テオ・アンゲロプロス監督『旅芸人の記録』

画像 ギリシャの1930年代から50年代にかけての政治の季節を、旅芸人の一座の命運と彼らの視線を通して描いた作品。

あらすじはこちら(goo映画)
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD8070/

 本作を見て、イム・グォンテク監督による韓国映画『太白山脈』と共通する点が多いのに気が付いた。ギリシャは朝鮮半島のように南北分断こそなかったが、本作に描かれている、左右の葛藤が非常に激しい点、そしてその左右の葛藤が、人々の生活の中に深く根を持っているという側面が非常に共通している。
 ただ、その描き方は対照的だ。『太白山脈』が左右葛藤のリアリズムを追求した描き方をしたのに対し、『旅芸人の記録』では、その描き方は象徴的であり、リアルな描写はあまりない。ただ、それが旅芸人の暮らしが時代に翻弄される中に象徴されるばかりである。
 だが、政治のイデオロギー対立が、旅芸人一座の団長アガメムノンと副団長格のアイギストスのアガメムノンの妻であるクリュタイムネストラを巡る葛藤の中に根を持っている様は、『太白山脈』の中に描かれている左右葛藤が、イデオロギー対立が、部落の中の家族間、個人間の個人的な軋轢の反映であったりする描写と軌を一にする。左右のどちらかに立つということが、必ずしもそのイデオロギー自体に対する共鳴の結果ではなく、憎むべき相手の反対陣営だからこそ支持する、というような構図が共通に存在する。それが悲劇的な死をも招く葛藤に転化するのである。
 ただ、ギリシャ軍は必ずしも強くはない。常にトルコの軍事的脅威に煽られてきており、ときにキプロスの問題に象徴されるように、ギリシャ軍はトルコに対し軍事的な劣勢を強いられてきた。にもかかわらず、軍事政権や右派イデオロギーが大きな力を持ち得てきたという理由がよく分かりにくい。月並みな表現を使えばおそらく「米帝国主義」の反映だったのであろうし、映画の中にもたびたび英軍が登場するというのがその象徴なのであろうが...
 旅芸人一座の間の個人的な葛藤が、その背後にイデオロギー対立の衣をまとい、そしてときに個人的な報復や攻撃のために、そのようなイデオロギーシステムを動員することを通じて、旅芸人の一座も最終的にはてんでばらばらに解体するところまで追い込まれてしまう... そんな歴史的な愚かさを、アンゲロプロス得意の長回しを駆使して、象徴的に、だが余すことなく徹底的に描いたのが本作品である。

 なお、国内盤DVDは以前にも書いたように全般的に暗く、暗いシーンでは何が映っているかさっぱりわからない。特にクリュタイムネストラの情事シーンが本作品理解に決定的であるにもかかわらず、何をやっているのかさっぱり分からないので、非常に苦しい。DVDで見ようとするなら、可能であればフランス盤DVDが望ましいのだが、フランス語字幕しかないのでお勧めしたいのはやまやまだが、お勧めするわけにもいかない。できれば劇場で見る機会を探してほしい。なお、IMDBによれば上映時間は230分なので、フランス盤DVDはPAL4%スピードアップとなっている。

 なお、国内盤で本作品が収録されているアンゲロプロス全集第1巻に関しては、本作品以外は、PALマスターの『1936年の日々』は画像は比較的良好。国内マスターと思われる『狩人』に関しては、画質はいまいちだが、『旅芸人の記録』程ひどくはなく、またフランス盤が144分バージョン(おそらくギリシャ盤も?)なのに対し、172分と完全に別編集バージョンであるところから資料的所蔵価値は高い。


原題『O Thiassos』英題『The Traveling Players』監督: Theo Angelopoulos
1975年 ギリシャ映画

DVD(仏盤 アンゲロプロス・コレクション) 
発行・発売:Potemkine Films / Agnes B. DVD 画面: PAL/4:3(1:1.33) 音声: Dolby2 希語 本編: 222(本作)分
リージョン2 字幕: 仏(On/Off可) 片面二層(8枚組) 発行年2010年12月 希望価格 Eur 68.99
※なお、『旅芸人の記録』自体はこのコレクションのうち唯一の2枚組。

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