『The Cove』アカデミー賞受賞の波紋

 日本のイルカ漁を批判したアメリカのドキュメンタリー映画『The Cove (入り江)』がアカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞した。
 その受賞を伝えるTVのワイドショーなどのメディアの反応である、決してメッセージが評価された訳ではなく、エンタテインメント性が評価されたから受賞した、と必死に何とか思い込もうとしている態度が笑えた。そんな訳ないだろう。メッセージ性にエンタテインメント性が付け加わったからこそ評価されたのだろう。

 日本国内には許可なく隠し撮りカメラで撮っていたいうことを問題にする議論もあるが、アメリカ人には、イルカ漁という「巨悪」を前にして、隠し撮りカメラで撮るという「小悪」のどこが問題になるのかと一蹴されてしまうだろう。

 もちろん、自分の文化基準で他者の文化を斬っている独善的映画だ、という批判はその通りである。しかし、アメリカ人の十字軍的独善性は今に始まった話ではない。ヨーロッパ人は、歴史的に独善的価値観を押しつけあって何度も血みどろの戦いをやってきたので、もはやそれでは済まないということにある程度気がついている。しかし、アメリカ人は歴史が浅い分、未だにナイーブな独善的価値観が大手を振ってまかり通っている。

 その典型は、先のイラク戦争だろう。先のブッシュ政権はフセイン政権がアルカイダと結びついている、大量破壊兵器を隠し持っているとして先制攻撃を仕掛けた。だが、世界常識で考えればそもそもフセイン政権がアルカイダと結びつくはずはない。
 もともとアルカイダはイスラム原理主義。それに対し、フセイン政権は、本人はイスラム教徒であるにせよ、宗教原理主義と対立する世俗主義的原理で政権を運営してきた。だから、アメリカはイスラム原理主義に傾くイスラム教シーア派のイランを牽制する手段として過去フセイン政権を利用してきたのだ。それが宗教原理主義と結びつくはずがないし、宗教原理主義はフセイン政権にとっても都合が悪いはずである。そして大量破壊兵器を隠し持っているという話は、イラク戦争後全く根拠がなかったことが明らかになった。要はアメリカが、独善的な十字軍的名目を掲げた、実のところイラクの石油利権を狙った戦いだったのだ。

 そのアメリカの独善的「正義」を無批判に支持したのが小泉政権の日本だった。そしてイラク戦争参戦理由が全く無根拠であったことが明らかになった今日、日本人は、日本がアメリカのイラク戦争を支持したことに対し何の総括もしていない。

 『The Cove』がアメリカ人の独善的価値観に基づいて作られていることは間違いない。しかし、イラク戦争でアメリカに与えた支持も総括できない日本人に今更アメリカ人の独善性を批判する資格がある筈はない。

"The Cove"オフィシャルサイト(英語・日本語・中国語)
http://www.thecovemovie.com/


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この記事へのコメント

ponchibimie
2010年05月12日 18:54
日本のイルカ漁を、強引に小泉批判に持っていき、日本人に反論する資格がないという結論を導くあたり、とても朝日っぽいなあと感じました。

この記事へのトラックバック

  • 『The Cove』はオリジナル版を見ないと批判できない?

    Excerpt:  いろいろ話題沸騰になっているイルカ漁告発映画『The Cove』であるが、ともかく映画を見てみないと話にならないので、アメリカ盤DVDを入手。すでにたくさんのサイトで内容が紹介されているので、改めて.. Weblog: yohnishi's blog (韓国語 映画他) racked: 2010-04-06 00:02
  • 『The Cove』上映中止騒動

    Excerpt:  『靖国』に続いて『The Cove』も上映中止騒動が起こっているようだ。 Weblog: yohnishi's blog (韓国語 映画他) racked: 2010-06-06 05:10