台湾の葬式コメディ映画 『お父ちゃんの初七日(父後七日)』

画像 2010年台湾映画。父親の葬儀の模様をコメディタッチで描いた作品で、いわば台湾版の『お葬式』。

 台北でキャリアウーマンとして働く阿梅(王莉雯)の故郷は台湾中部、彰化。だが病院に入院していた父親(太保)が亡くなり、帰省することに。同時にやはり台北で大学に進学してたいとこの小荘(陳泰樺)も、阿梅の兄で喪主であり、父親の露天商を継いだ大志(陳家祥)から葬儀の記録を取りたいからビデオカメラを持ってくるようにとの要請で、急遽高速バスに乗って彰化に向かう。
 そして、この葬式の指揮を任された道教の道士(仏教における僧侶に相当)の阿義(呉朋奉)。実は彼はかつてこの父親の妹、美鳳(王安琪)[=小荘の母親]と恋仲だったが、彼女は台北に出て働く事を望み、彼は父親の職業を継がなければならず、別れてしまったという複雑な過去を持っていた。
 それぞれの人々がそれぞれの事情と思いと想い出を抱えながらを抱えながら阿梅の父親の7日間に及ぶ笑いと涙が詰まった葬儀が始まった...

 アメリカ、ヨーロッパ映画で、映画の中に葬式のシーンが重要な役割を果たすという事はあっても、葬儀それ自体がテーマになる映画というのは意外と聞かない(あるのかも知れないが見ていない)。それに対してアジアでは、伊丹十三の『お葬式』(1984)を始めとして、韓国、イム・グォンテクの『祝祭』(1996)、そして最近ではモントリオール映画祭でグランプリを取った滝田洋二郎監督の『おくりびと』などがすぐ思い浮かぶが、やはりこれは伊丹十三のお葬式の過程自体をコメディとして撮ってしまうというアイディアの先駆性、および秀逸さの影響ではないだろうか。
 本作品も正にその系列に属する台湾の作品で、台湾の道教に則った伝統的な葬儀をコメディタッチで描いた作品。中国系の葬式だと紙銭を焼くというのは良く知られているが、その場面が出てきたり、また泣き女を雇ったりもするが、葬儀の手順としてどの場面でなくとか泣かないというのが細かく決められているというのは初めて知った。
 ただ、本作品は単に葬式の模様をコミカルに描くというだけではなく、一番強く感じられたのは故郷を去って都会(あるいは海外)に出て行った人々の故郷に対する望郷の思いが父親の葬儀という形で象徴的に描かれている点であろう。これは『お葬式』が葬式の持つ形式主義や仮面的側面をブラックユーモアで皮肉る、という色彩や、消えゆく伝統的な作法を映画という記録にとどめたいという思いが強かった(だからこそ、オ・ジョンヘ演ずる愛人のくだりがいささか場違いだった)『祝祭』とも、癒しという新しい観点から納棺師という仕事を見つめ直した『おくりびと』とも違う点である。
 可笑しくて、懐かしくて、ちょっと恥ずかしい、そんな故郷への思いが詰まった作品に仕上がっている。また兄を演ずる陳家祥は、『ORZボーイズ』で意地悪な玩具店主を演じていたし、お父ちゃん役は『悲情城市』で「猿」役を演じていた太保こと張嘉年が出ているのが懐かしい。

 監督の王育麟は1964年台北生まれ。台湾大学森林系、ニューヨーク・アートスクール(映画専攻)を卒業。エドワード・ヤンの『クーリンチェ殺人事件』の美術担当を務めたり、TVドキュメンタリー、ドラマの演出、映画脚本等を経験。本作が初の一般公開長編劇映画(以上Wikipedia中国語版記事参考)。また本映画の原作小説の作者劉梓潔との共同監督となっている。

 なお本作のビデオディスクは現在のところ、台湾、香港でそれぞれBlu-ray&DVDが出ている。このうち台湾盤DVDのみ英語字幕なし。本作品は台湾盤Blu-rayで鑑賞。画質は優秀で、おそらくフィルムとの差は僅少であろう。実はうっかり香港盤DVDも発注してしまい両方手元にあるのだが、香港盤DVDに関しては、色彩やコントラストは良好なものの圧縮の際、輪郭線のゴーストがかなり出ており解像度が落ちてしまっている。本作品に関しては、入手するならDVDではなくBlu-rayを強く勧めたい。

原題『父後七日』英題『Seven Days In Heaven』監督:王育麟&劉梓潔
2010年 台湾映画 カラー

Blu-ray(台湾盤)情報
発行・販売 PONY 画面: HD1080p/1:1.85 音声: DTS&Dolby7.1 台湾・北京語
本編:107分 リージョンALL 字幕:中/英(On/Off可) BD一層 2010年 12月発行 希望価格NT$350

アジアフォーカス映画祭『お父ちゃんの初七日』監督&俳優インタビュー
http://asiancinema.way-nifty.com/movie/2010AF.html

付記
『父の初七日』との邦題で、2012.3.3より全国ロードショー
国内公式サイト
http://www.shonanoka.com/

国内盤DVD発売(2012.8)


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