結末には絶句... 人種差別意識をえぐる大問題作 『Sorry, Haters』

画像 先日、障碍者差別の悪意を露悪的に表現した韓国映画『人を探しています』を紹介したが、本作はそれを上回る問題作にして、衝撃作。こちらは人種差別意識(racism)を扱っている。

 ニューヨーク、マンハッタンのシリア人タクシードライバー、アサド(Abdellatif Kechiche)はたまたまある白人女性(Robin Wright Penn)を乗せる。彼女は裕福なキャリア女性に見えたが、どこかミステリアス。後にフィリーと名乗る彼女は郊外のある住宅の前で降りると、割増料金を払うのでしばらく待っていて欲しいとアサドに頼む。
 その家から夫婦と子供の姿を認めると、最後に石を拾ってきてその家の自家用車の側面に大きく傷をつけ、再びタクシーに戻ってくる。再び、中心街に戻る途中でアサドは途中、兄の妻グロリアから電話で連絡が入り、客の彼女に了解を得て、妻エロイーズのアパートに一瞬立ち寄る。
 アサドの兄はカナダの市民権を持っていたが何らかの誤解で米当局に拘束されグァンタナモ収容所に送られてしまった。彼のフランス人の妻グロリアは夫を釈放させようとアサドの家の近くに移って来たが、英語は殆ど話せない。アサド自身は化学の博士号を持ち中東の故国でエンジニアとして働いていたが、アメリカへ来てタクシー運転手の仕事しか見つからず、やむを得ずそれで生計を立てている。
 そんな話を聞いたTV番組プロダクションの社長だという自称フィリーは、「自分の」オフィスに彼を連れて行き、知り合いの弁護士を紹介するという。だが彼と通話した彼女は、弁護士がこの問題に関心を持たず助けられないとアサドに告げ、その上、弁護士に相談料が掛かったとして、その晩の料金を含めて彼の貯金を巻き上げる。頭に来たアサドはそのオフィスから飛び出す。
 だが数日後、彼女からアサドのエロイーズに対する思いを愚弄する電話が入る。そのうえ、グロリアとアサドがテロを計画しているという彼女の偽の通報により、エロイーズと子供は逮捕され、アサドは逮捕を逃れるためにホテルを転々とする羽目に...
 数日後「フィリー」に抗議のため、アサドは彼女に連れて行かれたオフィスに行き彼女に会おうとするが、実はその会社の経営者の「フィリー」とは全く別人のアジア系アメリカ人の女性(Sandra Oh)であり、自称フィリーは、その会社で会計を任せられているフィービという女性であるという意外な事実が明らかになる。さらにフィービとフィリーは元々は美術系大学の同級生。フィービの初恋の白人男性ポールはフィリー取られ、今はフィリーの夫になっていると共に、フィリーは会社の経営者、そしてフィービはその下で働く単なる一従業員という関係であることも明らかになる。
 結局彼女は、白人の自分が、人種的に「劣る」アジア系の元同級生のリッチな経営者下、ペーペーの一従業員として、安月給で働かされる地位に甘んじざるを得ない上に、初恋の男性をも奪われてしまったことに対しフラストレーションを溜めており、そのはけ口として、9.11後アメリカ社会全体から白眼視されていたアラブ系移民であるアサドを標的に選んでいたのだ...
 フィービに仕返しをするために彼女のアパートに忍び込んだアサドは...

 とにかく、白人によるアラブ系移民に対する憎悪、悪意、人種差別意識の凄まじい噴出に、見れば誰もが必ずむかつきを覚えざるを得ないであろう。何よりもムカつくのは、奴らはどうせ社会から白眼視されている連中なのだから、フラストレーションのはけ口にしても構わないという、白人の狡賢い意識である。

 だがそのような意識は決して他人事ではない。例えば2008年11月の元厚生相事務次官連続襲撃事件。あの犯人の襲撃理由はとんでもない理由であったが、だがその裏には、世間から悪く言われている官僚なのだから、自分のフラストレーションのはけ口にしてしまっても構わないんだという、フィービのような小狡い考えが潜んでいたのではないだろうか。

 そんなことはれは極端で、自分とは全く関係ない発想? そうだろうか?皆から白眼視される存在に対してなら、自分のフラストレーションのはけ口の対象として、幾ら誹謗中傷しても自分が非難を受ける心配はないから安心... そんな小狡い発想で「正義」を自称する言論(時に言論に留まらないかも)暴力はざらにあるのではないか?そんな発想は例え「正義」を自称していたとしても元厚生相事務次官連続襲撃事件や本作のフィービの行動の延長線上にあるのではないだろうか?

 決して万人に勧められる映画ではない。本作の後味の悪さは衝撃的。だがそのあまりにも衝撃的で絶句せざるを得ない後味の悪さ故、本作は見る価値があるし、考えさせられる。志ある人は是非ご覧頂きたい。

 監督のジェフ・スタンザーはimdbによると、『Jumpin' at the Boneyard』(1992)『Mocking the Cosmos 』(1996)『Love Gets You Twisted』(2002)それと本作の4作品の登録がある。
 またアサドを主演したアブドラティフ・クシシュは東京国際映画祭でも上映された『クスクス粒の秘密』の監督でもある。


原題『Sorry, Haters』監督:Jeff Stanzler
2005年 アメリカ映画

DVD(US盤)情報
発行 IFC Films 発売:genius entertainment 画面: NTSC/4:3(LB1:1.78) 音声: Dolby5.1 英語
本編: 87分 リージョン1 字幕: 英/西 (On/Off可) 片面一層 発行年2006年8月 希望価格 $19.95


『クスクス粒の秘密』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/200907/article_4.html
『人を探しています』映画評
http://yohnishi.at.webry.info/201003/article_9.html

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