中国国境警備隊の治安活動を追う 趙亮監督ドキュメンタリー『罪と罰』

画像 フランスINA、趙亮作品集DVD収録の一編。中国-北朝鮮国境、鴨緑江川岸の遼寧省・太平湾(中朝国境の町として有名な丹東から北東に川をしばらく遡ったところにある)において、町の治安を警察の代わりに担う国境警備隊の青年たちの日常を追う。

 太平湾では、国境地帯であることもあり治安維持業務を通常の警察ではなく、軍組織の一環である国境警備隊が担っている。本作品を見る限り、中国の一般の警察組織はあまり規律がしっかりしていないようで人々の信頼が低いようだ。それに対し軍の一部である国境警備隊は鉄の規律を誇り、起床時の、寝具整理の手順も事細かに決められている。そのため地域住民の信頼は絶大であり、地域の代表者は通常の警察と異なり警備隊が警察業務を担ってくれているので、治安も良く保たれ非常に有り難いと感謝の念を示しに来る程だ。
 だが兵士たちの日常の警察業務は辛く徒労感の多い毎日だ。
 住民から死体が転がっているとの通報を受け、すわっ、殺人事件かと駆けつけてみれば、アル中気味の男が、布団の重なりを見て死体があると錯覚して通報してきたのだった。どうもこの男、酒を飲んでは幻覚を見て虚偽通報をしてくる常連のようで、母を捜し出して、酒を飲ませすぎないように、そして二度度虚偽通報をさせないようにと散々説教して放免。
 別の日には、ゴミ捨て場を勝手に漁っている老人を拘束。中国では廃品回収をやるには町の商務当局の許可証が必要なのだが、その老人は許可証を持たず勝手に漁っていたのだ。ところが署に連行すると老人は商務当局に登録はしてあるはずだ、何でお前らが知らないんだと、無許可で廃品回収をしていることを頑として認めようとしない。では、許可証を自宅に取りに行ってこいと言うと、家に帰る交通費がない、息子に届けさせるが、今息子は忙しい、明日でいいだろ、と、老人は散々粘ったあげく、とにかく本人が許可証を取りに行かない限り、荷物と荷馬車は没収だというと、ようやく自宅に取りに行くことに同意する。おそらくここまで説得するのに数時間。
 そして老人が署に戻ってきて、持っているという許可証を見ると、期限が5,6年前に切れている。切れているではないかと指摘すると、毎年更新料を払っているのに役所が新しい許可証を渡さないのだとかまたまた老人は言を左右して、決して無許可のまま自分が廃品回収していることを頑として認めようとしない。おそらく日本だったら、許可証の更新料を払っているのに新しい許可証を渡さないということはあり得ないのだろうが、中国では100%そんなことがないと言い切れないだろうからそこが困難なのだ。
 とにかく、ようやく老人に自分が無許可で廃品回収をしていたことを認めさせ、そして決して無許可で再び廃品を拾わないと約束させるまでに、一晩徹夜。取り調べの係官も疲労の色が濃い。だがその後のテロップで、その老人は再び無許可のまま廃品回収を始めたことを告げる。
 そして別の日は、検問で捕まえた無許可木材伐採の三人組。取り調べにそらっとぼける容疑者たち。これも散々苦労してなんとか、無許可伐採の事実を認めさせるが、取り調べ時に係官が容疑者の顔をたたいたことが、反対に家族から問題にされ、結局罰金はその分を差し引いて減額されることに。結局容疑者たちは減額された罰金を払って、違法に伐採した木材は持って行っていいということになってしまった。係官である兵士の苦労は徒労に終ったようなものだが、しかし、このような犯罪が起こる背景として彼らの住む地域がきわめて貧困であるということがあるのだ。そのことは兵士たちも十分分っている。
 そんな中で、自分の仕事の厳しさと徒労感に悩む兵士たちはストレスで、頭が禿げてしまうものも多い...

 中国の田舎の貧困層は、映画『秋菊の物語』にも描かれたように、何か起こるとどうも意固地を徹底的に張るという戦略に出るものが多いようだ。おそらく不条理が多い中国社会において、それが学のない彼らにとって唯一かつそこそこ効果的な戦略だからなのかもしれない。
 だが、それが明らかに彼らの側が法秩序に反している場合でも、その戦略は遺憾なく発揮される。そもそも彼らはそんな近代的な法秩序をあまり信じていないのだろう。しかし、最も近代的原理の貫徹した軍の一員である国境警備隊は、近代的な法秩序維持を貫徹させようと熱心に仕事をしようとする。近代的原理と前近代的原理のせめぎ合いの中で、その一線にある兵士たちは、その矛盾を一身に引き受け、徒労感から来るストレスを受けることになる。おそらく中国の警察が真面目に仕事しないというのもまさにこの社会矛盾を感じる中でどうやり過ごしていくのかという戦略の結果であろう。2年程度で除隊することが分っている彼らだからこそ、徒労な任務であってもなんとかやれるのだ。

 『北京陳情村の人々』を見た後本作を見て、あの膨大な陳情者の群れが生まれた一番の大きな原因は社会の不条理や不正であるにせよ、それだけではなく原因は陳情者側にもあるように思われた。それと共にこの膨大な徒労、エネルギーのムダをどうしたらなくしうるのか、あるいは解決は無理なのだろうか... ということを改めて考えさせられた。

 本作品もフランス、INAの出資を得て制作されている。また日本未公開。

原題『罪與罰』英題『Crime and Panishment』監督:趙亮
2007年 中国=フランス映画

DVD(仏盤)情報
発行・発売:INA 画面: PAL/4:3(1:1.33) 音声: Dolby2/3 中国語 本編: 122分
リージョンALL 字幕: 仏/英 片面二層(他の作品も含め3枚組) 発行年2010年4月 希望価格 € 29,90

趙亮作品集DVDボックス紹介ページ
http://yohnishi.at.webry.info/201006/article_13.html

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