陳情に人生を賭ける人々を映したドキュメンタリー映画 『北京陳情村の人々』

画像 中国・北京、北京南駅近くにある政府の陳情受付事務所。ここには中国全土から陳情に来る人々が集まってくる。長い人は陳情のため、事務所の近くに泊まり込み何年もこの事務所に通い続ける人も多い。この事務所に集まる人々の姿を1996年から2008年に亘って追い続けたドキュメンタリー映画。

 映画は、何年も陳情所に通い続けるQさん母子の姿を中心に人々の姿を追う。Qさんは夫が職場の健康チェック(人間ドックの様なものか?)を受けた直後急死した。Qさんは職場の健康チェックが問題だったのではないかと訴えると、職場側は逆にQさんが夫を殺したのだと告訴。彼女は逮捕・拘留されてしまう。数ヶ月に亘る取り調べの後、職場はQさんの夫の死は自然死だと認めたものの、職場は夫の死の責任は認めようとしない。地方レベルでは責任追及の埒があかないのでQさんは上京し、泊まり込みで、陳情所に通い始めたのだった。だが陳情所では多くの場合通ってきた回数だけは記録するものの大半の訴えは受理されず、それでも粘ると強制排除されるのがオチ。それでも人民代表会議などイベントが行われる度に、受理されやすくなると、人々は連日の様に陳情所に長い列を作る。

 陳情所付近にはこのように連日陳情所に通うために何百人、いや何千人が泊まり込んでいる。その人たちは陳情者用の安宿か、あるいは橋の下などで野宿している。陳情者の集まるこの地域を、人々は陳情村と呼ぶ。
 人々が野宿する理由は金の節約のためだけではない。追っ手の手を逃れるためでもある。地方政府は万一陳情者の陳情が中央で受理されてしまうと、その地方政府の大きな失点となるため、追っ手を雇って手荒な手段で陳情者を連れ戻したり、取りやめさせようとする。場合によると陳情者を強制的に精神病院へ入院させることもある。毎日の様に陳情所の周囲では追っ手と陳情者の間で暴力沙汰が繰り広げられ、時に追っ手の手を逃れようと逃げ出した陳情者が列車にはねられて死亡・大けがをする事故も頻発している。

 Qさん母子に監督が最初に出逢った時、娘は12歳だった。彼らは陳情所に通う合間に、北京の交通地図を売って金を稼いだり、市場へ行き野菜屑を貰ってきたり。だが娘は同年代の子どもと違って学校にも通えない。娘は何年も陳情所に通っているうちに自我も芽生えてきて自分の境遇に疑問を感じる様になる。やがてボーイフレンドもでき、現在の自分の境遇に我慢ができなくなり、母への置き手紙を監督に託して、ボーイフレンドとともに列車で出奔する。
 監督はQさんに娘の手紙を手渡すが、母親は手紙を読もうともせず監督を非難し、監督の撮影を拒否する...

 ... そして、2008年北京オリンピックを控えた陳情村。北京南駅の陳情村はオリンピックに向けた再開発のため、強制的に整地されあたりは瓦礫の山。陳情村のあった痕跡はほとんどない。陳情所自体も北京の郊外に移転することになり、陳情者たちも郊外へと移動を余儀なくされる。
 そして再開発され新しい北京南駅の完成、オリンピック... だが郊外に移転した陳情者たちの生活は場所が変わっただけで、それ以外は何一つ変わらない...

 付加映像として収録されている監督のインタビューによると、これらの陳情の未だ多くの部分は文革の際の名誉回復を求めるものだと言うが、それだけではなく、地方政府の腐敗、都市再開発による市民の権利の侵害など陳情の数は増え続けており、状況はいっこうに改善される気配はないようだ。

 本作品は、経済発展に湧く中国の暗黒の裏面を見せる作品であると同時に、合理性を超えて、陳情をすること自体が人生そのものになってしまっている人々の姿を通して、改めて、一体、人生の意味、生きていくことの意味とは何なのか、人間の自尊心や尊厳それ自体をも問い直していく、そんな力を持ったドキュメンタリー作品となっている。

 なお、陳情者の心情理解には本作品と合わせて張藝謀監督の『秋菊の物語』をご覧になると良いと思う。

 本作品は、カンヌ国際映画祭に、競争部門外で招待されるとともに、国内では2009年東京フィルメックスにて上映された。

原題『上訪 / 』英題『Petition』監督: 趙亮(ZHAO Liang)
2009年 中国=フランス映画

DVD(仏盤)情報
発行・発売:INA 画面: PAL/4:3(1:1.33) 音声: Dolby2/3 中国語 本編: 124分
リージョンALL 字幕: 仏/英 片面二層(他の作品も含め3枚組) 発行年2010年4月 希望価格 € 29,90

趙亮作品集DVDボックス紹介ページ
http://yohnishi.at.webry.info/201006/article_13.html

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

驚いた 驚いた

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック