『波に流れて』: ペルーの美しい漁村を舞台にゲイの悲劇的関係を描いた南米映画

画像 南米の不思議な雰囲気を持つゲイ映画。ペルーの漁村の青年と都会の金持ちの青年との男性同士の困難な恋愛を描く。

 ミゲル(Cristian Mercado)はペルーの砂浜の美しい漁村の猟師。彼には、新婚で現在身重のマリエラ(Tatiana Astengo)という妻がいる。猟師仲間と妻に囲まれて貧しいながらも幸せな日々を送っている。だが、彼には猟師仲間にも妻にも隠している秘密があった。
 実は、妻と出会う何年も前から、毎年夏にこの村に避暑にやってくる男の子と恋愛関係にあったのだ。彼の名はサンチャゴ(Manolo Cardona)。都会の金持ちの家の息子で現在は画家。絵を描きながら世界のあちらこちらを旅している。地元の猟師仲間からはサンチャゴは胡散臭い目で見られていたが、ミゲルはサンチャゴと毎年夏、秘密の関係を結んでいた。
 両刀遣いのミゲルであったが、もちろん地元は同性愛に否定的な厳格なカソリック。ミゲルが男色行為に及んでいたということが村の中でばれてしまえば、彼は暮らしていけない。だからミゲルはサンチャゴの存在を妻にも知らせないようにしていた。
 だが偶然、サンチャゴはマリエラと市場で会う。彼女がミゲルの妻だと知っていたサンチャゴは彼女にろうそくをプレゼントする。しかし、それがサンチャゴの存在を隠そうとしていたミゲルの癪に障る。ミゲルは妻や村の仲間とうまくやりながらも、サンチャゴとの関係を続けようと虫のいいことを考えていたミゲル。サンチャゴの存在を妻に知られたくはなかったし、あるいはひょっとするとサンチャゴが妻に横恋慕するのではないかと気が気でないミゲル。そんな中、ミゲルとサンチャゴの関係はギクシャクとしたものになる。

 だがある日、サンチャゴがミゲルの元にやってきて、村人が突然僕の存在に気づかなくなったのだと告げる。サンチャゴは気づいていないのだが、彼は幽霊になったのだ。サンチャゴの存在が村人から見えなくなったことで、ミゲルは自分の都合のいい関係が続けられると喜ぶ。そしてサンチャゴの霊が逃げていってしまわないように、海で遭難したサンチャゴの遺体を見つけ、岩にくくりつける。

 だが事態はミゲルに都合のよい方向ばかりには進まなかった...

 ゲイに否定的なカソリックの南米。その上保守的な田舎の漁村という、ゲイに対して厳しい環境にある中での、ゲイのあり方を象徴的にかつある部分ファンタジックに描いた作品。ミゲルの、ゲイであることがばれることを極端に恐れる気持ち、そしてコミュニティのフルメンバーとしての対面を保ちたいという気持ちと、その一方でその快楽を手放したくないという葛藤は、とくにゲイ差別の厳しい社会において普遍的に存在する葛藤であろう。サンチャゴの存在をきちんと認めようとしないながらも、彼との恋愛(快楽)関係は手放そうとしないミゲルの身勝手さを非難することはたやすいが、しかし南米のカソリック社会においてはああならざるを得ないという、社会環境の厳しさの反映でもあろう。だがそのミゲルは最終的には、逃げるという選択肢を避けて、社会と正面から向き合うことになる。
 断崖と白い砂浜に囲まれた漁村は美しい。だがその風景の美しさと、地形の険しさ、逃げ場のなさは、彼らの関係とおかれた社会環境とありかたをシンボライズしているのだ。
 なお、英国盤DVDの付加映像である監督インタビューによれば、ロケはペルー北部の漁村で行われたが、必ずしもペルーである必要はなく、水平線がはるか見通せるようなオープンな雰囲気の海岸ではなく、断崖に囲まれた、逃げ場のない閉鎖社会を象徴するような海岸沿いの漁村ということで選択したということで、俳優もコロンビア、ボリビア、ペルーと国際的にキャスティングを行ったそうだ。また映画の出資を求めるのも非常に苦労して、結局ヨーロッパまで出資を求めざるを得なかったということであった。

 本作品は、2010年サンダンス国際映画祭で観客賞を受賞したほか、アカデミー賞・外国語映画賞のペルー代表候補作品に選ばれている。また、日本国内では2010東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映されている。

 監督のJavier Fuentes-Leonはimdbのデータによると1997年以降数本の短編映画を撮影しており、本作が長編デビュー作のようである。

 英国盤DVDは、アナモルフィック収録。画像の解像度は最高というわけではないが、水準以上。カラーも美しく印象的。

原題『Contracorriente』英題『undertow』監督:Javier Fuentes-Leon
2009年 ペルー=コロンビア=フランス=ドイツ映画 カラー

DVD(UK盤) 
発行・発売:Axiom Film 画面: PAL/16:9(1:1.85) 音声: Dolby5.1/2 西語 本編: 100分
リージョン2 字幕: 英(On/Off可) 片面二層 発行年2010年9月 希望価格 £15.99

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  • 『悲しみのミルク』

    Excerpt:  ペルーのノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・リョサの姪である、クラウディア・リョサ監督の長編第2作。本作はベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞している。 Weblog: yohnishi's blog (韓国語 映画他) racked: 2012-11-21 12:55