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zoom RSS これは奥深い映画... パク・チャノク作品『坡州(パジュ)』

<<   作成日時 : 2010/02/06 21:05   >>

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画像 『嫉妬は私の力』(日本未公開)で長編デビューを飾った女流パク・チャノク監督の第2作。韓国では余りよい興行成績を残せなかったようだが、これは良い映画だ。なお、時間軸が交錯するところがあるので、時間軸の交錯で混乱する人は事前に基本設定を頭に入れて見るとよい。

以下、あらすじは時系列的に記述する。
 8年前、ジュンシク(イ・ソンギュン)は運動圏(学生運動、市民運動を行っている人)の学生。彼は警察の指名手配を受けて、先に逮捕された先輩の妻、チョンジャ(キム・ボギョン)の家に転がり込む。しかし、チョンジャと関係を持っていて目を離している間、子どもが深刻な火傷を負ってしまう。ジュンシクは最早ソウルにいられずに故郷の坡州(パジュ: 京畿道、ソウルの北1時間程の場所)にある、叔父の教会に転がり込む。
 やがて手配も解けて、ジュンシクは教会の仕事を手伝いながら補習塾を運営している。そんな中、叔父が自分は南原(ナムウォン: 全羅南道)に行き帰農したい、ついてはソウルに戻るつもりがないなら神学大学へ行き、教会を継いでくれまいかとの提案を受けるが断ってしまう。そんな中、偶然、競馬場で働くウンス(シム・イヨン)に出逢う。彼女は彼の補習塾に通うウンモ(ソ・ウ)の姉だった。だが、姉がジュンシクに対して好意を持つようになったことに気付いたウンモは、ジュンシクに「姉さんに手を出さないで」と言い放つ。
 やがて、ジュンシクとウンスは結婚する。ジュンシクは、親から受け継いだ家の処分を迫られていた、ウンス、ウンモ姉妹のため、新しい家を借りる手配をすると共に、定職のない自分はお茶の移動販売を始めようと準備を始めていた。その一方、姉を盗られてしまったと感じたウンモは友人と共に家出を決意する。ウンモが家出を決行したその日、ウンスは突発的な事故で亡くなってしまう。
 家出から戻ったウンモにジュンシクは、ウンスは交通事故で亡くなったと伝える。残されたジュンシクは、元の家に戻って補習塾とお茶の移動販売で生活費を稼ぎながらウンモを育てる。やがてウンモもジュンシクになついていく、否、単になつく以上の感情を持つようになる。ウンモが高校卒業を控え、大学進学を決めたある日、ウンモらの家の前に一人の女性が立っていた。それは、チョンジャだった。彼女はジュンシクを脱北者支援運動に誘おうとやってきたのだった。やがて、ウンモの家を拠点に運動家たちが度々会合をするようになり、ジュンシクを今まで独占できていたウンモは疎外感と嫉妬を深めていく。そして、運動のためジュンシクが警察に逮捕されたその直後、ウンモは大学の授業料を持って突然インド放浪の旅に出る。
 そして現在、ウンモは3年ぶりに坡州に戻ってくる。坡州は大規模な再開発計画で大きく変貌しようとしていた。ウンモは自宅に戻らず、立ち退きを迫られている友人が住むアパートに一室を手配して貰い、そこに住み始めるが、そこで図らずもジュンシクに再会することになる。というのはジュンシクは再開発反対運動のリーダーとして活躍していたからだ。そして、その反対運動の場で彼女は7年前に亡くなった姉の1億ウォンの生命保険料の受取人になっていることを知る。
 だが、保険会社で話を聞くと7年前の姉の死の真相や、生命保険を巡るジュンシクの動きに疑念が募る。ウンモは真相を調べようと動き始めるのだが...

 本作品が描くのは、当事者たちの思惑違いで構成された愛を巡る物語である。その意味ではシン・ドンイル監督の『私の友人、その妻』と共通する部分がある。ただ本作品では、お互いがお互いを思いやる気持ちから来る思惑違いである。ただ、その思いやりが結果的には、社会的な障壁もあって、お互いの気持ちや体を通じ合わせることに必ずしもつながらないし、時にそれが裏目に出てしまう、そんな複雑に絡み合った悲恋である。
 その一方で、この映画は社会から疎外された「運動圏」の人々の物語でもある。本作品の冒頭などに出てくる、ヤクザの頭目でありナイトクラブの社長は、現実社会の象徴である。そしてジュンシクらはそういう現実社会とは距離を置き、時に対立するスタンスをとってきた。だがそれは一旦現実社会からはじき出された結果、そう生きざるを得ない側面もあった。ウンモの最後の行動は、ある意味でそのような生き様に追い込まれたジュンシクを救うことでもあった。このあたりは「運動圏」の経験を持つ人々にとっては複雑な思いで受け止められそうだ。

 勿論、人の見方によっては本作品は様々な解釈の余地を許容する奥深い作品である。例えば、ウンモとジュンシクの間に関係はあったと見るかなかったと見るかによって、愛の物語と見るのか、憎しみの物語と見るのか、解釈は変わりうる。またセックスの意味をどう考えるかによっても... いずれにせよ、本作品は見る人によって多様な解釈の余地を残す物語を、鮮やかに切り取り提示して見せた、見事な心理劇と言うことが出来るだろう。また伽耶琴を使った主題曲や曲の使い方のセンスの良さ、女性的視点の活かされたキャスティングなども特筆に値する。なお、余計なことだが、映画に出てくるパジュ駅の駅名標の漢字が間違って「波州」になっている。これは、実際の坡州駅で撮影したのではなく(電化複線化工事進行のため)、おそらく京義線の非電化区間のどこかの駅を坡州駅に仕立てた時に美術スタッフが間違ったのだろう。

 本作品は、昨年(2009年)10月韓国で一般公開され、昨年の釜山国際映画祭ではネットパック賞を受賞。また本年(2010年)ロッテルダム国際映画祭で開幕作として上映されることが決定している。日本では未公開。ただイ・ソンギュンがキャスティングされていることから、あるいは韓流の枠内で公開される可能性もあると思う。

 なお、DVDのパッケージには画面サイズがアナモルフィックの1:2.35とあるが、実際は1:1.85であった。

原題『파주』英題『Paju』監督:박찬옥
2009年 韓国映画

DVD(韓国版)情報
発行・販売:EOS Entertainment 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1 韓国語
本編: 111分 リージョン3 字幕: 韓/英 片面ニ層(2枚組) 2010 年 1月発行 希望価格W27500

2010.7追記

本作は「あいち国際女性映画祭」で2010.9国内上映予定
http://aiwff.com/index.php?ml_lang=ja

2010.12追記
また、「真! 韓国映画祭2011」でも上映予定
http://www.melma.com/backnumber_132362_5036083/

他の韓国映画に関する記事
http://yohnishi.at.webry.info/theme/fc194a0a1f.html

2012.5.25国内盤DVD発売


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