yohnishi's blog (韓国語 映画他)

アクセスカウンタ

zoom RSS イギリス社会ってそこまでひどかったのか - ジョーンズ著『チャヴ』

<<   作成日時 : 2018/08/07 20:25   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

オーウェン・ジョーンズ著, 依田卓巳訳, 2017,『チャヴ: 弱者を敵視する社会』, 海と月社 (Jones, Owen, 2011,"Chavs: The Demonization of The Working Class")

 イギリスの左派評論家、オーウェン・ジョーンズによる、イギリス社会の格差社会状況を告発した『チャヴ』。チャヴとは、イギリスの労働者階級(特に白人)を馬鹿にした蔑称。日本で言えば『DQN』に近いか。とはいえ、日本の『DQN』という言葉は文化的な蔑視感はあるが、階級とは必ずしも結び付いているとは限らないように思う。

 かつてマーク・ハーマン監督が撮った『ブラス』というイギリス映画があった。実話に基づいて、サッチャー政権下で解体される炭鉱、および炭鉱労働組合たちの窮状を描いた映画であった。かつてゆりかごから墓場までと呼ばれた福祉国家だった英国。とはいえその当時も、政治家たちの多くは上流、あるいは中流階級出身であったはずである。いわばノーブレス・オブリージュによって弱者にやさしい国が維持されていたものだと理解していた。それがどのように崩されつついったのかが、如実に描写されていた。

 とはいえ、その後労働党が政権に復帰したこともあり(また保守党が復帰したが)、サッチャー政権下の最悪の状況は少しは改善したのではないかと思っていたのだが...

 本書を読んでみたらとんでもなかった。あの、『ブラス』で最後の輝きを放っていた(ように描写されていた)誇り高きイギリスの労働者階級は消え失せていたというのである... 唖然。

 結局、サッチャー政権下で何が起こったかというと、リバタリアン的経済政策だけではなく、同時に、誇り高き労働者階級のアイデンティティ破壊が行われた、ということだったのだ。
 『ブラス!』では炭鉱労働運動の狙い撃ちが描かれていたが、本書によると、イギリス労働運動中もっとも固い団結と政治力を誇った炭鉱労働運動の解体を狙って、1984年に意図的に炭鉱の積極的な閉鎖が決定された、というのだ。もっとも政治力の強い炭鉱労働運動が瓦解したことで、英国内の労働運動は総崩れになる(pp. 73 & 77)。
 さらに、サッチャー政権のめちゃくちゃな経済政権によってポンド高が誘導され、イギリスの製造業は壊滅的な打撃を受け、労働者だが安定した高い賃金をもらえる技能職が壊滅させられた。労働者には、商店の店員などの、第三次産業の安定しない低賃金労働しかなくなった。金融業とサービス業以外は切り捨てる政策に出たのである。

 同時に公営住宅の賃貸者への市価の半値の払い下げ政策が行われた。これは労働者階級を、持てる者と持てないものに分断することが狙いだった。それと同時に向上心のある労働者は、労働者階級を抜け出すべきであり、労働者に留まる連中は、怠け者で向上心のない「落ちこぼれ」だというキャンペーンが張られた。

 労働者階級であること自体が恥ずべきことであるという社会的雰囲気となり、彼らの階級的誇りは完全に潰された。

 そして社会的貧困は存在しないこととなり、貧困は本人の失敗による自己責任の問題とされ、救済措置は切り下げられた。

 その一方で、累進最高所得税率は、かつては勤労所得80%、不労所得98%だったのが、段階的に40%まで引き下げられる一方、付加価値税(日本でいう消費税)は引き上げられた。この結果、富裕層の税負担は大幅に引き下げらえる一方、貧困層の税負担は31.1%から37.7%に引き上げられた。金持ちの税負担を軽くして貧乏人の税負担を重くしたのである。

 1997年労働党はトニー・ブレア首相で政権党の返り咲く。労働党はサッチャー政権下の格差拡大政策に不満を持った人々の支持を受けて政権を奪取したのだ。しかし、ブレアの掲げる「ニュー・レイバー」は労働者の生活や誇りを取り戻す政策ではなかった。結局労働組合運動が解体され、組合出身の議員が減ってしまったため、ブレアは労働者階級を守る政策には未来がないと見たのである。「ニュー・レイバー」は労働者階級の状況改善を目指さず、労働者階級から抜け出すことに重点を置いた政策を展開する(p. 113)。「向上心のない」労働者は労働党政権下でも無視された。しかし従来の労働者コミュニティでは、向上心があっても、そもそも高賃金の職がない状況であった。だが、それらはすべて放置された。

 その結果、労働者階級は、粗野で、無気力で、不潔だ、というイメージ作りが進行した。1980年代以降、メディアでの公然としたこのような労働者階級の貶めが横行するようになった。それはあのBBCにおいてさえである。2003年にはイギリスのガサツな労働者階級を意味する言葉として「チャヴ」という言葉が発明された。

 この「チャヴ」に対する偏見は右派の専売特許ではない。リベラルな「チャヴ」差別もある。つまり差別に人種問題を持ち込むのである。人種差別主義者である白人労働者から、移民を守る、というスタンスで、「チャヴ」を「人種意識にとりつかれ、BNP(イギリス国民党=右翼政党)に投票するクズ」としてバッシングするのである(p. 145-6)。
 まじめに働く移民に対し、倫理観も向上心もない怠け者の白人労働者、というわけである。

 とにかく、労働者階級を貶め、あるいは弱者を切り捨てるあらゆることが、どのような立場からも正当化されるようになった... それが今日のイギリスのようだ。

 フレディみかこが、福祉、弱者を切り捨てるイギリス政府を告発しているが、それはそういう状況だったのか... ということが、改めて認識させられた。イギリスはここまで弱者切り捨てひどくなっていたのか...というのが驚きであった。

 とはいえ、これは日本の将来の悪夢になる可能性がある。ただ、一つ違うとしたら、イギリスではまだ多文化主義が国の倫理として根付いており、もちろんBNPのような右派政党の台頭はあるのだが、レイシズムの方向にはそう簡単に傾いていかないだろう、という点である。この点日本は危険だ。ブレクジットが国民投票で多数の支持を占めたのも、このような社会的背景で考える必要があるだろう。








テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
イギリス社会ってそこまでひどかったのか - ジョーンズ著『チャヴ』 yohnishi's blog (韓国語 映画他)/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる