なぜ日本上映話がない?ハリウッドリメーク決定のイスラエル相撲映画 『サイズの問題』

画像 アメリカの禁煙社会を皮肉った『サンキュー・スモーキング』という映画があったが、煙草と並んで目の敵にされているのが肥満。イスラエルでも肥満が目の敵にされているのは同様なようで(もっとも煙草には寛容なようだ)、それを皮肉ったイスラエル製コメディ映画が本作。太った主人公が日本の相撲と出逢うことで、ダイエット強迫神経状況から救われるというお話。

 舞台はイスラエル、テルアヴィヴ近郊の都市、ラムラ。テルアヴィヴ・ベングリオン国際空港にほど近い町である。空港レストランで調理師として働く当年35歳のエルズル(Itzik Cohen)は155kgの肥満男性。料理学校で日本料理を習った経験もありクスクスが得意料理。だが上司に、お客さんに太っていて見苦しいから、客の前に姿を現さず、ずっと厨房内に籠っていろと命じられる。さらに、一所懸命通っているダイエットセミナーでは、彼のダイエット成績が伸びるどころかむしろ太ってしまい他の生徒の悪影響を与えると、生徒の中で彼ひとり事務所に呼びつけられ、先生から怒られる。
 頭に来た彼は、ダイエットセミナーも空港レストランを辞め、とりあえず新聞広告に求人募集をしていた日本料理店「シブヤ・ジャパニーズ・レストラン」に、皿洗いでも良いからと転職する。そこでは度々相撲の中継が流され、店内には相撲の装飾品が。日本人の従業員に聞くと、店長のキタノ(伊川東吾)がかつて日本で相撲の行司をしていた経験があるという。これだ、と手を打ったエルズルは、ダイエットセミナーでなかなか体重が減らず自己嫌悪に陥っていた友人4人を連れ出し、相撲クラブの結成を決める。とりあえず廃屋を見つけて、そのなかの紅一点のゼハヴァ(Irit Kaplan)とともに、土俵を整備する。そんな中、肥満のため今まで女性と付き合ったことのなかったエルズルと、やはり何度も離婚を経験したゼハヴァは親密になっていく。
 ところが、エルズルがキタノに相撲クラブのコーチ就任を依頼すると、彼はもう相撲のことなど思い出したくないと申し出を拒絶する。他の日本人従業員に聞くとキタノは相撲界と関わりのあったヤクザとトラブルを起こして、相撲界を飛び出しイスラエルまで逃げてきたからそうなのだろうという。一方、すでに日本人のコーチも決まっているから相撲クラブに参加してくれと吹き込まれていた友人たちからは日本人のコーチはどうしたのかと矢の催促。
 ついにエルズルは、キタノに自分と相撲の取り組みをし、自分が負けたら潔く諦めると勝負に出る。エルズルは負けてしまうが、キタノは彼の心意気をかってコーチ就任を受諾する。しかし彼がコーチに就任すればしたでまた一騒動。日本では女は相撲を出来ないと、ゼハヴァをメンバーから外すようキタノは要求。
 二人でゼハヴァのアパートに戻り、ゼハヴァが相撲を出来ないのなら、自分も相撲をやらないとエルズル。しかし、ダイエットの道に戻ったとて所詮、自己否定を受けるだけ。ついにゼハヴァに内緒でエルズルは相撲の練習に戻るのだが...

 肥満が本人にとって健康に良くないことは確かだし、ダイエットすることに越したことはないのは事実であるにしても、煙草のように副流煙によって他人に被害を与える訳ではない。にもかかわらず、過剰なまでにダイエットが喧伝され、肥満者の人格を否定するような風潮が蔓延している現実を風刺するコメディ映画。そんな中で、日本人としては日本の相撲が彼らの「解放」に一役買っているというのも面白いし、海外から「Sumo」がどう見られているのか、という観点からも興味深い。
 単なるコメディだけではなく、社会批評、ロマンス、友情と様々な内容を含んだ作品。世界50カ国余りの映画祭に招待され、いくつかの賞を受賞し、ハリウッドでも来年のリメークが決まったというのもうなずける。
 ちなみにイスラエル・フィルム・アカデミー賞では、主人公役を演じた俳優を差し置いて、恋人のゼハヴァ役を演じたItzik Cohenをさしおいて、ガールフレンド役を演じたIrit Kaplanが主演女優賞を受賞しているが、これは、男性より、より痩せているべきだという固定観念が強い女性において、それを打ち破るチャーミングなおデブちゃん像を提示できた彼女への賛辞であると解釈できるだろう。
 またキタノを演じている伊川東吾は、国内では知名度が低いが、イギリスに本拠のある日本人劇団「一座」を拠点に活動しており、主にイギリスで日本の演劇を英語に翻訳して上演する活動を行っているほか、海外で製作される多数の映画で日本人役を演じている。元々は黒テントで13年間活動した後、ロイヤル・シェイクスピアカンパニーで活動していた経歴を持つ2)。

 因みに、日本料理店の店長の名前がキタノであり、ヤクザとのトラブルがあったかも知れないという設定は、やはり北野武監督、ならびに彼の作品にヤクザが度々出てくる影響だろう。

 監督のErez Tadmorは、1974年テルアヴィヴ出身。テルアヴィヴ・カメラオブスキュラ映画学校を卒業。主にGuy Nattivと組んで多数の短編映画を撮ると共に国際的な注目を浴びてきた。本作が初長編映画。
(以上 本人公式Webより http://ereztadmor.tumblr.com/)

 Sharon Maymonも同じ学校の出身。(以上サンフランシスコ・ユダヤ映画祭Webより http://www.sfjff.org/film/biography?id=4816&last=Maymon&first=Sharon&role=Director)

 ところで、これだけ国際的に話題になっており、相撲という日本にも因縁の深い題材が扱われているにも拘わらず、日本で上映するという話題がなぜか一向に出て来ないのはおかしい。日本のTV番組でも紹介されたこともあるのだが1)。
 おそらくその理由は、映画の中で相撲とヤクザとの関係が示唆されているためではないだろうか。そして折り悪しく、実際に角界における暴力団の野球賭博問題が問題になってしまった。ただ、イスラエルの映画監督が角界とヤクザとの関係を知っていたとは到底思えないし、おそらく北野武監督の映画のイメージだけで、角界がヤクザと関係があるかも知れない、という話にしたのだと思う。しかも、映画の中ではその話はあくまでも従業員たちの噂として提示されるのであって、噂される店長本人には否定させている。しかし運悪く偶然にも的中し、上映するに出来ない状況になってしまったのではないだろうか。もし、既に本作の国内配給権を買ってしまった配給会社があれば今頃地団駄を踏んでいるだろう。
 まぁ、私は角界に、「相撲の品格」だの何だのといって、過度の浄化を求めるのもどうかと思う。むしろ、相撲界は、国技のタイトルも公益法人も文部科学省の指導も返上し、株式会社にでもして、市場原理に任せて自分たちがやりたいようにさせれば、と思ってしまう。ついでに国際化も果たして外国人力士だって、自分の国籍を捨てなくても親方になって部屋を持てるようにしてやればいいのでは?また所詮フィクションなのだから、本作の国内上映にだってめくじら立てずおおらかな気持ちで前向きに検討して欲しいと思うのだが。

 それに加えて感じたのは、どうやら北野武作品が世界に称賛されればされる程、それが全世界に向けて、日本社会はヤクザに支配されている、という日本社会に対するネガティブイメージを振りまいているらしい、ということである。イスラエルのような、日本に対する情報量が少ない国程、その影響は大きそうだ。フジサン、ゲイシャに加えて、新たにヤクザ、という具合か?

 なお、DVDに関しては、字幕なしイスラエル盤(United King刊行)、それにイスラエル以外では韓国盤、フランス盤(Gie Sphe-Tf1刊行)が出ている。フランス盤のタイトルは"Sumo"。なお、アメリカでも一般劇場公開されているので、いずれ英語字幕のDVDも出ると思われる。筆者の鑑賞は韓国盤。

1)2010年2月19日テレビ東京「世界を変える100人の日本人!JAPAN☆ALLSTARS」で紹介されている。

2)劇団「一座」伊川東吾プロフィール http://www.ichiza.co.uk/togo%20igawa%20ja.html

原題『Sippur Gadol(סיפור גדול‎)』=[でっかいお話] 英題『A Matter of Size』
監督:Sharon Maymon および Erez Tadmor
2009年 イスラエル=ドイツ=フランス映画

DVD(韓国盤)情報
発行・販売:テギョンDVD 画面: NTSC/16:9(1:1.85) 音声: Dolby2 ヘブライ語(一部日本語) 本編: 93分
リージョンALL 字幕: 韓(On/Off可) 片面一層 2010年 8月発行 希望価格W22000


「イスラエルで相撲映画?」(拙ブログ)
http://yohnishi.at.webry.info/201002/article_2.html


公式サイト(K5 International)
http://www.k5international.com/current-films/a-matter-of-size
US公式サイト
http://www.menemshafilms.com/a-matter-of-size.html
France公式サイト
http://www.ocean-films.com/sumo/

『サイズの問題』韓国盤DVD (韓国・教保文庫販売サイト 韓国語)
http://www.kyobobook.co.kr/product/detailViewDvd.laf?ejkGb=DVD&mallGb=DVD&barcode=8809270690872&orderClick=LAL

『サイズの問題』フランス盤DVD (Amazon France販売サイト 仏語)
http://www.amazon.fr/Sum%C3%B4-Itzik-Cohen/dp/B003NA7GSS/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=dvd&qid=1284709150&sr=8-1


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この記事へのコメント

2010年10月12日 05:32
私、この映画にシェフ訳で参加していました。友人が”2010年2月19日テレビ東京「世界を変える100人の日本人!JAPAN☆ALLSTARS」”の取材をしていました。日本で放映されなかったのが残念です。面白い映画だと思いますが・・・
yohnishi
2010年10月12日 05:50
コメント有り難うございます。せっかく日本とゆかりのある映画ですからねぇ... あとはハリウッド・リメーク版公開のタイミングで公開されるかどうかですね...

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