『制服』 - ディアオ・イーナン監督のデビュー作

画像 本作は、ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したディアオ・イーナン監督の長編劇映画デビュー作。

 小建[シャオジャン](梁宏理)は母の営む仕立屋兼クリーニング店で働いている。父はエナメル工場で働いているが、今は病気のため休職中。小建はまじめでやや内向的な性格。だが彼は数々の不条理に会う。スロットマシンで大勝すると、チンピラにカツアゲされる。たばこ屋の女性に声をかけると、あからさまに無視される。父のエナメル工場が縫製工場に買収されることになり、エナメル工場の工員は縫製工場に再登録しなければならなくなり父の代わりに工場に行くと、門番に出て行けと追い払われる。隙を見て工場に入ると、お父さんの名前は書類にない、と言われる。さらに、解雇に抗議して縫製工場に殴り込みに来たエナメル工場の工員に、縫製工場の社員と間違えられて殴られ、今度は縫製の社員には、殴り込みに来た社員と間違えられ、警察に引き渡される。

 そんな中、ある警官が制服をクリーニングの依頼をする。だがいつまで経っても取りに来ないので、自宅に届けに行くと、交通事故にあって亡くなったという。その帰り、雨に濡れて、仕方なく主の無くなった制服のシャツに着替えると、ある女性がたばこの火を貸して欲しいと近づいてきた。それは女性にことごとく無視されてきた小建にとって初めての経験だった。
 ある日その制服を着てビデオCDショップに立ち寄るとその女性、鄭莎莎[シャーシャー](曾雪琼)が働いていた。それから小建は警官を装って彼女とデートするようになる。それは彼にとって初めての春のような日々であった。そんな中、父親の容態が悪化、入院させなければならなかった。病院費の工面に直面するが、小建は制服の活用を思いつく。制服を着て、交通違反の車を呼び止めては見逃してやるからと賄賂を請求する、という手段である。この手は予想外に成果があり、小建は調子に乗る。
 だが調子に乗ったことで、不審に思ったある小建の犠牲者の通報により、本物の警官が莎莎の店にやってくる。ニセ警官が来なかったかと... 莎莎は小建がニセ警官であることに気づくのだが、そこで彼女の取った行動は...

 アメリカ盤DVDに収録されている監督インタビューによると、ディアオ・イーナン監督は、弟が実際にニセ警官に捕まり、釈放して欲しければ賄賂をよこせと金を取られたという話から、この話を思いついたという。だが、公権力の権威と庶民のそれに対するアンビバレントな思いや関係というテーマはその後、第2作『夜車』第3作『白日焔火』と監督のテーマとして続いていく。
 まじめにこつこつとやりながらも、常に周囲から理不尽な扱いを受け鬱屈を強めていく小建。そんな小建の鬱屈を唯一晴らしてくれる打ち出の小槌のような存在が、警官の制服であった。そして私服を着ていたときは馬鹿にしていても、たかがそんな権威のシンボル一枚に容易になびいてしまう周辺の人々。そんな状況への皮肉な監督の視線が感じられる。
 その一方で、小建自身も、権威のシンボルをまとうことでその薄っぺらさに絡め取られてしまうことになる。莎莎は最初はともかく、実は彼のうわべのシンボルのためだけに付き合っていたわけではない。だがそのことは小建自身には見えなくなってしまう。そんな彼は、やはり莎莎の行動を、そのうわべだけから判断して、彼女に対する複雑な思いを抱くようになる...
 うわべ(シンボル)と内実... その微妙な関係を静かな筆致で描く。そして同時に視聴者は、とても持続可能とは思えない小建の行動をはらはらしながら見守るようになるだろう。果たして小建の行く末は...

 ところで久しぶりにこの映画のDVDを見直してみて、冒頭クレジットにプロデューサーに日本人の石川郁の名前、そして冒頭クレジットの最後に東京国際映画祭への謝辞、さらに、巻末クレジットにはフィルメックスのプログラマーである市山尚三やアップリンクの浅井隆らへの謝辞が並べられていることに気づいた。どうやら日本の映画関係者がこの映画製作に資金提供を含めかなり関わったことが伺える。だが、東京国際映画祭に本作品は出品されていないし、ディアオ・イーナンが正式に国内で紹介された形跡は、最新作『白日焔火』がベルリンで金熊賞を受賞するまでほとんどない。
 おそらくこの映画制作もしくは配給権調整時に、日本側関係者と何らかのトラブルがあり、意図的にディアオ・イーナン監督の名前が日本の映画界で無視されてきたのではないだろうか。

 本作品はトロント国際映画祭で「新人監督賞 (ドラゴン&タイガー・アワード)」を受賞。なお主演の梁宏理は陕西出身で撮影当時西安美術学院の油絵系教員、曾雪琼は新疆出身で中央演劇学院の大学生だった。また資金不足で撮影が中断した本作の資金集めにユー・リクワイやジャ・ジャンクーも一役買ったという。( baike.com http://www.baike.com/wiki/%E3%80%8A%E5%88%B6%E6%9C%8D%E3%80%8B 参照) 中国では2003.9.30封切り。

原題『制服』英題『Uniform』監督・脚本: 刁亦男
2003年 中国映画 カラー 1:1.77 94分

海外版ビデオ情報
[米国盤DVD]
発行: Global Lens Collection 販売: First Run Features 画面: Anamorphic 1:1.85 音声: Dolby2 中国語 本編:93分 リージョン ALL NTSC
字幕: 英(ハードサブ) 2006年発行 希望価格$11.92 (2014.1 廉価再発)

[英国盤DVD]
発行・販売:Axiom Films International Ltd 画面: Anamorphic 1:1.85 音声: Dolby2 中国語 本編:92分 リージョン 2 PAL
字幕: 英 2008年7月 発行 価格£5.86

『白日焔火 (薄氷の殺人)』 映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201411/article_2.html

『夜車 (夜行列車)』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200906/article_3.html








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