イラン映画への既成概念を破る『花火の水曜日(原題: Chahar Shanbeh Souri)』

画像 日本で公開されているイラン映画のうち、イランの近代的な都市生活を描いたものは殆どないような印象を受ける。昨年公開されたパナヒ監督の『オフサイド・ガール』はイラン都市部の現代の女の子を描いてはいるが、イスラム原理主義社会における女性差別を描いているという意味では、やはりエスニック映画として受け取られた側面が強いだろう。
 しかしここで紹介するイラン映画『花火の水曜日(英題 Fireworks Wednesday)』は、イスラム原理主義と見られがちなイランでも、現代都市生活においては西欧社会や日本社会と全く変わらない側面を持っていることを改めて気付かされる映画である。

 この映画はイランの伝統的な正月(太陽暦で春分の日前後の水曜日に始まる)を背景とした作品。大晦日に当たる火曜日の晩には皆が爆竹や花火で祝う火祭りがあり、原題のChahar Shanbeh Souriはこの火祭りのこと。
 結婚を控えたルイ(タラネ・アリドゥスティ)は結婚資金稼ぎに正月前の家の大掃除を手伝う家政婦のアルバイトに登録する。彼女はある若夫婦の家に派遣されるのだが、家に着くなりその家の妻からお金を渡すからすぐ帰れと言われる。実はその夫モルテザ(ハミッド・ファロク=ナジャド)と妻モジデ(ヘディエ・テラニ)の間が不和で、モジデは夫が同じマンションに住む離婚した婦人と不倫関係にあるのではないかと疑っているのだ。だが夫は不倫を強く否定する。それが事実かどうかに関わらず二人の結婚生活は危機的な状況にあり、妻は子供の世話を家政婦に任せっきりにして夫の不倫の証拠をつかもうと必死に探し回っている。モルテザは和解のために新年の休暇にドバイへの家族旅行を企画するが不振に駆られたモジデは同行を拒否するつもりでいる。
 ルイはいったんはその家を出るが、呼び戻され、離婚婦人の事情を探るために彼女が開いている美容院に予約をいれさせられる。しかし、彼女の親切と、モジデの様子の異常さからルイは離婚婦人にモジデに気をつけるように忠告する。
 その後モジデとモルテザの間にいざこざが起こるが、最終的にルイの機転でモジデの夫に対する疑いが晴れ、無事家族そろってドバイ旅行に行くことになり一見四方丸く収まったように見えるのだが、実は...
 そして無邪気に将来の結婚生活の幸せを信じていたルイも、イランの現代夫婦の不和の目撃を通じて、改めて自分の将来を考えさせられることになる。

 特殊なイスラム原理主義社会と思われているイラン社会であるが、そこであっても現代の我々の社会と同じように不倫あり夫婦げんかありという状況に改めて気付かされる。それとイラン都市中産層の意外な(と言っては失礼かも知れないが)生活水準の高さにも。率直に言ってオートロック付きのマンションが出てきたイラン映画は初めて見た。
 逆に言えば、今まで日本に紹介されてきたイラン映画はイラン社会の伝統性を強調する(あるいは田舎を舞台にした)ものが多く、そこでイメージされてきたイラン社会への印象は「オリエンタリズム」に偏っていたのではないかということも感じさせられた。

 なお、ルイ役を演じたタラネ・アリドゥスティは薬師丸ひろ子の若い時を彷彿させる美人。またDVD画質の低クオリティで悪名高いFACET VideoのDVDであるが、レターボックスとはいえ、FACETとしてはまずまずの画質であった。

 なお、監督のアシュガル・ファルハディ(Asghar Farhadi)は1972年イスファファン生まれ。1998年テヘラン大学で、映画監督養成の修士課程を卒業。この間国営ラジオでシナリオを書いたり、TVの演出を経験。映画長編監督デビューは2003年『風塵に踊る Dancing in the Dust』。そして2004年『美しい町 The Beautiful City』、本作と製作してきた。 日本国内での監督作品上映歴は、『美しい町』が2005年にイラン大使館のイラン映画上映会で英語字幕版で上映されたのみ。国内では殆ど知られていないと思われる。

原題『Chahar Shanbeh Souri(IMDBではChaharshanbe-sooriと表記)』英題『Fireworks Wednesday』 監督 Asghar Farhadi
2006年 イラン映画

IMDB情報
http://www.imdb.com/title/tt0845439/
ウィキペディア英語版
http://en.wikipedia.org/wiki/Fireworks_Wednesday

DVD(US版)情報
販売: FACET Video 画面: NTSC/4:3レターボックス 音声: Dolby2 ペルシャ語 本編: 104分 リージョンALL 字幕: 英語(ハードサブ) 片面1層 1枚 2008年4月発行 希望小売価格 $29.95

2012.9付記
本作品はアジアフォーカス福岡国際映画祭2012で『火祭り』の題名で国内初上映予定
http://www.focus-on-asia.com/

また、ファルハディ監督の本作品前の2作も公開が予定されている。



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