あらためて映画『ガキ帝国』を評価する

 先日(2019.7.27)、NHKスペシャルで『半グレ: 反社会勢力の実像』が放映された。振り込め詐欺などの新しい要素が増えているものの、その一方でその本質は、3、40年前の愚連隊の時代からあまり変わっていないのではないか、という印象を強く受けた。その際思い出されたのは、大阪の愚連隊少年たちの群像を描いた井筒和幸監督の1981年の映画『ガキ帝国』である。改めてあの映画は、かなりリアルな映画だったのではないかと思わされた。

 『ガキ帝国』は1981年に公開されているが、舞台となっていたのは1960年代末の大阪である。率直に言って、井筒和幸監督の最高傑作、と言ってしまうといささか井筒監督に失礼かもしれない。ただより分かりやすく感動を呼ぶ映画はその後も彼は作っているけれど、映画の深みという点では井筒作品中ピカ一ではないかと思っている。

『ガキ帝国』のあらすじについてはこちらを参照。

『ガキ帝国』 Movie Walker
https://movie.walkerplus.com/mv16879/

 まず『ガキ帝国』は分かりやすい映画ではない。そもそも最初にガキ帝国をスクリーンで見たときは登場人物が多すぎ、かつ離合集散を繰り返すので、いったい何が何だか混乱してよく分からなかった。だが改めて登場人物やグループの関係やその背後を整理しなおして再度見直してみると、非常に深い感動(という言い方はいささか安直だが)が待っていた。
 映画鑑賞のためのサポートとして、まず、その人物、グループ関係を整理してみよう。メインとなる主人公は3人。リュウ(島田紳助 扮)、チャボ(松本竜介)、ケン(趙方豪)である。ただケンとリュウは在日朝鮮人でありリュウの家(父親役は夢二いとし)は在日朝鮮人にありがちな屑鉄屋である。このことが読み取れるかどうかが本作理解の大きなキーポイントである。そしてリュウに金魚のフンのようにくっついているチャボは日本人。劇中ケンが「俺にも日本人の連れがいる」と言うのはチャボのことであろう。ただ、チャボは自分の連れであるリュウやケンが在日朝鮮人であると理解しているかどうかは怪しい。
 そしてその三人のアイドル的存在は京子(紗貴めぐみ)。彼女も朝鮮人なのは、のちに高とデートする場面でチマチョゴリの朝鮮高校の制服を着ていることから分かる。ちなみに京子役の紗貴めぐみは、役と同様、実際に日活ロマンポルノに出ていた。

 そして彼らの敵役として出てくるのが、明日のジョーこと高常勝(升毅 扮)。名前から当然彼も在日朝鮮人(済州島系)であり、岡山の少年院時代リュウの連れだったのは同じ在日のよしみであろう。しかしのし上がろうという意欲満々の彼は出所後、リュウらと対立する北神同盟に入会する。彼の恋人はアコ(雅薇)であるが、彼女は高の唯一の泣き所である。



 そして大阪のキタを根城にしている愚連隊が北神同盟である。彼らのバックに暴力団、竜神会の小野(上岡龍太郎)がついており、急速に力をつけてきているが、日本人である北神同盟の会長黒木(玉野井徹)は竜神会と北神同盟は対等であり、あくまで下請けではないという姿勢。だが、高は小野に絶対忠誠を誓う代わりに、黒木をトップから追い落とす。じつはその裏には、もちろん高のトップを取りたいという欲望もあるのだが、実はナンバー2の江崎のグリコ(中浩二)の口利きで売春婦に身を落としたアコを、力をつけて取り戻したいという願いがあった。だがせっかくアコの解放が可能になったのに、アコはすっかり売春婦の生活が身についてしまい、彼女は解放を拒否する。

 一方ミナミを根城にしている愚連隊がホープ会。日本人の服部(北野誠)が会長である。だが、やがて高が会長になり力をつけてのしてくる北神同盟に敗れ傘下に入る。さらに北神同盟は、暴走族なども次々に傘下に入れていく。ただそれに納得のいかないポパイ(上野淳)らはリュウに助けを求め、ピース会を作ろうという話になる。
ガキ帝国図式.jpg
 さらに、ゼニ(名村昌晃)、崔(米村嘉洋[のちの國村準])らのアパッチ族というグループがいるが、これは朝鮮高校の生徒を中心とするグループであり、屑鉄をかっぱらって資金稼ぎをしている。ちなみに在日朝鮮人のアパッチ族については『夜を駆けて』にも出てくる。彼らはリュウの家から屑鉄をかっぱろうとして、リュウの父が頭にくるのだが、リュウ自身が、彼らの行為をある程度見逃そうとするのは、そもそも彼らが朝鮮人コミュニティの中での知り合いだからである。そういう意味では、リュウ、ケン、ゼニ、高のいずれも在日コミュニティの知り合いである(日本人のチャボだけ彼らのコミュニティの部外者。なので喫茶店に入ろうとしていたまじめな朝鮮高生 [かどうかも映画の中で明記されていないが、そのあとチャボに起こったことから判断すると] からかつあげしたチャボのみアパッチからぼこぼこにされたりする。これも分かりにくい部分である)。

 このあたりの関係は映画の中で丁寧に説明されていないので、分かる人しかわからない。逆にこの関係を頭に入れておかないと、いったい彼らの関係がどうなっているのかがよく分からず混乱する。
 ただ在日朝鮮人の高が頑張って権力をつけようとして北神同盟を大きくしていけばいくほど、結局日本人やくざの竜神会・小野の手足、下請けとなるばかりである。リュウとケンはそういった状況をニヒルに見ていて、在日中心のアパッチとは友好的ながらも彼らとは距離を置くとともに、日本人主体の愚連隊北神同盟やホープ会ともつるもうとしない。だが、映画の終盤で北神同盟に対抗するためにリュウとチャボは旧ホープ会の勢力などとつるもうとするが悲劇的な結果に終わる。ケンはあくまでそのような状況から距離を置こうとするが、しかし北神同盟の側から放ってもらえない。

 映画のラスト、ケンは自分と同様に愚連隊の世界から足を洗った元ホープ会の服部が機動隊員になっているのを発見する。服部は声をかけたケンに冗談で「逮捕するぞ」と返すが、それが許せなかったケンは服部に殴り掛かり、逆に機動隊員に追いかけられることになる。この場面も一般日本人には分かりにくいかもしれない。だが、日本人である服部は愚連隊から足を洗っても、警察官になるという逃げ道が選択可能である。しかし、元々は同じ愚連隊仲間であっても、在日朝鮮人であるケンは日本人社会から排除されており、愚連隊から足を洗っても彼にはそのような選択肢が許されていない。ケンは今後も日本人から「逮捕される」という関係にからめとられ続けるしかない。まさにそのような不条理に対する怒りと悲しみが最後の場面に込められているのである。

 また、リュウ、ケン、高(そしてチャボも)たちは、日本人社会から微妙に遮断・排除されているのと同様、女の子たちからも遮断されている。リュウら三人のアイドルだった京子は、やがて高になびき、さらには結局ポルノ映画女優として彼らのもとを去っていく。高が唯一心を許した女性アコは、身を落とした売春婦生活が水にあい、高の元に戻ろうとしない。高はいくら女の子を道具として使うことはできても、決して心を通わせることはできないのである。ケンと仲良くなった薬局の娘和子(森下裕巳子)はケンがゼニと朝鮮語で話しているのを見て、彼が朝鮮人であることを知り、ケンから距離を置くようになる。そしてその和子も北神同盟による女の子狩りにあってしまう。このあたり、少年たちの女の子に対する微妙な距離感、疎外感、切なさの表現が絶妙である。

 一見単にやんちゃを描いた娯楽映画のように見えるが、実際には、『パッチギ』に通じるかなり社会的な問題意識を裏に秘めた映画。ただ、『パッチギ』のように分かりやすくそれを読み取ることはできない。そして在日朝鮮人の日本人社会からの排除(および排除される側のあがき)を、排除される側の切なさの感情に包んで描き切った作品。

 また、なによりも、早逝した趙万豪の格好いい演技が見られる映画としても貴重。最近でこそ、在日朝鮮人2,3世のの芸能人がそのまま民族名で出演するケースもボチボチ出ているが(それでもまだ少数派)、考えてみれば趙万豪こそ民族名で出演しだした走りではなかったろうか?もっとも本作の、東映で作られた続編『ガキ帝国 悪たれ戦争』では、趙万豪は不本意にも東映当局に「豪田 遊」という日本式芸名で出演を強要されたが、それが祟ったか、この作品はお蔵入りになってしまった。モスバーガーでの喧嘩シーンがモスバーガーの社長の逆鱗に触れたためと言われているが、モスバーガーの当時の社長も亡くなったことだし、そろそろ解禁してもよいのではないだろうか。

『ガキ帝国 悪たれ戦争』を上映しよう (日本シナリオ作家協会)
http://www.j-writersguild.org/entry-news.html?id=213329

 しかし、愚連隊が暴力団の下請けに利用されているという構図、そしてやくざに言われて女の子を風俗に調達する図式など、先日のNHKスペシャルの『半グレ』で紹介されていた話とほとんど変わらない。ただ暴対法により暴力団が動きにくくなったため、おそらくかつては20歳過ぎれば堅気になるかそれとも暴力団に吸収されていた愚連隊が、今は、摘発されないために、30過ぎても組織化されない愚連隊=半グレ状態で存続するようになったり、暴力団が摘発回避のため彼らを利用したりするようになったという点が異なっているだけではないだろうか?半グレは、暴対法という制度が生み出したという側面が大きいのではないかと改めて思わされる。

1981年日本映画 115分 1:1.85 カラー
監督: 井筒和幸
脚本: 西岡琢他

 なお、ビデオディスクは以前、パイオニアLDC→ジェネオンから出されていたが(2001/9/21)、2015年キングレコードからHDマスターのBlu-rayおよびDVDが再発売され(2015/5/20)、今年2月廉価盤化(希望価格2700円 2019/2/13)された。キングレコードの旧ATG映画のビデオディスクBlu-rayの画質はおおむね鮮明であり良好。ただ、聴覚障碍者のためにせめて日本語字幕を付けるべきだし、可能なら英語字幕が欲しいところだ。それが残念。



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