赤い殺意 - 1964年日本映画

 今村昌平監督が生前、代表作の一本として自認していたという作品。いくつかの試練を経て、虐げられていて、かつ自己評価も低いある女性が、自分自身を確立していく過程を描いた作品。1960年代前半の世相や当時の女性の位置づけをよく表している一本。また1960年代を描いた鉄道映画としても貴重。DVDは、2004年にジェネオンから出された後長らく廃盤になっていたが今夏、ディメンション (DIGレーベル)より新装再発売(2019.7.2)された。

映画の設定
 東北弁が激しく、かつDVDには字幕もないので、聞き取りにくく設定が分かりにくいところがあると思われるので、ここでまず事前に押さえておくべき設定を記す。

 主人公の高橋貞子(配役: 春川ますみ)は、東北大学図書館に勤務する図書館司書、吏一(西村晃)の妻であり、息子、勝(日野利彦)と仙台市内の東北線線路端の借家に3人暮らし。一見平凡な主婦のようだが少々いわくつきである。
 というのは吏一の家は本来仙台の近郊の高屋敷にある旧家。吏一の亡き祖父には妾、まつがいた。だがまつの恨みのせいか、本妻には男子ができず、まつの息子を本家に引き取って跡を継がせたが、子を奪われたまつはそれをはかなんで自殺した。そのまつの娘は東京に出て女給をしていたが、彼女が私生児として生んだ子が実は貞子であった。だが貞子の母は若くして亡くなり、東京で身寄りのなくなった貞子は高橋家に引き取られ、女中代わりに働かされていた。
 吏一は当時、実家から職場に通っていたが、すでに職場の同僚、増田義子(楠侑子)と関係があった。ところが吏一が風邪をひき、実家で貞子の看病を受けているうちに、貞子にむらむらときた吏一は貞子と無理やり関係を持ってしまうが、その現場を母、忠江(赤木蘭子)に目撃されてしまう。その上、貞子は勝を身ごもってしまったので、仕方なく忠江は二人の夫婦関係を承認し、世間体もあって仙台市内に分家させる。だが、貞子の生まれのこともあり、正式に籍に入れることは認めず、かつ勝も、貞子の子としてではなく、忠江と吏一の父、清三(加藤嘉)の子として届け出た。
 従って、貞子は実質的には吏一の妻として過ごしながらも、名目上は世間から承認されない日陰者としての生活を余儀なくされていたのであった。

春川ますみ
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左より 春川、小沢昭一、北村和夫、西村晃
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具体的なあらすじに関しては以下を参照
赤い殺意 - Movie Walker
https://movie.walkerplus.com/mv21218/

 すでに触れたように、本作の主たるテーマは女性の自己確立と考えられるだろう。主人公の貞子は夫の世話をかいがいしくするが、それを夫から評価されることもなく一方的に夫に指図を受ける存在でしかない。しかも夫は義子との関係も並行して持ち続け、姑には学がないと蔑まれ、正式に籍にも入れてもらえない。「顔を見たこともない」祖母のことで「本家」から「怒られてばかり」の立場である上に、彼女自身、自分に対する自己評価が低くならざるを得ない立場に追い込まれている。彼女には何も落ち度がないにもかかわらず、自分を責め、だからこそ自分が受けた侮辱もひた隠しに隠すことしかできない。
 もちろん、その原因は彼女の自己責任ではないその出自によりそのような立場に追い込まれているわけであるが、その意味ではそれは彼女だけの特殊な立場ではなく、女というだけで蔑まされかねない、女性一般の立場の象徴でもある。
 だが。彼女は彼女の暮らしの突如闖入してきた平岡(露口茂)との関係を、徐々に自らコントロールし、捻じ伏せていこうと努力することを通じて徐々に主体性を獲得していく。本家との関係も舅が亡くなって、彼女自身が主体的に本家を運営しなければ本家が成立しなくなるという状況の中で、裁判を起こし、息子を自分の子どもとして法律的にも認めさせ、そして吏一との正式な婚姻関係を獲得していく中で、主体的に生きていく権利を勝ち取っていく過程が描かれる。いわば戦後日本社会における女性主体の近代化過程が象徴的に描かれていると読み解くことができるだろう。

 また、実際に列車を使って撮ったという、貞子と平岡のもみ合うシーンの緊迫感もよい。今日では安全面からも到底撮ることを許されないシーンであろう。蒸気機関車が疾走するシーンも多数出てきて、鉄道ファンにはまたたまらないであろう。

松島駅にて C6013が蒸気を噴出するシーン
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以下、春川と露口による列車でのもみ合いシーン。架線柱を巧みに避けながらもみ合うところが見もの
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雪中のC57171
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 またぽっちゃりとした、若き日の春川ますみの魅力的な姿が見られる点でも特筆すべき。

 なお、本作にはおそらくHDマスターは作成されていないものと思われる。海外で出ているビデオディスクにもBlu-rayは存在しない。Youtubeに出ている今夏再発したDIGレーベルの予告編には「HDリマスター」との記述も見られるが https://www.youtube.com/watch?v=5nAWjo3AHC0 このシリーズは既存のマスターを流用しているのが普通であり、本作も同様であろう。

1964年 日本映画 150分
モノクロ 1:2.35
監督 今村昌平
脚本 長谷部慶治、今村昌平

2019.7.2 DVD再発




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