フーコー『言葉と物』の日本語訳をめぐって(1)

 最近、25年ぶりぐらいにフーコーの『言葉と物』 (新潮社版、渡辺一民、佐々木明訳) を読み直している。当時は読むのに非常に難渋した記憶があるが、再読しても、特に今 3, 4章に差し掛かっているが、やはり難渋する。何を言っているのか意味不明の個所が何か所も出てくる。だが、『監獄の誕生』( 田村 俶 訳)は、今となってはいささか用語が固いとはいえ、そこまで理解困難ではなく、むしろ平易だと感じられた。もちろん『言葉と物』 の方が抽象的な話題を取り扱っているから難解なのかもしれないが... しかし、同じフーコーである。そんなに元々難解なのだろうか、と思って、原文を探し当てて調べてみると...

例えば

『言葉と物』渡辺、佐々木訳 P. 78下
「計量による比較が、まず分割、ついで共通な単位の適用を要求するのにたいして、いまの揚合、比較するととと秩序づけることとは同一のことにほかならない。秩序による比較は、ひとつの項から他の項へ、さらに第三以下の項へと、「まったく中断されない運動」による移行を可能にする、単一の行為なのである。このようにして、第一項は他のすべてから独立して直観されうる性質のものであり、他の項は相違性の増大する順序にしたがって配列された、いくつもの系列が設定されるわけである。」


"Les mots et les choses" p. 67

'Alors que la comparaison par mesure exigeait d’abord une division, puis l’application d’une unité commnune, ici comparer et ordonner ne font qu’une seule et même chose : la comparaison par l’ordre est un acte simple qui permet de passer d’un terme à l’autre puis à troisième, etc., par un mouvement «absolument ininterrompu ». Ainsi s’établissent de séries, où le terme premiere est une nature dont on peut avoir l’intuition indépendamment de toute autre; et où les autres termes sont établis selon des différences croissantes.'

上の訳で「いまの場合」(原文は ici) は "秩序"による比較 ( la comparaison par l’ordre) のことである。

で、l'ordre を訳では「秩序」と訳しているのだが、かえって混乱する。おそらく「順序」ぐらいに訳した方が良い。つまり、計量による比較と、順序付けによる比較を対比して論じていると思われる。さらに、「項」(terme) などという訳語がいきなり出てくると、何ぞや、と思うのだが、単純に比較対象(物)のことを指していると思う。

上の訳文の一文目は、秩序づけ、を順序づけに代える程度で良いとして、次の

「秩序による比較は、ひとつの項から他の項へ、さらに第三以下の項へと、「まったく中断されない運動」による移行を可能にする、単一の行為なのである」

とは何ぞや、である。この日本語から何を意味しているか読み取れる人はいるだろうか? 意味不明である。

だが、原文を見てみると...

la comparaison par l’ordre est un acte simple
  順序による比較は簡単な行為である

qui permet de passer d’un terme à l’autre puis à troisième, etc
  それはあるモノ(対象)をもう一つのモノと、さらに三つ目のモノへと、というように(次々と)並び替えることを許す

par un mouvement «absolument ininterrompu »
「全く絶え間ない」動きによって

つまり、順序による比較とは、絶え間なく一つ一つを比較して順番に並べ替えていく単純な行為だ、と言っているのではないだろうか?

さらに、

「このようにして、第一項は他のすべてから独立して直観されうる性質のものであり、他の項は相違性の増大する順序にしたがって配列された、いくつもの系列が設定されるわけである」

は、

Ainsi s’établissent de séries,
このようにして、諸系列が設定される

où le terme premiere est une nature dont on peut avoir l’intuition indépendamment de toute autre;
そこでは、最初のモノは、他のすべてとは全く別の直観をもちうる性質を持つ

et où les autres termes sont établis selon des différences croissantes.
さらにそこでは、他のモノは徐々に増える違いに従って置かれる (並べられる)。

例えば、人を背の低い方から背の高い方に順序付けて並べるとすれば、一番目の人は最も背が低いという、他とはっきり区別されるような特徴を持っており、さらにそれから徐々に背が高くなるように (一番目の人とは違いが徐々に増える) 並べられる、ということではないか。

だとすると、非常に簡単なことを言っていることになる。

まぁ、

le terme premiere est une nature dont on peut avoir l’intuition indépendamment de toute autre;

なんて、一番目のモノは他のモノからは際立った特徴を持つ、ぐらいでいいのではないか、なんて持って回った言い方なんだ、という気もしないでもないが、言ってること自体は極めてシンプルなのではないか。

どうも l'ordre を「秩序」と訳してしまったところが敗因のような気がするが... (もちろん辞書的には間違っているわけではないのだが)

(続く)





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