『悲しみのミルク』

 ペルーのノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・リョサの姪である、クラウディア・リョサ監督の長編第2作。本作はベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞している。

あらすじはこちら(Goo映画)
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18067/index.html

 本作のバックグラウンドは、1980年代毛沢東主義者の共産ゲリラ、センデロ・ルミノソの暗躍した時代。因みにセンデロ・ルミノソは1990年代に入り、アルベルト・フジモリ大統領による徹底的な討伐、封じ込め政策以降、現在では東部の一部ジャングル地帯に封じ込められているようだ。
 本作を見る限り、センデロ・ルミノソは強姦、拉致、略奪やり放題の、共産主義者というよりは、野武士、山賊の類に近いという印象。かつて毛沢東が率いた八路軍が高いモラルを誇ったのを考えると、毛沢東主義を名乗るのもおこがましい存在のようだ。そして、主演のマガリ・ソリエル自身、このようなセンデロ・ルミノソの跋扈に悩まされたケチュア族の村の出身である1)。

 ただ、映画の中でそのことは具体的に描かれることはなく、ただファウスタの母が、夫が目の前で惨殺され、そして自分自身死を目前にした夫の目の前で陵辱された悲劇を、ただひたすら歌として歌うのみである。そんなファウスタ母子は、暴力がはびこる村を捨て、リマ郊外の砂漠に面した貧民街の親戚宅に身を寄せている。
 だが、彼女らの受けた大きな心の傷は癒えることはない。それが娘の結婚の喜びに沸く叔父一家と、同じ家に住みながら、喜びを分かち合うことができず、そして母の死に直面しても、母親を故郷に葬ってやれないファウスタの存在の対比としてシンボリックに描かれる。

 そしてファウスタは、母を故郷の村に葬る費用を稼ぐために、それまでPTSDのため、一人で出歩くこともままならなかったにもかかわらず、リマ中心街にある金持ちのスペイン系白人ピアニストの家に家政婦として勤めることになる。
 ピアニストは決してファウスタに対して理解ある主人ではなかった。しかし、ピアニストが寄せる彼女の口ずさむ歌への関心、そして同じケチュア族である庭師が示してくれる優しさが、生きながら死んだような存在だった彼女に、徐々に生きる力を与える。

 だが、結局彼女の望んだことは何一つ実現しない。ピアニストである女主人は、彼女を利用できるだけ利用したあと、暴力的にファウスタをたたき出してしまう。そしてファウスタは姪の結婚式までに母を故郷に葬る費用を稼ぐことはできず、リマ近郊の家の近くに埋めるしかなかった。
 それにもかかわらず、彼女は確実に自分自身の存在意義を確信し、生きる力を獲得していく、そんな不条理に対するシニカルな視線と人々に対する暖かな視線が逆説的にない交ぜになった独特の視角に本作のオリジナリティがある。

 なお、本作はいささか黙示的な叙述で進行するため、プロットで見せるハリウッド映画に慣れた人には向かない作品。

 なお、日本版DVDでは白地の字幕がスペイン語、黄色の字幕がケチュア語のセリフに対するもの。

1)この点は当ブログ『アマドールの贈り物』紹介記事で紹介した。

原題『La teta asustada』 英題『Milk of Sorrow』 監督: Claudia Llosa
2006年 ペルー=スペイン映画 カラー 94分

マガリ・ソリエル主演 『アマドールからの贈り物』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201210/article_7.html

ペルー映画『波に流れて』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201101/article_16.html



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