サタジット・レイ入門作 彼のエッセンスが詰まった『The Music Room』

画像 『大地の歌』三部作で著名なサタジット・レイの1958年作品。日本では1988年大インド映画祭で上映されたことがあるようだ。

 ビスワンバー・ロイはベンガル地方の大地主。彼は音楽狂いで、家の音楽室に高名なインド古典音楽の演奏家を招いては、人々を招待してコンサートをたびたび開いている。だが、それも度が過ぎ、家が傾くのもいとわず、家の資産や妻の宝石を売ってはコンサートを開いている始末。
 彼には妻マハマヤ(Padmadevi)と息子コカ(Pinaki Sengupta)がいる。息子には幼い時から音楽を学ばせ、今や勉強もせず音楽三昧の日々。そんな夫を妻は心配しているが、夫はお構いなし。そんな中ある日妻の実家から、妻の父の体の調子が悪いので実家に帰ってくるよう手紙が届く。妻は息子と夫を連れ実家に帰ろうとする。夫が自分の留守中にまたコンサートで散財するのではと心配してそう言うのだが、夫は、息子を連れて行くことは承知するものの、自分は土地を見回る必要があると拒絶する。結局ハママヤは息子だけ連れて実家に帰省する。
 妻の留守中に、金貸しの息子マヒム・ガングイ(Gangapada Basu)がロイの屋敷に訪ねてくる。彼は商売で成功しロイの屋敷の近くに彼も屋敷を構えることになったのだ。そしてその屋敷の竣工祝いに、彼も高名な音楽家を招いて家でコンサートを、正月に行うのでぜひ来てほしいと彼を招待しに来たのだ。だが、ロイは賤しい金貸し風情が自分と同じようにふるまうのが気に食わない。ロイ家の番頭(Tulsi Lahiri)の心配顔をよそに思わず、自分も正月にコンサートを企画しているから行けないと言ってしまう。
 それからはガングイを圧倒するような高名な音楽家を手配し、妻の実家にコンサートが開かれる正月の初日までに戻るよう手紙をしたためる。
 だが、コンサートがまじかに迫ると大きなサイクロンが近付く。不吉を予感させるように、そのサイクロンの強風にあおられ飾ってあった模型の船が横転する。妻と息子はコンサートの開始まで戻らない。そしてそのコンサートの最中悲報は届いたのであった...

 国内では映画祭公開にとどまっているが(映画祭公開邦題は『音楽ホール』)、海外ではサタジット・レイ入門映画として知られる本作。サタジット・レイの映画技法のエッセンスがそろった作品。
 サタジット・レイは1955年に『大地の歌』三部作の第一作、『大地の歌(Pather Panchali)』を発表し、カンヌ映画祭で受賞したことから国際的にも知られ、国内的にも大ヒット。だが第2作である『大河のうた(Aparajito)』はベネチア国際映画祭で受賞したものの、国内市場ではあまりヒットしなかった。そのため、ぜひヒットさせようと背水の陣で臨み、題材も大きく変えたのが本作。だが本作も、レイの期待ほどの興行収入を上げることができなかった。原作はTarashankar Banerjeeのベンガル語地域では有名な小説であるが、原作ではコレラの流行により家族を失うことになっている設定が変更されている。
 サタジット・レイはもともとカルカッタの富裕層の家に生まれ、子供時代からベートーベンなどの西洋古典音楽にも親しんでおり、映画における音楽的センスは高く評価されていた。その彼が、インド映画史上初めてインドの古典音楽を全面的に前に打ち出した作品として本作は知られている1)。演奏には、ラヴィ・シャンカールなど高名な演奏家が参加している。
 優美なインドの古典音楽の姿を余すところなく伝えるとともに、新たに台頭していく新興の商工業者と入れ替わるように、没落していくインドの貴族階層の哀愁あふれる姿、インド社会の主人公の交代の姿、社会変動の有様を冷徹に描いていく。
 映画技法的には、例えば妻子の悲劇をシンボリックに予兆する模型の船の転倒を通じて彼を待ち受ける運命に向かって盛り上げていく展開など、特にシンボリックな表現が印象的。

 本作は米国クライテリオンよりBlu-rayおよびDVDでリリースされている。フィルムのスクラッチノイズ等は100%取り切れているわけではないにしろ、ほぼ気にならないレベル。
1)DVD収録の解説映像による。

原題『Jalsaghar』英題『The Music Room 』監督:Satyajit Ray
1958年 インド映画 モノクロ 100分(オリジナル上映時間)

Blu-ray(US盤) 
発行・発売:Criterion Collection 画面: 1080p(1:1.37) 音声: DTS1 日本語 本編: 100分
リージョンA 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2011年 7月 希望価格 $39.95




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