『医生(Doctor)』 - 鍾孟宏監督のドキュメンタリー[台湾映画]

画像 『停車』『4枚目の似顔絵(第四張畫)』を撮った鍾孟宏(チョン・モンホン)監督が2006年に発表したドキュメンタリー作品。子供を失う痛みを克明に記録した秀作。

 温碧謙医師はアメリカ・フロリダ州にある、マイアミ大学病院に勤める放射線腫瘍治療の権威。彼のもとには世界各地から小児癌の患者が治療を求めて訪れる。彼は今、ペルーから来た13歳の小児癌患者セバスチアンを診ている。セバスチアンはある日腹痛で倒れ、レントゲンを撮ると肺が真っ白。そのため当初肺炎と誤診されペルーのいくつかの病院を渡り歩いたが改善せず、結局癌と判明して彼の生存の可能性を探って温碧謙医師のもとにやってきた。
 彼は自分の病気が重篤であるらしいとは理解しているものの、自分が死ぬかもしれないという可能性については理解していない。セバスチアンは生き物が大好きで、特に蛇や蟻を偏愛していた。
 そんなセバスチアンの姿は温碧謙医師にとって息子、温昱和=フェリックス・ウェンの姿に重なる。彼の息子も生き物が大好きで蛇を飼ったり、盆栽の世話をしており、セバスチアンと同様、様々な生き物の姿を絵に描いたり、臓器の絵を描いたりしていた。それに宮本武蔵が大好きで、彼は宮本武蔵を描いた本を何度も読み返していた。
 だが、今、フェリックスは温碧謙医師の家にはいない。その理由は...

 映画は、両親に伴われて温医師のもとで初めて診察を受けるセバスチアンのシーンから始まる。そして温医師の息子らしい映像。最初はなぜ彼の息子のシーンがセバスチアンのシーンと交互に挿入されるのか分からない。やがて、温夫妻が語る息子のフェリックス話が過去形で語られているのに気づく。それは単に息子の子供時代のことを過去形で語っているというよりは、もはや存在しない人を回想するかのように語られる。
 映画に出てくるセバスチアンの姿は、最初はほとんど英語が話せなかったのが、シーンが進むにつれ、徐々に英語が上達し、セバスチアンが新しい環境になじんで成長していく姿が見て取れる。その一方、フェリックスの不在の理由の真相も、1枚1枚ベールをはがすように、徐々に徐々に核心へと迫っていく...
 そして、そのクライマックスでフェリックスがいなくなってしまった理由が明かされるとともに、セバスチアンも...
 謎解きの構成を取りながら、人々の気持ちの深層に向かって徐々にはがしていくように語っていくことで、温医師夫妻の心の痛み、そして子供が癌になってしまった両親の痛みを、極めて巧みに人々に伝える、類まれなるドキュメンタリー作品。
 ちなみに本作を見て、『4枚目の似顔絵』に使われているイラストの1枚に、フェリックスが書いたイラストが使われているのに気がついた。
 また、音楽の演奏には、マーガレット・レン・タンも参加している。

 本作は2006年台湾国際記録片双年展・アジア賞、台北国際映画祭・最優秀ドキュメンタリー賞受賞。

 なお、本作のDVDだが、オリジナルはおそらく16mmモノクロフィルム。一部家庭用8mmフィルムのブローアップが挿入されるが、とりあえず16mmのオリジナル解像度は十分再現されているといえるだろう。

原題『醫生』英題『Doctor』監督:鍾孟宏
2006年 台湾映画 モノクロ 92分

DVD(台湾盤) 
発行:甜蜜生活 発売: 風潮音樂 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 北京・英・西語 本編:92分
リージョンALL 字幕: 中/英(On/Off可) 片面二層 発行年2007年3月 希望小売価格 NT$550

公式ブログ(中国語)
http://blog.xuite.net/cimage/doctorthemovie

『4枚目の似顔絵』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201107/article_11.html

『停車』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200904/article_19.html


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