかったことは確か)、好きでもない男に金を貢がなければならない状況に置かれる。その中でホワイトナイトとして現れたタクシー運転手と元夫との間でダブル・バインド状況に陥ってしまう。部下たちは部下たちでボスに対する面従腹背状況にある、といった具合に、この映画の登場人物の大半が、自らの思いをストレートに表現することが禁じられた状況に置かれている。唯一その例外がホワイトナイトたるタクシー運転手ぐらいである。
 それが当時の韓国の社会状況、あるいは人々の社会心理状況の反映であったのでは、とまで言うと深読みのしすぎだろうか?またカメラワークに関してもなかなかで、ソウルの深い闇が印象的な作品。そして『休日』に引き続き、工事現場がある種のシンボルとして印象的に画面に登場する。画像

 ところで冒頭、本作は韓国で「毀損映画」の代名詞と言われた、と書いたがDVDに修復前と修復後の比較映像が収録されている。デジタル修復された画像それ自体はかなり美しく、おそらく『下女』よりもデジタル修復技術がかなり上がっているような印象を受ける。ただし、やはり元の毀損状況がかなりひどく(特に最初の1巻目がひどかったようだ)、フレームがどうしても復元できなかった部分は一番近いフレームをそのまま時間分補入したようである。そのため、最初の1巻目だけは、画像自体はきれいなものの、人の動きなどがかなり不自然にカクカクと動く画面が頻繁に見られ、やはり気になるがやむを得ないところだろう。2巻目以降に関しては埃、疵がかなりきれいに取り除かれ、あたかも新品のフィルムを見ているかのよう。
 日本では黒澤明の『羅生門』がかなり金を掛けてデジタル修復をしたことが話題になったが、結局あれはアメリカの会社に丸投げしたのであった。本作や『下女』に関しては、勿論資金的な問題もあるのだろうが、自国の会社でデジタル修復を手がけており、やはり技術蓄積という面からも韓国の姿勢は学ぶべきなのではないかと考えさせられた。因みに『下女』のデジタル修復を手がけたのはHFR、本作に関してはAZWorksが韓国映像資料院やドンソ大学と提携して修復を手がけている。
 引用画像に関しても修復前−修復後の比較映像から引用しておく。

 ちなみに、ボスを演じたチャン・ドンフィ(1920-2005)はイ・マニを囲む1.7クラブの有力メンバーで、『帰らざる海兵』(1963)以降、イ・マニの多くの作品に出演した。またヨンシルを演じたムン・ジョンスクは1927年平安北道ソンチョン生まれ(現在北朝鮮)。1962年イ・マニの『ダイヤル112を回せ』に出演以降、イ・マニ監督と愛人関係にあり、1970年にイ・マニとの関係が破局するまで、やはり多くのイ・マニ監督映画の顔として活躍した女優1)。

 『休日』もそうだったが、今回のイ・マニ コレクションDVD-BOXが初の日本語字幕付きでの本作の紹介となると思う。日本人映画ファンにとって今回のDVD-BOXの資料的価値は極めて高い。

1)以上の情報は Mun Gwan-gyu, (2009) Korean Film Directors Lee Man-hee, KOFIC/Seoul Selectionより。但しムン・ジョンスlクの生年はCine21データベースでは1929年になっている。


原題『검은 머리』英題『Black Hair』監督:이만희
1964年 韓国映画

DVD(韓国盤)情報
発行:Blue Kino 販売:トクスン・メディア画面: NTSC/16:9(1:2.35) 音声: Dolby1 韓国語 本編: 108分(本作)
リージョンALL 字幕: 韓/英/日(On/Off可) 片面二層(4枚組) 2010年 8月発行 希望価格W49500

イ・マニ コレクションDVD-BOX紹介
http://yohnishi.at.webry.info/201009/article_14.html

イ・マニ監督『休日』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201009/article_15.html

イ・マニ監督『森浦へ行く道』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201002/article_6.html

ソウル・セレクション イ・マニコレクション販売ページ(英語)
http://www.seoulselection.com/bookstore/index.php?page=shop.product_details&flypage=flypage.tpl&product_id=2969&category_id=2&option=com_virtuemart&Itemid=53

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