『帰途列車 (Last Train Home)』- 中国の出稼ぎ農民を描くドキュメンタリー映画

画像 中国の出稼ぎ農民(農民工)のある家族の暮らしぶりを、春節前後の帰郷の模様を軸に2年間にわたり取材したドキュメンタリー映画。出稼ぎ農民たちの報われない暮らしぶりを明らかにするとともに、現代中国社会の問題点の鋭くも感動的に抉り出す、迫真のドキュメンタリー。

 四川省の田舎に住む張昌華一家。張昌華とその妻チェン・スーチンは田舎を離れ、広東省のアパレル会社に長年出稼ぎしている。田舎に帰れるのは1年で春節の時のみ。彼らには娘と息子がいるが、子供たちを育てるのは、田舎に残した自分たちの父母、つまり子供たちにとっての祖父母に任せっぱなしであった。
 彼らが子供たちと遠く離れ、厳しい出稼ぎ暮らしに身を任せるのは理由があった。それは何よりも子供たちに教育をつけさせたいからである。自分たちは良い教育を受けられなかった。だから良い待遇も得られない。だからこそ子供たちにはよりよい教育をつけさせたい。そのためには現金収入の得られない田舎ではなく、都市へ出稼ぎに行き現金を稼がなければ... その一心で辛い出稼ぎ生活を耐え忍んできた。
 だがその両親の思いは子供たちには必ずしも伝わっているわけではない。確かに1年に一回、両親が春節に帰ってくれば、携帯電話などのお土産も買ってきてくれて歓迎すべき存在ではある。だが、子供たちが常日頃接しているのは祖父母であって、父母からは自分たちは見捨てられている... そう感じている。
 特に上の娘である、チャン・チンは、敬愛する祖父が亡くなったこともあり、何もない牢獄のような田舎を抜け出して早く都会に出たいという気持ちが抑えきれなくなった。幸い、学校の同級生の中に、やはり中退して広東省のアパレル工場に行った者がおり、彼女らこっちに来ないかと誘われている。そしてついに両親が春節で帰宅した際に、自分は学校を中退して都会の工場で働くと告げ、両親と大喧嘩してしまう。両親にしてみれば、子供たちには自分たちのような出稼ぎ農民にはなって欲しくなくて必死に働いているのに、その子供が出稼ぎ農民になるなんて... という思いがある。だが子供にとってみれば、いつもおらず、自分たちのことなんか考えてくれないくせに、自分の気持ちなんて分かるはずがないという反発があるのだ。
 チンは学校を中退してついに広東省の別の都市にあるアパレル工場に去ってしまうのだった。そして...

 まさに「親の心子知らず」を地で行くような状況を描いた作品だが、その裏には、農民たちが子供たちにより良い教育をつけさせ、暮らしをさせようと思えば、長期間家族を置いて出稼ぎに出なければならないという社会的な現実・矛盾が存在する。
 だが、金は出稼ぎで稼げるとしても、金だけで子育てができるわけではない。張昌華一家はまさにその隘路にはまってしまうのだが、だがおそらくこういった状況は、どの農民たちにあっても普遍的に見られる状況であり、それはこの社会的な矛盾に起因する。

 さらに、田舎にいる子供たちは知る由もないが、帰郷する出稼ぎ農民たちは帰郷列車の切符を入手するだけで凄まじい苦労を強いられている。切符を買うだけで駅で何日も列を作って待たなければならないという凄まじい状況が克明に描かれる。
 そしてチンは自分自身が出稼ぎ農民に身を堕して初めて両親の苦労を知るのだ。とはいえ、だからといって直ちに両親との距離が縮まるという簡単な話ではない...

 ともあれ、出稼ぎ農民たちの置かれている凄まじい状況、そして長年家族と別れて暮らすことに起因する彼らが経験せざるを得ない悲しみや家族への思い... 時に笑わせられ、時に泣かされる、そういった凄まじい状況の表現に圧倒されるとともに感動的ですらある。Highly Recommended!!

 本作品は、2009年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀賞、2010年アジア太平洋映画祭最優秀ドキュメンタリー賞、2011年カナダ・ジニ-賞最優秀度ドキュメンタリー賞等受賞。

 監督の範立欣(リーシン・ファン)は、中国系カナダ人。元来中国のテレビ局CCTV(中央電視台)に勤務していたが、2006年カナダに移住。現在はEyeSteelFilm のドキュメンタリー・フィルム・ディレクターとして、モントリオールと北京を拠点に活動中。本作が長編デビュー作。


原題『帰途列車』英題『Last Train Home』監督:範立欣(Lixin Fan)
2010年 カナダ=中国=イギリス映画

DVD(UK盤) 
発行・発売:Dogwoof 画面: PAL/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 北京語 本編:85分 リージョン2
字幕: 英(On/Of不可ハードサブ) 片面一層 発行年2010年10月 Amazon.Uk価格 £ 9.99



ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 7

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック