莫子儀主演『海角7号』に続く台湾の音楽映画『一席之地』

画像 中国人映画監督フォ・ジェンチイ監督が台湾で撮った『台北に舞う雪』にも出演していた、中国の人気歌手兼俳優、莫子儀(モー・ズーイ)が出演する作品。台湾社会の伝統的な側面から現代的な側面までの断面図を描く作品。

 天才歌手「莫子」と書かれた宣伝用飛行船の飛ぶ空の下、台北の近郊にある山の斜面にある墓地で一組の父子が紙愴1)を汗水垂らして運んでいた。

 プロテストメッセージ性の強い歌を歌ってきたパンク・ロック歌手の莫子(莫子儀)は、7,8年前台湾で大人気を誇った。だが政治の季節も一段落し、メッセージの弱い音楽ばやりとなった今の台湾では、彼の歌に耳を傾ける人はそう多くない。彼の新アルバムも売れ行きが芳しくなく、ライブハウスでも人気は落ち目。そんな彼はマンションでフォーク歌手の凱西(路嘉欣)と同棲しているが、そのマンションも彼の借金のため競売に掛けられてしまい、裁判所から立ち退きを迫られる始末。そしてかつては莫子が凱西の音楽にアドバイスしていたものの、今やむしろ凱西の方が人気急上昇。
 凱西は所属会社からマンションを借りて貰えることになり、莫子に一緒に引っ越そうと誘うものの、莫子は自分のプライドとマンションに対する思い出から、彼女の援助の申し出を頑なに断る。

 一方、昔気質の紙愴職人(英語字幕だとOrigami Masterになる!)の林(高捷)は台湾近郊の山に自宅と工房を構えて40年以上になる。多くの紙愴職人がどうせ燃やすものだと手抜きで作るのが通例だが、かれは職人気質で手抜きなくつくっていた。しかし彼の技術が誰から評価される訳でもなく、彼は貧乏のまま。しかも彼の家は元々公有地の上に不法に建てた家だった。そこへある男(温昇豪)が風水氏を連れて訪れ、彼の住む場所は風水上墓地として非常によいので父の墓地として使わせて欲しいと言ってくる。そして、もし政府から立ち退きを求められた場合わずかな補償額しか貰えないが、自分だったらそれよりも遙かに高い立ち退き補償料を出すと申し出る。だが、その土地にこだわる林は、ここに自分と家族も葬るのだと頑としてはねつける。
 しかし、その直後、林は癌に罹っていることが分かり、医師から早めに手術を受ければ助かる確率は80%だと、手術を勧められる。だが健康保険でかなりの額が補償されるとはいえ、それでも自己負担分として40万NT$ 2)を用意しなければならない。林は20%死ぬ確率があるなら妻、阿月(陸奕静)と息子、小鋼(唐振剛)に迷惑を掛けるような無駄金を使うことはないと頑なで、自分の死後のために準備している紙愴の紫禁城作りに没頭する。小鋼は立ち退いた金で手術を受ければと父を説得しようとするが功を奏さない。
 そんな中、林はやくざ(應蔚民)から父の葬儀のため注文を受ける。そして彼が金融業も営んでいることを知った妻の阿月は、彼に手術費用を借りられないか相談に行くと、林の職人技に感激したやくざは特別に低利で融資することを快諾する。但し、林が自分用に作っている紙愴の紫禁城を担保にするという条件で。
 そして、ちょっと抜けたところのある林の息子小鋼は、ぬいぐるみを着てチラシ配りをするようなアルバイトしか出来なかったが、母親に孟ちょっとまともな仕事を探せと言われて、不動産屋に就職する。そこへある日、競売で仕入れた物件(実は莫子が済んでいたマンション)を見たいと、ある人物を案内する。その人物、彦碩(隆宸翰)はインテリアデザイナーで、実は、父の住居を手に入れたいと訪れた男の弟であった。彼は、父の墓所として林の住居を手に入れるため、この物件をリフォームして林に移転先として提供すると共に、小鋼の会社からぼろアパートを買って、それをリフォームし小鋼の会社に高く売らせるという有利な取引を小鋼に持ちかける...

 こうして、一見何の関係もなかったように見えた、台北のそれぞれの場に住む人々のばらばらな人生が、互いの取引を通じて交錯していくことになる...

 一見何のとりとめもないように始まった映画が、そのとりとめなさがお互いに関わり合い、収斂していくという物語構成、それに雰囲気は台湾映画『流浪神狗人(神も人も犬も)』に似ているな、と思いきや、『流浪神狗人』の監督、陳芯宜(チェン・シンイー)が本作のプロデューサーを務め、脚本にも参加。そして本作の監督樓一安(ロウ・イーアン)は、『流浪神狗人』の脚本にも参加していた。
そして台湾社会の伝統的な側面から現代的(若者)な側面の断面図を提供するというスタイルも共通。
 そして本作品の、クリアなストーリーラインはむしろ排され、人々の心象風景をじっくり描いていくというスタイルからは、様々な解釈の余地を提供していると言える。その中でも、私が読み取った点は、社会的な評価基準が、近代化に伴い金銭的価値という評価基準に一本化される中で、その評価基準から外れてしまったことによる人々の疎外感、それが一転して何らかの偶然により、突然評価基準に載った時に、喪われてしまう何か、そんな現代社会のおける根源的疎外を描いている側面である。
 売れなくなってしまった莫子も、頑なな職人気質を誇る林も、そして霊媒師的資質を持つ林の妻、阿月も彼らの資質を金銭的価値に転換することが不得意である。そこで彼らの価値をうまく金銭的価値へと転換する人物やイヴェントが登場する。それがやくざであったり、彦碩であったり、阿月の対話相手である幽霊であったり、ある悲劇的なイヴェントであったり... しかし、彼らの価値が金銭的な価値に転換されることは、一方でそれらの価値が持っていたある側面、何らかのアウラを確実に喪失させる。その疎外の悲しみを皮肉を以て描いているように思われるのである。

 本作品は2009年台湾公開。日本では未公開。2009年台北映画祭にて観客賞、助演女優賞、美術賞受賞。

 監督の樓一安は男性で、台湾電影網のデータベースによると2000年頃から短編映画、TVドラマ、ドキュメンタリーの助監督や製作関連の仕事をつとめる。主要作品として2002TVドキュメンタリー『花願』、2005年TVドラマ『快楽的出航』、2007年 35mm短編『水岸麗景』。

 なお筆者が入手したDVDは香港盤で画像フォーマットは4:3レターボックス。レターボックスが主流の台湾映画の中ではまず標準的な解像度か、というところ。台湾盤DVDは2009年12月迪昇數位影視より出たらしい(NT$99)

1)葬式の際、個人があの世で困らないための、御供え用の紙で作った家や家具などの模型。故人を火葬する際に、これらの模型を燃やしてあの世に送る。
2) 1NT$は3円弱程度。

原題『一席之地』英題『A Place of One's Own』監督:樓一安
2009年 台湾映画

DVD(香港盤)情報
発行・発売: KAM & RONSON 画面: NTSC/4:3(LB1:185) 音声: Dolby2 北京・閩南・アミ語 本編: 119分
リージョンALL 字幕: 中/英(On/Off可) 片面一層 2010年 9月発行 希望価格 HK$135

『流浪神狗人(神も人も犬も)』 映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200811/article_12.html

参考
台湾の最新葬儀事情レポート
http://www.eonet.ne.jp/~kinyofc/report/01.html

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