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help RSS 現在でもアルゼンチン理解のための最重要映画『オフィシャル・ストーリー』

<<   作成日時 : 2010/08/21 00:24   >>

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画像 1985年、ルイス・プエンソ監督によって撮られたアルゼンチン映画。軍事政権によって虐殺された人々の養子にやられた子供の問題を描いた作品。国内では1987年に松竹富士によって配給され、VHS、レーザーディスクも刊行されたが、今日では配給権切れとなっており基本的には国内で見ることは出来ない。TSUTAYAの新宿、渋谷店あたりで昔のVHSが残っているかどうか...
 現在でもアルゼンチンの政治・社会理解に不可欠な映画と言える。

あらすじに関してはこちら
Goo映画『オフィシャル・ストーリー』
http://movie.goo.ne.jp/movies/p11158/

 スペインでは1976年の軍事クーデターによって軍部政権掌握後、大々的に左翼の弾圧を開始、さらにアメリカの外資の導入を中心とする今でいうところの新自由主義経済政策を実施するが、それが失敗、天文学的なインフレを招く。そこで軍事政権への不満をそらそうと1982年、マルビナス(フォークランド)戦争をイギリスに対して仕掛けるが、イギリスの反撃でそれも失敗。国民の軍事政権への不満が頂点に達した時代を背景としている。
 この軍事政権下で多くの左翼活動家やシンパの市民が投獄、殺害され、現在でもその多数が行方不明のままとなっている。その際、獄中で出産されたり、あるいは両親の逮捕により孤児となった多数の子供たちが、闇の内に養子に出された。養子に出された先の家族は軍事政権支持者である場合も多かった。本作品はまさにこの問題を題材にしている。

 ブルジョアの妻であり、政治や社会情勢に疎かったお嬢様高校歴史教師アリシアが、大学時代の同級生で大親友だったスペインに亡命していたアナと高校の同窓会で偶然再会することを通じて、初めて自国の政治情勢認識に目覚める。と同時に養子としてもらってきた愛娘ガビィが、殺された左翼活動家の娘ではないかとの疑心が生まれる。
 果たして、大学まで行った女性がこんなに自国の政治情勢に無自覚であり得るのかという根本的疑問は残るが、しかし、アリシアが徐々に政治意識に目覚め、自分の家族を崩壊に導きかねない事実に対して、否定しよう否定しようとしながらも、自らの良心に照らして必死に正面から見据えようとする姿が感動的。

 同時に当時の、そして現代にも通ずるアルゼンチンの政治・社会図式の見取り図も提供してくれる。一方で貧しさと労働・インフレを通じた搾取に悩む多くの庶民がおり、それと対抗するもう一方の極に、軍部と結託した、アメリカを中心とする外資を利用して私腹を肥やす経済人たちがいる。彼らはハイパーインフレに苦しむ庶民を尻目に、国や国民を外資に売り払って儲ける連中である。新自由主義経済の下にまさに公共性が崩壊したアルゼンチンの政治・社会状況が如実に描かれる。

 この映画が製作される直前(1983年)、さすがに軍事政権は崩壊し、民政が誕生する。その中で、ある程度軍政時代の人権侵害の旧悪は暴かれた... かと思ったが、先日の朝日新聞の国際面の報道を見ると、本作品が制作され既に25年が経過したにも拘わらず、未だ大勢の左翼活動家の行方は不明であり、さらに闇の内に養子に出された子供たちの問題も、依然かなりの部分が未解決、もしくは実の親が判明したとしても、子の側の混乱で大きな後遺症が未だ残っているということは驚くべきである。

 さらに、新自由主義的経済政策が、民政移管後も継続して行われ、それがアルゼンチン社会のインフラを決定的に破壊してしまった状況は、例えばニコラス・トゥオッツォ監督の『今夜、列車は走る』などに描かれてる。国の資産を横取りして、売り払い、私腹を肥やすブルジョアたちは依然健在なのだ(そう考えると、新自由主義的経済政策が万能であるという神話がどうして日本で成立し得たのかが興味深いところだ)。

 そう考えると、本作品で描かれたアルゼンチン社会の政治・社会図式は、情けないことに今日においても全く古びていないという、全く驚くべき事実に突き当たる。本作品が今日においても尚、アルゼンチン理解のための最重要映画であるというのは、これが所以である。

 私たちが本作品を劇場で見た当時は、事態はまさにリアルタイムで進んでいたので、本作品の理解は容易であったが、その後25年たち、フォークランド戦争も知らない現代の日本人にとっては、理解のためには、ある程度当時のアルゼンチンの社会情勢に対する解説が必要かもしれない。

 なお、原題の『La Historia Oficial』のHistoriaにはストーリー(物語)という意味と歴史という意味が含まれており、歴史教師であるアリシアが公式の歴史に描かれない、真の物語/歴史に覚醒していく、というニュアンスが含まれているのだが、英題だとそのニュアンスが分らなくなってしまう。

 本作品のビデオ等は国内では絶版になっているが、DVDに関していえば、少なくともアメリカ盤、UK盤が出ている。KOCH LORBERから出ているが、当初アナログマスター・レターボックス盤が出され(KOCH LORBERの前身Fox Lorber時代の1998年11月)、その後再度リマスター・アナモルフィック盤が出たので、中古等で購入を検討している方は要注意。アナモルフィック盤の画質改善は著しいが、それでもPALマスターをNTSC変換しているせいなのか、今ひとつシャープさに欠ける画像。
 UK盤はArrow Filmsより2005年4月に出ている(希望価格£15.99)。PALでもリージョン2のディスクを求めるならこちらだろう。但し現物は入手していないのでスクリーンフォーマット等は不明。

原題『La Historia Oficial』英題『The Official Story』監督:Luis Puenzo
1985年 アルゼンチン映画

DVD(米盤) ※リマスター再発盤
発行・発売:KOCH LORBER 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 西語 本編: 114分
リージョン1 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2004年11月 希望価格 $24.98

ルイス・プエンソ監督の娘の作品『XXY』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200909/article_1.html

関連映画『スカウト』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200902/article_20.html





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