フォークランド戦争をアルゼンチン側から描く 『Blessed by Fire』

画像 1982年4月~6月に起こった南米のフォークランド諸島(アルゼンチン名:マルビナス諸島)の帰属を巡るフォークランド(マルビナス)戦争を、負けたアルゼンチン側から描いた初めての映画。また、戦争終結後フォークランド諸島で撮影された初めてのアルゼンチン映画でもある。

 2002年、ブエノスアイレス。テレビ局の記者として働くエステバン(Gastón Pauls)は、マルタ(Virginia Innocenti)から急な連絡を貰って病院に急行する。マルタの夫でエステバンの元戦友でブラッキーことアルベルト・ヴェルガスが自殺を図って病院に担ぎ込まれ、途方に暮れたマルタからSOSの電話をしたのだ。
 その年までに、290名を超えるマルビナス(フォークランド)戦争経験者が自殺していた。それは戦場での戦死者とほぼ同数だ。そしてヴェルガスもその一人に、今なりかけている。
 その経験により、エステバンは否応なく20年前のその戦争の記憶に呼び戻された。

 20年前、1982年4月、18歳の若者だったエステバンたち。彼らは国を護る気概はあったものの、実際に戦闘に出る覚悟は出来ていなかった。だが彼らは突然出動命令を受ける。マルビナス諸島へ。エステバンはトイレに行くと上官に嘘をつき、慌てて母親に電話に掛けるが、後を付いてきた上官に見つかって中断させられてしまう。
 反体制派の弾圧と、インフレの悪化、その一方でアメリカと結託した一部軍産コングロマリットに基盤を持つ支配層が私腹を肥やしているとの批判をかわすため、当時の軍事政権が大きな賭に出たのだ。つまり、150年前にイギリスに占領され、実効支配を受けているマルビナス(英国名フォークランド)諸島の奪回という賭に。
 それは、ちょうどその新自由主義政策が国内で不人気で政治的窮状に陥っていたイギリスのサッチャー内閣にとっても好機であった。マーガレット・サッチャーはアルゼンチンの軍事政権の挑戦を堂々と受けて立つと宣言。反攻の準備を進めた。
 
 彼らは、大した守備隊も居なかったフォークランド諸島をあっさり占拠。占領軍は、イギリスから何万キロも越えてはるばるやってくる反攻軍はたいしたことがないだろうと多寡をくくっていた。だが、そのアルゼンチン軍はろくな補給もなく、兵士は腹を空かせて、島にいた羊を撃って食べる始末。
 エステバン、アルベルト(Pablo Riva)とフアン(César Albarracín)は塹壕仲間だった。
だがやがて英軍の猛攻が始まる...

 そして2002年、エステバンは昏睡状態になったアルベルトを病院に残し、軍を退役したアルベルトの戦後の苦難の足取りをマルタから聞くことになる。
 そんなマルタの存在は、かつて戦争中のアルベルトにとって唯一の希望の星だったのだ...

 フォークランド戦争参加者のPTSD問題を取り上げた作品。この約2ヶ月間続いた戦争のアルゼンチン側の参加者の死者は約290人。そして生き残った者も、終戦後アルゼンチンに帰っても、敗残者として英雄扱いされることはなく、彼らを出迎えたのは犬の遠吠えだけだった。そしてこの戦争で見聞きしたことは口外せぬよう口止めされ、その後、この戦争の負債のため年間3000%を越える厳しいハイパーインフレに直面し、生活苦にさいなまれ、それが戦争経験者たちをより厳しい心理状態に追い込むことになる。
 もちろんアルゼンチンは戦争に負けた今日でもマルビナス諸島の領有権の主張を取り下げていない。だがその敗戦はアルゼンチンの歴史上触れたくない汚点となり、戦争参加者たちもそれと共に社会からなかったものにされ見捨てられてしまう。そんな厳しい現実が如実に描かれる。
 そしてろくな補給もなく、兵士を最前線に送りつけ、司令官はバラックで身の安全を図る... なんだか、昔の極東のどこかの国を彷彿させるような話である。

 率直に言って、PTSDをあつかった映画は、今更視点が新しいとも言えない。また、フォークランド戦争に対する新解釈や視点を提示しているとも言い難い。そしてあれほどアメリカ(USA)べったりだったアルゼンチンが、なぜ欧米の支持が得られると思って開戦したのかを解いてくれるわけでもない。とはいえ、あの戦争に関しては、日本における報道の多くは、イギリス、NATO寄りからの視点からの報道ばかりであったし、一体あの戦争にアルゼンチンの人々がどんな思いで参戦したのか、その一端を知るには貴重な作品だと言えよう。

原題『Iluminados por el fuego』英題『Blessed by Fire』監督:Tristán Bauer
2005年 アルゼンチン映画 カラー 上映時間 100分(imdbデータ)

DVD(UK盤)
発行・発売:Soda Pictures 画面: Pal/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1 西語 本編: 100分
リージョン2 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2006年8月 Amazon.uk価格 £19.99

本ブログ記事「アルゼンチン」
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