チェコスロバキア映画『大通りの店』

 1965年ポーランド映画。日本国内では2005年にNHK BSで放映されたのと、2017年、イメージフォーラムで開かれたチェコ・ニューウェーブ上映会で1回だけ上映された模様。ビデオディスクは国内では出ていない。おそらく、国内で配給権を持った配給会社はないのではないか。ホロコーストを扱った作品。

 時は1942年。ナチが侵攻し、それまで独立を実現できなかったスロバキアは、ナチの下で独立を宣言するとともに、ドイツでナチが制定したニュルンベルグ人種法に自主的に従うと宣言する。

 そんな中、毎日愛犬と散歩するのが最大の楽しみである大工のトノ(Jozef Kroner)は自分の土地を戦勝記念塔を立てるために接収され腐っている。記念塔を建てる仕事に関わろうともしない。そのトノには防衛隊に勤める義弟がいるが、あまり好ましく思っていない。だがトノが義弟に接収について文句を言うと、その代償として大通りのユダヤ人老婦人が経営するボタン店のアーリア人監督官に任命してやるという。要は、事実上ユダヤ人の資産をアーリア人であるスロバキア人に分け与えるという話だ。欲張りな妻はユダヤ人だから金持ちの筈であり、これで明日から我が家は大金持ちだと大喜びする。
 翌日トノが証明書を持ってその店に出かけると、店の主人、ラウトマン夫人(Ida Kminska)は高齢で耳が遠く、事情がよく呑み込めない。そのためトノを徴税官か何かと誤解する。そこへトノのユダヤ人の友人クカー(Martin Holly sr.)がやってきて、夫人に対しトノは手伝いのために来たと説明する一方、トノには夫人は夫もなく子供は外国へ行き、ボタン商売も大したことがなく、現在はユダヤ人コミュニティの援助を受けて辛うじて暮らしているのだと説明する。
 その話を聞いてうまみはないと悟ったトノは彼女のアーリア人監督官の権利を辞退しようと考えるが、クカーらに夫人を守るためにそのままとどまってほしいと懇願され、ユダヤ人コミュニティの長老から月給までもらってしまう。その月給を家に持ち帰ると、そんなに金になるのかと妻は大喜び。 こうしてトノがラウトマン夫人をサポートする生活が始まる。だがトノはラウトマン夫人を手伝っているうちに、だんだん彼女に情がわいてくる。一方妻は店のどこかに金か財産を隠しているに違いないので、それを探してくるよう夫に言う。
 そんなある日...


 まず、本作に出てくる時代的背景について指摘する。スロバキアのチェコスロバキアからの独立運動の起源は1930年代にさかのぼり、カトリックの牧師アンジェイ・ヒリンカが指導者であった人民党が始める。1938年に彼が死ぬと独立運動の指導者はヨゼフ・ティソに受け継がれる。1938年にスデーテンランドのドイツへの割譲が決まると、それを引き金に、スロバキアがその年の10月に独立宣言を行い、チェコスロバキア政府はそれを受け入れることとなる。だが11月のウィーン協定でスロバキアはハンガリーとポーランドに割譲されることが決まる。それに対し、ナチ政府は、スロバキア独立運動体に対し、ナチの影響下での独立を選ぶか、それともドイツ、ハンガリー、ポーランドの参加国による分割かのどちらかを選ぶようせかす。結局1939年のナチのチェコ侵攻の前日(3/15)に、再びスロバキアは独立を宣言する。
 スロバキア人民党の右派を率いていたヴォチェック・ツカによってナチとの友好関係が確立され、反ユダヤ・プロパガンダも積極的に行うようになる。ツカは、ティソを首相の座から引きずりおろして自ら首相に就任、反ユダヤ綱領の制定に動き、1942年にはユダヤ人のドイツ強制収容所への移送も始める。人民党の軍事部門であるヒリンカ防衛隊はその移送作業を積極的にサポートすることになる。本映画に描かれた時代はまさにこの時期である。映画に出てくるナチスの鍵十字に似ているようで似ていない「キ」印のマークはこのヒリンカ防衛隊の印である。
 なお、その後ナチによるスロバキア統治は、スロバキア人民のナチへの反発もあり、1944年にはナチによる直接接収に切り替えられてしまい、再びスロバキアは独立を失ってしまう。

 さて本作は当初はいささかのんびりとしたコメディタッチで始まる。うだつの上がらない夫と欲深い妻との葛藤、さらに耳の遠く「アーリア化」など何のことだかさっぱりわからないユダヤ人の老婦人と主人公等の頓珍漢な相互扶助生活。そしてやがて主人公と夫人とのほのぼのとした心温まる交流を経て、最後は、予想されるように、急転直下の衝撃的な結末を迎える。
 夫人への親愛の情と、自分自身も親ユダヤ派として弾劾されるのではないかとの不安に身を引き裂かれるような思いをする主人公の苦悩、そして単純にユダヤ人の財産の山分けに自分たちもありつけるのではないかという、主人公の妻の姿の象徴される、無慈悲な一般スロバキア人の姿...

 見る人に大きな波紋を投げかける映画であることは間違いない。

1965年 チェコスロバキア映画 125分 モノクロ 1:1.33
原題 "Obchod na korze"
英題 "The Shop on High Street" (UK), "The Shop on Main Street" (US)
監督 Jan Kadar, Elmar Klos
脚本 Ladislav Grosman, Jan Kadar, Elmar Klos

なお、本作のビデオディスクはイギリスの主として東欧映画のビデオディスクを手掛けるSecond Runから、Region ALLのblu-rayディスクが刊行されており(2016.8.15)、フィルム素材はチェコ・フィルムアーカイブでデジタル化されたもの。細かい傷や埃は取り切れていない面も見受けられるがおおむね良好。モノクロ画面の黒は真っ黒ではなく、やや紫がかったセピア系の色調である。
DVDも出ているがRegion ALLではあるもののPAL盤で、国内では一部のプレイヤーもしくはPCでしか再生できない。また米クライテリオンからもDVDが出ているがこちらはRegion 1のNTSC盤で通常のプレイヤーやPCでは再生できない。

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