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zoom RSS 朝鮮人への善意の行き着いた果て?植民地朝鮮映画『愛と誓い』

<<   作成日時 : 2010/06/22 12:25   >>

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 2010年6月19日、韓国文化院で開かれた東北ア歴史財団・在日韓人歴史資料館共催の「映画で語る韓日関係の深層」での上映にて視聴。本作は1945年5月、植民地朝鮮にて、朝鮮人の戦争参加意識を高める目的で上映された戦意高揚映画。監督は戦後民主映画の騎手として活躍した今井正と、朝鮮解放直後、それを祝う『自由万歳』をいち早く製作したことで知られるチェ・インギュ。朝鮮人の見習記者の青年が神風特攻隊員の姿にあこがれて、特攻隊員になろうと軍に志願するまでを描く。

 以下「映画で語る韓日関係の深層」で配布されたパンフレットの映画史研究家キム・ジョンウォン(金鐘元)氏の「映画で見る韓日関係」からあらすじ紹介部分を引用して、あらすじ紹介に代える(一部明らかと思われるミスを修正)。

 京城新報の白石(高田稔扮)局長は、道端で暮らしていた金英龍(金裕虎)という朝鮮人の男の子を拾い育てている。普段から親交の深い村井新一郎(独銀麒)少尉が海軍特攻隊に志願し、発つ前日に新聞社の屋上で出征記念の写真を撮影した白石局長は英龍を彼に紹介する。戦争に発つ村井少尉が航空母艦に体当たりし戦死すると白石局長は彼の父(志村喬)が校長をしている小学校を訪問し、運動場に集まった学生に村井少尉もこの学校に通っていたとし、君たちも早く大きくなって彼の後を追うべきであると力説した。ともに白石局長の妻(竹久千恵子)を一歳の息子を持つ村井の妻である英子(金信哉)を訪ね、なぐさめる。
 村井少尉の家庭を取材するために彼の家に泊まった英龍は特攻隊に志願した若者(宋景明)を妬ましく思い、自動車を故障させる。しかし英龍はすぐに反省し村井少尉に関する記事を書いた後、彼の妻である英子と局長の妻の見送りを受けつつ、欽慕する村井少尉を追って海軍に志願する。
(以上 引用終わり)

 映画上映後のシンポジウムで呉徳洙監督が、今井正がここまで露骨な戦争協力映画を作っていたとは... と驚きを語っていたが、私も同感である。その一方で、東北ア歴史財団南相九(ナム・サング)研究員が、本映画を見て「今日の発表はしまった」と思ったとも語っていた。つまり、朝鮮人特攻隊員の創氏改名の問題について論じようと思っていたのに、本作では朝鮮人は朝鮮名そのまま映画に出ていたという点である。これについて南相九氏は朝鮮人が日本人名で出ていたらやはり説得力がなかったからではないか、と語っていた。もちろんその通りだと思うが、それだけではない様に私には思われる。

 果たして今井正は、そしてチェ・インギュは積極的に朝鮮民族を単に軍の道具として使うことに手を貸そうとしていたのだろうか(そしてその反省として、戦後転向したのであろうか)。あるいは、戦時体制下で食べるために自らの信念に背いて嫌々軍当局に協力したのであろうか。
 これは全く私の憶測だが、朝鮮人も内地人同様特攻隊に志願するんだ、ということを映画の中で示すことで、皇国における朝鮮人の地位向上を図る契機にしようとしていたのではないか。これは、既にブログで触れたが、朝鮮最初の「親日映画」(=反民族的映画)である『軍用列車』を監督した朝鮮人監督ソ・グァンジェが元々プロレタリア芸術運動に身を投じていたことからも、朝鮮人が皇国のため一定の役割を担うことで、朝鮮人の権利を向上させようという発想があったことが推察される1)。
 日本国内で治安維持法成立と引換に普通選挙法が成立したのは1925年。しかし植民地では、当分の間それを施行しないとされた。これに対し、植民地でも徴兵の義務を負うから内地人と同じように参政権を寄こせ、朝鮮人のアイデンティティを認めろというような発想もあったのではないか。ちょうど満州国における「五族協和」という建前の様に。
 とはいえ植民地各総督府は植民地での徴兵制施行には慎重だった。まず現地民の日本語運用能力の問題。そして、軍に入られて裏切られたらという懸念。特に朝鮮語や台湾語で連絡を取られたら、日本人には全く分からない。ちなみに沖縄戦で住民が集団自決させられた背景には、沖縄人(うちなんちゅ)が琉球語を使って米軍に寝返られたら、日本人には分からない(→だから自決させてしまえ)という軍側の恐怖があったものと推察される。しかし背に腹は代えられなくなった1944年後半になって植民地においても徴兵制が施行された。
 このように考えると本映画に出てくる朝鮮人が民族名そのままで出てくる理由も理解できる。

 本作を共同監督したチェ・インギュ監督は植民地時代対日協力映画を作り、解放直後に大幅に転向して民族解放を高らかに謳う『自由万歳』を作ったとされる。これはチェ・インギュ監督が植民地時代は自らの意思に反して対日協力映画作りを強要されていたのが、解放後、自分の本来の思想を表した映画作りをした、と見られている。
 しかし、私の憶測では、チェ・インギュ自身は実はそんなに大きく転向したと考えていなかったのではないかと思う。植民地時代は皇国という枠組みを外すことができないという制約の中で最大限朝鮮人の権利向上につとめ、解放後はその制約が外れた中でその思いの丈を表現しただけであり、朝鮮人の権利向上に努めるという思いでは一貫していたということではなかったのか。

 それと、映画の中に出ていた村井新一郎という役柄についても指摘しておきたい。彼は朝鮮人なのか日本人なのかよく分からない役柄である。当時の植民地朝鮮の教育システムでは、日本人と朝鮮人は別々の学校に通うのが普通であった。但し裕福だったり名望家だったりすると朝鮮人子弟が日本人の学校に通うということはあり得たが、その逆はまずなかった。
 そう考えると、朝鮮の子どもたちと同じ学校に通った村井新一郎は創氏改名した朝鮮人ということになる。しかし、父親である校長を志村喬が演じていることもあって、およそ朝鮮人らしくない存在である。おそらく当時の朝鮮人が見ても、朝鮮人らしいとは思わないだろう。そもそも村井を演ずる独銀麒という俳優の名前も怪しさ一杯である。もちろん芸名だとしてもおよそ独という姓は韓国人の中で見たことがない(但し「独孤」という姓はある。たとえば韓国人俳優に『南部軍』などに出演していた、トッコ・ヨンジェがいる)。日本人が見れば朝鮮人俳優風に思えるが、朝鮮人が見れば朝鮮人俳優に思えない名前だ。
 それでは村井は何者かということになるのだが、おそらく朝鮮生まれの内地人なのであろう。それでも間違いなく「朝鮮出身の特攻隊員」ということにはなる。その朝鮮出身の日本人を、純粋に朝鮮人である英子という妻と結婚させておくことで「内鮮一体」を強調するというような仕掛けがあるものと思われる
 その一方でおそらく当時の事情を知らない内地人は村井を朝鮮人だと誤読するだろう。いや、あるいは意図的に誤読させて、「朝鮮人だって立派にご奉公しているんだ」というメッセージを伝えることで、朝鮮人の地位向上を図ろうとしたのではないだろうか。

 朝鮮人の特攻隊勧誘を目的とする本作は、当然に対日協力映画とされるのだが、実は単純な報国映画とは言えず、むしろ朝鮮人の権利・地位向上を図ろうというサブテキストが含まれた映画なのではないかというのが私の仮説である。
 だがそれが幾ら日本人による、朝鮮人への善意で作られたとしても、いや朝鮮人に対する善意を持てば持つ程、「天皇陛下の赤子」として内地人に対する平等を追求する、というような構図に回収され、朝鮮人をさらに国家総動員体制に組み込む結果にしかならなかったことは歴史上明白である。
 だからといって「朝鮮人の様な二等国民に聖戦の一翼を担わせるのはとんでもない」とでも言っていた方が、結果的に朝鮮人のためになったのだろうか?それともチェ・ゲバラの様に他国の革命や独立のため、しゃしゃり出るべきだったのか?... そのあたりに今井正の沈黙の理由もある様に思われる。

1)このような傾向を傍証するものとして例えば、1930年頃当時反体制であった左翼運動の中でさえ、朝鮮共産主義運動が独立要求を一旦棚上げして、まず日本全体の階級闘争を目指すという方針転換がなされ、日本共産党指導下に入ったことが知られている。この件に関しては、文京洙(2008)『済州島四・三事件』(平凡社)、48頁以下を参照。


原題『愛と誓い』 監督: 今井正、최인규
1945年 植民地下朝鮮映画

ソ・グァンジェ監督『軍用列車』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200811/article_4.html

チェ・インギュ監督『自由万歳』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200908/article_8.html

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