TIFFにスルーされた傑作 鄭文堂最新作 『眼涙』 Highly Recommended!!

画像 日本でも『深海 Blue Cha-Cha』が公開された鄭文堂(チェン・ウェンタン)監督の2009年最新作。麻薬捜査にこだわる頑固な老刑事とビンロウ売りの娘の因縁を描く。

 老郭(蔡振南)は60歳を間近に控えた高雄の老刑事。彼は容疑者の取り調べの際、自白させようとすぐ暴力に走ろうとする若い刑事たちを牽制する一方、休日には老人ホームでボランティアをする篤実な性格。その一方、幹線道路沿いのビンロウ売りのブースでは、セクシーな衣装を着たビンロウ娘たちがビンロウを売っている。その一つで働く小雯(鄭宜農)と萱萱(Doris)。彼らは時にやってきて、彼女たちを意のままに取り締まろうとし、ときにたかりに来る警官を毛嫌いし、またちょっかい出す不良少年たちを適当にあしらいながら、商売に励んでいた。そこに老郭は職業を隠して度々ビンロウを買いに寄っては、何かトラブルがあったら連絡するようにと、電話番号を書き残した。
 そんなある日、4人組不良少年の誘いを断れず、二人は彼らと共にカラオケに行き、麻薬を飲まされかけレイプされかかる。防身スプレーをかけて何とかその場を逃げ出したものの、その翌日不良少年たちが復讐に来てブースのガラスを全て割られてしまう。警察に連絡したくない彼女たちは老郭を思い出して連絡すると、老郭は走り回って後始末をつけてくれる。彼をただのビジネスマンではないと感じた二人。だが、いつもブースにうるさくたかってくる警官を彼があしらっている様子を見て、二人は彼が警官であることを悟る。
 その一方で、麻薬中毒で若い女性が死亡する事件が発生する。多くの警官が単にジャンキーのオーバードープによる死亡事故だと見るなかで、老郭だけは事件性を感じ、部下に電話記録の検索や捜査をやらせようとするのだが、上司も周辺も、なぜ小さな麻薬事故に彼がそんなにこだわるのか理解できない。
 やがて老郭は被害者の友人で大学生の純純(房思瑜)が怪しいと目星をつけ始めるのだが、名望家の娘である彼女は老郭の捜査を止めさせようと、弁護士を頼み、議員に依頼して何とか捜査を止めさせようと妨害工作に入る。
 一方、く小雯は、自分の母が入っている老人ホームに老郭がボランティアに来て、痴呆状態の母に何か話しかけるのを聞いて、彼が何かと彼女の家族のサポートをしようとするのは、彼女の父の冤罪に彼が関わっていたのではないかと疑い始める。実は彼女の父は麻薬中毒者だったが、覚えのない強姦殺人事件で起訴されて服役。そしてそのショックで母親は脳の発作を起こして倒れ、痴呆状態になったのだった。彼女の警官嫌いはそこに根があったのだ...

 刑事を天職として、妻とも離婚し、子供たちともはなれ、一人孤独に旅館住まいを続ける老郭。その彼が贖罪意識から続けるく小雯とその家族への支援。そしてく小雯が老郭に抱く気持ちが、父の冤罪を巡ってどんどんずれていき疑惑に変わっていく切なさ。そしてどんなに贖罪しようとも、過ちを許す(あるいは許される)ことの難しさ...
 人々の持つアンビバレントな思いが思いが交錯し、しかし結局その思いが一つに結集せずあくまでもずれたまま焦点を結ばない切なさが切々として表現されると共に、次々に膨らんでいく疑問、疑惑の謎でもって、観客の視線を巧みに引きつけるプロット。
 そして庶民の警察権力への不信の目という現実、貧しい庶民たちの生活の困難さ、そして独裁国家であった過去(おそらく韓国と同じように)警察がどのように人々を痛めつけてきたのか、その暗い歴史を浮き彫りにしていく社会性が巧みに織り込まれている(その背景には本省人の国家権力への根強い不信感があると思われる)。
 これは傑作。Highly Recommended!!

 『多桑』の蔡振南の哀愁を帯びた名演も嬉しい。

 なお、本作品は日本未公開。TIFFの今年の台湾特集でもスルーされているが... おそらくTIFFのセレクターは興行成績だけで選んだか、さもなければ眼が節穴なのだろう。フィルメックスで拾っても良い作品だと思うのだが...

 なお、台湾盤DVDの画像フォーマットは4:3レターボックス。ただしパッケージに正しく4:3と表示されているようになったのは評価できる。納得できないのは本編がレターボックスで、付加映像ディスクがアナモルフィックという矛盾。これはやはり本編をアナモルフィック収録にして欲しかった。また、画像は、一部日本盤DVDのように全般に妙に白浮きし、画像のダイナミックレンジも多少浅めというのが残念。プロジェクター等で視聴する場合は可能であればブライトネスをかなり落としてご覧になることをお薦めする。

原題『眼涙』英題『Tears』監督:鄭文堂
2009年 台湾映画

DVD(台湾盤)情報
発行: Welcome International 発売: 台聖多媒体 画面: NTSC/4:3(LB1:1.78) 音声: Dolby5.1 閩南・北京語 本編: 110分
リージョン3 字幕: 英/中(On/Off可) 片面一層(付加映像を含む2枚組)2010年 6月発行 希望価格NT$399

鄭文堂監督前作『夏のしっぽ』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200808/article_7.html

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