韓国映画『工作: 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』

 まもなく(7/19)公開予定の韓国映画。韓国の工作員が北朝鮮に渡って、二重スパイをしながら北朝鮮の情報を得ようとするという、驚きの実話を映画化した作品で、娯楽映画としてかなり楽しめる。韓国の実話をモデルに作った映画というのは、大体過剰に脚色され、話がかなり盛られており、事実からかけ離れていることが多い。例えば以前紹介した『国家破産の日』1) などはもう少し事実に基づいて脚色されていれば説得力があったのに... と残念で映画であった。だが、本作は、他の韓国のサイトなど記述などを確認する限り、基本的な事実関係は比較的忠実に作られているようであり、その分説得力があるとともに、驚きも多い。ウィキペディア韓国版やナムウィキなどの「黒金星事件」に関連する記述を見る限り、映画中の後半部に出てくる、韓国の安企部が中国の北朝鮮領事館に直談判したという場面や主人公の脱出劇は事実ではないようだが (但し、別途北朝鮮、中国、韓国が非公式に協議をする場があり、その場で韓国側は北朝鮮側に対し同様の提案を行っていたようだ)。

 実在の二重スパイだった「黒金星」ことパク・チェソは、1997年の韓国大統領選で、意外にも、北朝鮮が金大中が選ばれることを望んでおらず、むしろ保守派が選出されることを望んでいたことを知り、むしろ、自分の所属する安企部の利害(組織防衛のために保守派候補が選出されることを望む)とは逆に、北朝鮮側が嫌がる金大中の選出こそが韓国の国益になると信じたそうだが、これも良く考えれば十分考えられる話である。北朝鮮では1994年に金日成死亡後、金正日が朝鮮労働党中央委員長総書記についたのが、1997.10、そして国防委員長に上り詰めたのはようやく1998.9であった。金正恩が権力奪取までに、幹部の粛清をかなりやったのは知られているが、じつは金正日の時の粛清より人数は少なく、金正恩の権力継承の方が父親よりもスムーズだと言われている。そのような状況下で、むしろ金正日が経済的には韓国から利益を得ながらも、政治的には韓国との対立を演出することを望んでいたことは十分考えられる。その事情は韓国の安企部も全く同様であった。いわば、北朝鮮の金正日と韓国安企部の間に、「対抗的相補性」関係、あるいは敵対的協力・共通利害関係が成立していたのであり、それがあからさまな形で行使されたとが、「黒金星事件」の発覚につながったと言える。

 実は同様な関係は、今の日本の安倍政権と北朝鮮の金正恩との関係にも存在し、北朝鮮のミサイル発射は安倍政権への、暗黙の応援である可能性がある。北朝鮮は米国との非核化協議を行っても、決して核兵器を全廃することはないと思うが、私が思うに、それは周辺諸国に、表面的態度とは異なり、むしろ北朝鮮が継続して核兵器を持ってくれていることを内心望んでいる国がいて、そこに結果的に核兵器の維持を続けられる可能性があると北朝鮮は踏んでいるのではないだろうか。拉致問題も、表面は声高に解決を叫びながら、内心解決しない、さらにこじれることを望んでいる勢力はいるだろう。

 ただ、北朝鮮の誤算は、アメリカにとってその役割は北朝鮮ではなくイランであった、というあたりではないか。イラン情勢の不安定化の責任は一方的にアメリカにあるのは明白だが、それはオバマの業績を否定したいという、トランプの駄々っ子のようなロジックもさることながら、イラン情勢の不安定化こそがアメリカの利益になり(例えば周辺諸国に武器を売りつけるなど)、ひいてはトランプ再選の助けになる、という裏判断があるように思う。だからこそ、先日イラン攻撃の10分前に、攻撃したら再選はないといわれてトランプは攻撃命令を撤回したのだ。

 現実の黒金星が、南北の融和を望む人物だったかは疑わしいと思うが、とはいえ敵対的協力・共通利害関係の存在を描いた本作の意義は十分にある。そして同様の関係が、(北朝鮮のミサイルの代わりに) 今選挙下の安倍政権と支持率低下に悩む韓国文政権の間に成立していないかどうか、疑ってみるのも良いだろう。

 因みに、映画でパク・チェソをモデルにした主人公、パク・ソギョン役をファン・ジョンミンが演じているが、実物の写真を見ると、むしろ北朝鮮高官、リ・ミョンウン役を演じた、イ・ソンミンの方が適役だったような気がする。

「黒金星事件」ナムウィキ (韓国語)
https://namu.wiki/w/%ED%9D%91%EA%B8%88%EC%84%B1%20%EC%82%AC%EA%B1%B4

「映画『工作』中、対北パートナー、リ・ミョンウンは実在人物か?」ハンギョレ 2018.8.10
http://www.hani.co.kr/arti/culture/movie/857092.html

 
原題『공작』
2018年 韓国映画 137分
監督 윤종빈


1) 紹介記事 https://yohnishi.at.webry.info/201901/article_1.html

『工作』公式サイト
http://kosaku-movie.com/



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