在米コリアン2世の若者たちを描く『Yellow』

画像 日本にも在日韓国人たちがいるが、最近韓国人の移民先で多いのはやはり何と言ってもアメリカ。在米韓国人1世の立場を描いた作品は『ディープ・ブルー・ナイト』やロス暴動を描いた『ウェスタン・アヴェニュー』など、既に何作も知られている。最近ではキム・ソヨンの作品なども韓国でDVD化されている。しかし、在米コリアン2世の立場から作られた映画は殆ど知られていない。おそらくそれは韓国においても同様だろう。
 その中にあって、本作品は数少ない在米コリアン2世の立場から製作された貴重な映画。

 シン・リー(マイケル・デホ・チョン)はLAに住む在米コリアン2世の18歳の高校生。ちょっと気が弱くお人好しの所があり、父親はそれをもどかしく思っている。また彼は家父長的な父を恐れ、父に刃向かうことが出来ない。彼はそろそろ卒業だが、家計に余裕がないので大学進学は奨学金を申請して、当分父の店で働きながら申請が通るのを待っている状態だ。父、ウン・リー(オ・スンテク)は在米コリアンの典型で苦労して下町に食料品店を開いて経営している。
 そして彼には何人かの在米コリアン2世の友達がいる。リーダー格のアレックス(バート・ブロス)、お調子者のヨーヨー(ジェイソン・J.・トービン)、美人のミナ(メリー・チェン)、下手なピアノを弾き容姿にコンプレックスを持っているグレース(アンジー・スー) etc. それとそのグループから距離を置いているがシンのガールフレンドであるテリー(ミア・スー)。父親は息子の友達やガールフレンドを余りよく思っていない。
 彼らの大半は親の世代の韓国人的思考パターン(家父長制、見栄を気にする等)にうんざりしており、何とか飛び出したいと思っている。そんな彼らは金曜の晩に集まって自分たちだけの卒業式をやろうと、身分証を偽造して酒を買ったり準備に余念がない。
 だが、その金曜の晩、シンは、父親から、父母が祖母の家に行くので店番をするよう言い渡される。店を閉めれば良いというシンに、そんなこと出来るかと一喝する父。そしてふて腐れたままシンは店番をすることに。そこへ黒人3人組の強盗が押し入り、店の売上金$1500を奪われてしまう。
 だが、やすやすとお金を奪われたことを父親に酷く叱責されるのではないかと恐れて、警察への通報も、父親への報告も出来ないシン。そこでシンの仲間たちが何とか助けようと集まって、何とか金をかき集めるが、$1500に及ばない。そこでアレックスが自分の叔母(エミリー・クロダ)から安く車を買い、転売して儲けようとアイディアを出す。叔母に文句を言われながらも何とか車を調達するが、その車は盗まれてしまい、更に窮地に...
 いよいよ追い込まれてしまったシンとアレックスは仲間と別れて更に決定的な行動に出ようとする...

 とにかく現在の在米コリアン2世たちがどんな意識を持っているのかを知らせてくれる、非常に貴重な映画。コリアンであることにコンプレックスを持ち、一生食料品屋の親父で終わりたくない、何とか在米コリアン社会から抜け出したいと思いつつも、なかなかままならず、結局仲間同士でつるむしかない現状。そのような閉塞状況を、ガールフレンドのテリーの助けを借りて、きちんと現実、及び父親に立ち向かおうとするようになるシンの一晩の成長過程を描く。
 その一方で朝鮮戦争で修羅場をくぐった父親世代が2世世代に対し、軟弱だともどかしく思っている世代間葛藤もしっかり描かれている。

 あと、非常に笑える場面として在米コリアン社会にもムーダンがいること。シンとアレックスの行方が分からなくなった時に、スネーク・アジュンマ(蛇おばさん)というシンの母親の知り合いのムーダンが彼らの行方を占うのだが、「クッ・リチュアル」をしようと言って(「クッ」とはムーダンの行うお祓い)、英語で呪文を唱えながら、英語で精霊の憑依を演ずる姿には笑わされた。
 また映画の冒頭で、「パパさん」と呼びかけられた父親が「コリアンとジャパニーズの区別も付かないのか」と言い返す場面も印象的。その一方で、アレックスの叔母さんが、青年たちを迎える場面で一言日本語をしゃべるのだが(演じてる女優は日系)、それはスルーになっている。多分、アジア系2、3世社会では日本語や韓国語の幾つかの単語がスラングとして定着し、元が日本語なのか韓国語なのか当人たちも分からない状況になっているのだろう。

 本作はもともとはインディペンデント映画として製作され、1998年サンダンス国際映画祭で審査員賞候補。また各国の映画祭に招待された。ただし日本国内で上映はされていないと思われる。

 監督のクリス・チャン・リーは、韓国系アメリカ人でカルフォルニア大学の映画学科を卒業。本作の後に、2006年に『Undoing』を撮っている。また日本人映画監督、大川俊道と組んで『ダブル・デセプション -共犯者-』(菊川怜の初主演映画)の脚本も担当。また、シンガポールのTV局で英語ドラマを制作して受賞したり、MTVの製作を行うなど、アメリカではアジア系アメリカ人のフィルムメーカーのパイオニアと目されているようである。

原題『Yellow』監督: Chris Chan Lee
1997年 アメリカ映画

DVD(US盤)情報
発行:Vanguard Cinema 画面: NTSC/4:3(LB1:1.85) 音声: Dolby2 英語(一部韓国語) 本編: 90分
リージョンALL 字幕: なし 片面一層 発行年2001年3月 希望価格 $19.95

参考 Wikipedia Chris Chan Lee (英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/Chris_Chan_Lee


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    Excerpt:  2005年のカルフォルニアが舞台となったアメリカ映画。息子もいるある中国系アメリカ人の中年女性の結婚を巡るドタバタをテーマにしたコメディ。様々な文化的摩擦状況を笑いのネタにしている。 Weblog: yohnishi's blog (韓国語 映画他) racked: 2012-06-15 08:00