『The Cove』はオリジナル版を見ないと批判できない?

画像 いろいろ話題沸騰になっているイルカ漁告発映画『The Cove』であるが、ともかく映画を見てみないと話にならないので、アメリカ盤DVDを入手。すでにたくさんのサイトで内容が紹介されているので、改めてここでその内容を紹介することはしない。

 ただここでイルカ漁反対運動を行っている人物、リック・オバリーはあの「わんぱくフリッパー」の調教師だったのだ。つまり、後に多くの水族館で模倣されるようになったイルカ曲芸を開拓したパイオニアがまさに彼であり、その彼が、元々は自分が開拓した事業を止めさせようと奔走していることの意味は小さくない。彼は、調教師当時ポルシェを乗り回していたそうだが、今から考えればその金でイルカたちを水族館から買い戻し、海に放してやるべきだったと、後悔の念で語っている。
 太地町が取り上げられたのは、イルカ漁をやっていることもさることながら、現在全世界の水族館に曲芸用イルカを供給している最大の供給元が太地町のくじらの博物館であることからのようだ。彼らの主張によれば、曲芸用の生きたイルカは一頭15万ドルで販売され、その売り上げは町と漁協で分配されるという。確かに市町村合併の荒波の中でこのような小さな町が単独でやっていけるのには町に相当な財源が必要なはずだ。
 また本作品の中で、イルカ肉の水銀汚染の問題も指摘されている。このなかで北海道医療大学の遠藤哲也准教授が、太地町で買い求めたイルカ肉から2000ppmという高濃度の水銀が検出されたと語っている。これは特異事例かもしれないが、ただイルカ肉が一般的に水銀濃度が高いことは間違いないようだ。ただこれはマグロも同様であり(そのことは映画の中で指摘されている)、また鯨肉に関しても(そもそも鯨とイルカは殆ど区別がない)言えることだろう。

 なお、ちょっと気になった点があったので指摘しておきたい。

 ある、東京国際映画祭で本作品をご覧になった方のブログで、入り江の一面がどす黒く染まった画面が出て、ここでイルカの虐殺が行われたとほのめかす映像が入っているが、それが事実なら、実際にそこで虐殺している映像が撮れたはずである、それなのにそのような映像がないので、実際に殺しているかどうか分からないことを憶測やムードだけで印象づけるような映画はドキュメンタリーとしてどうなのか... というような批判を書かれていた。

 しかし、アメリカ盤DVDを見てみると、漁師たちがその入り江でイルカたちを銛で突きまくって殺している映像がはっきり出ている。イルカを銛で殺す漁を行っていることは間違いない。因みに、彼らが指摘する「殺戮の入り江」は下記の湾である。

http://maps.google.co.jp/maps?q=33.59886,135.946584&num=1&sll=33.598866,135.946476&sspn=0.00655,0.014956&gl=jp&hl=ja&brcurrent=3,0x600616fec33fd451:0xa1d13cc39b2dd9ee,0&ie=UTF8&ll=33.598455,135.948418&spn=0.00655,0.010868&z=17

 変だな、と思って上映時間を調べてみると、東京国際映画祭のサイトには上映時間の情報がない。Wikipedia日本語版の記述では、91分になっている。『ザ・コーブ』日本語公式サイトの上映時間は文字が小さくてぼけてはっきりしないが91分のようだ。だがアメリカ盤DVDは96分となっている。つまりおそらく東京国際映画祭で上映されたバージョンはオリジナルより5分短いのだ。最も残虐なシーンは日本の観客を刺激しないよう削られた可能性がある。
 このシーンがあろうとなかろうと、彼らのメッセージ部分を理解することに関して支障はない。しかし映画作品として批判をするならば日本版ではなくオリジナル版を見てみないと話にならないだろう。今後国内でも公開される予定があるようだが、おそらくオリジナル版が公開されることはないだろう。

 しかし、今回本作品の上映時間を調べていて東京国際映画祭のサイトから「ザ・コーブ」の日本語データがなくなっているのには笑わされた。英語データは残っているのに... こんな姑息なことをやるから、ずるいジャップと欧米人から思われちゃうんだよなぁ...

 『The Cove』に対しては賛否色々あるだろう。私としてはやはり欧米の異文化の食文化に対する偏見に彩られている側面は否定できないと思う。イルカを殺すのが可哀想なら、では牛や豚はどうなのか?日本のイルカ、クジラ食や韓国や中国の犬食がだめで、牛や豚が良いという基準はどこから来るのか?そもそも一切動物を食べるべきではないというならまだ分かるが。

 しかし、それはそれとして、一方で、こそこそ密かにやっていたイルカ漁を明るみに出したからけしからん映画だ、という本作に対する批判は、個人的にはどうかと思う。「盗撮」だからけしからんと言うが、そもそも我々が誇るべき立派な食文化だと自信を持てるなら、最初から取材拒否をせずに堂々と取材に応じるべきだ。関係者が彼らの取材を拒否した時点で、元々倫理にもとると認識しながらイルカ漁を行っていると疑われても仕方がない。

 何よりも彼らの主張のポイントは、まさにそこにある... つまり、堂々とやっている鯨漁は日本の伝統食文化であると仮に100歩譲ったとしても(でも本来は鯨猟も、イルカ猟も反対であるが...)、イルカを殺すことに関しては日本人の多くは、倫理にもとると認識している(多くの日本人はイルカをかわいいと感じているし、食べようなんて思っていない)。にもかかわらず、日本人の倫理にさえもとるダーティーな漁を太地の人々が密かに続けており、伝統文化だと強弁して、時にはイルカ肉をクジラ肉と偽って出荷までして漁を続けている、というところにあるのである。

 そして、本作品の最大のエンタテインメント性は、その密かにこそこそやっているダーディーなイルカ猟を「スパイ大作戦」顔負けの大作戦で暴いていくところにあるのだから。

『The Cove』アカデミー賞受賞の波紋
http://yohnishi.at.webry.info/201003/article_8.html

"The Cove"オフィシャルサイト(英語・日本語・中国語)
http://www.thecovemovie.com/


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この記事へのコメント

ponvhibimie
2010年05月12日 19:11
他の動画で見たんですが、昔は、地元の子供達にも見学させたり、オープンにやってたと思います。
カラー映像で、隠し撮りではなく普通に撮られていること自体、イルカ漁が堂々と行なわれていたことを示しています。
そこへ突然、異国の狂信的な団体がやってきて、無許可の撮影、猟の妨害、漁具の破壊活動、挙句には世界中に漁民を中傷するキャンペーンを毎年展開し始めたもんだから、閉鎖的になったんじゃないでしょうか?
あなたは400年間、ずっと隠されてきたと思いますか?
私は、彼らが日本人の倫理にさえもとるダーティな事をコソコソとやっているとは思いません。
そして牛や豚の屠殺が、町の往来で堂々と公開されていますか? 屠殺はダーティですか? 
もしあなたが生き物を食べるなら、大変卑怯な考えだと思います。
勿論、苦痛を軽減する工夫はなされるべきだと思いますが。
yohnishi
2010年05月12日 22:31
>中傷するキャンペーンを毎年展開し始めたもんだから、閉鎖的になったんじゃないでしょうか?

捕鯨に関しては、中傷キャンペーンを散々やられているにもかかわらず、堂々と調査捕鯨をやっていますが、何か?

太地の人たちは、ソウルオリンピックの時に慌てて路地裏に補身湯屋を隠した韓国の真似をなぜしなきゃいけないんでしょうかね?
shunsuke
2010年07月13日 14:34
>イルカを殺すことに関しては日本人の多くは、倫理にもとると認識している(多くの日本人はイルカをかわいいと感じているし、食べようなんて思っていない)。

そもそも、この前提に偏見があると感じます。
私は、イルカのことをかわいいと感じ、食べようと思っていないにしても、イルカ漁が倫理にもとるとは認識していない。ただイルカを殺すだけという行為と、イルカ漁は別のものとして認識しています。イルカ漁をダーティーだと決めつけてしまうあなたの言う倫理は、少なくとも太地の人々とは相いれないものでしょう。これが文化の違いです。
yohnishi
2010年07月14日 00:39
 本稿はThe Coveにある彼らの主張のポイントならびに西欧においてどの部分が圧倒的な支持を受けているかを要約して紹介しているものであり、私がイルカ漁をダーティーだと考えている訳ではありません。
 但し、日本人は、西欧においてこのように受け止められているという事実には正面から向き合う必要があると思いますし、日本人が国内で上映反対運動をしたからといって、西欧人がこのように考えている事実が変わる訳ではないということは自覚すべきであると思います。

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  • 『The Cove』上映中止騒動

    Excerpt:  『靖国』に続いて『The Cove』も上映中止騒動が起こっているようだ。 Weblog: yohnishi's blog (韓国語 映画他) racked: 2010-06-06 05:10